神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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6話

夫の本心が知りたい<6>――Side希美――

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「いきなり離婚届を置いて、出て行くってないでしょ!」

 私の話を聞いた井上さんは険しい表情を浮かべ、キレ気味に言った。
 斜向かいに座る彼を見ると、気まずそうな表情を浮かべていた。

「入院中の妻捨てるとかって、マジ、クソだな」

 彼の隣に座る青山君は本気で怒ってくれているようだったけど、これ以上、彼が気まずい思いをしたら困るので、少しだけフォローをする。

「私も最初はそう思ったんですけど。でも、私、夫のこと忘れちゃってるし。顔も思い出せないし。私がそんな状態だったから、会わずに離婚した方が私が傷つかずに済むと思ったのかなって思ったりもして」

 心の中で、そうなの? と思いながら彼を見ると、彼は視線を逸らした。

「希美さん、人が良すぎ! 自己中夫がそこまで考えてる訳ないじゃないですか!」

 井上さんが高いテンションのまま声を上げて、それに青山君も続く。

「自己中夫は倉田さんの記憶喪失を利用して捨てたんですよ」

 二人が言う通りに、確かに彼は自己中夫だ。でも、それだけではない気がする。だから、そう話したら、井上さんと青山君は気のせいだと言った。彼の本心が知りたくて、緊張しながら彼に質問した。

「佐藤さんも、気のせいだと思いますか?」

 彼を真っすぐ見つめながら答えを待った。
 彼は視線を下げ、考えるようにテーブルを見た。

「僕は……」

 そう呟いた彼は、何かを決断したように私に視線を向けた。

「僕も青山君と同意見です。気のせいだと思います。少し厳しいことを言いますが、倉田さんは自分が傷つかないように、ご主人のことをそう思いたいだけなんですよ。離婚した方がいいです。倉田さん、自己中なご主人のことは忘れて、新しい人生を踏み出して下さい」

 離婚して新しい人生を踏み出せなんて酷い。
 こんな中途半端な状態で踏み出せる訳ない! どうして記憶喪失の私を捨てたの? なんで勝手に私の前から消えたの! そう言いたかった。でも、彼との今の関係を壊せば、また彼が消える気がして言えなかった。

「すみません。私、ちょっと」

 これ以上、彼を目の前にして冷静でいられなかったからレストランから出た。
 彼が追いかけてくるかと思ったけど、来たのは青山君だった。この時は青山君で良かった。もし彼だったら、私は本音をぶつけていたかもしれない。

 *

 木更津から帰って来ると、もう夕方だった。結局、彼の本音を聞けないまま解散となった。
 野島崎灯台近くの厳島神社で彼と会えたのは、神様がくれたチャンスだと思った。だから、「一緒にお参りしませんか」と誘った。
 彼と社殿にお参りをした。お賽銭箱に一番大きな硬貨を投げ入れて、二礼してから、パンパンと二拍手し、お願いごとをした。

 ――どうか、彼の本心が聞けますように。離婚の原因が聞けますように。

 一所懸命にお願いした。
 願いが叶うのなら、私の全てを差し出していいと思った。それほど、彼の気持ちを知りたかった。
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