雨宮課長に甘えたい

コハラ

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拓海さんの気持ち

《5》

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「佐伯リカコの事では優柔不断ですまない。彼女を切れないのは、結婚していた時、彼女を幸せにできなかったという負い目があるからだ。俺は宣伝部でバイヤーの仕事をしているのが好きだった。世界中の映画祭に行って、映画を買い付けて、それが当たった時の嬉しさは言い尽くせない程だった。仕事に夢中だったよ。気づくとほとんど家に帰る事はなくなっていた。彼女にも、優真にも沢山寂しい想いをさせてしまっていた。そして、優真が病気になって俺は自分が酷い夫で父親だった事に気づいた。毎日、彼女に責められるのは当然だと思った。優真が病気になったのも、彼女の言うように俺のせいな気がして」

拓海さんが深いため息をついた。

「そんな事ありません! 拓海さんのせいじゃないです! 悲しいけど、それが優真君の運命だったんです」

「運命か。奈々ちゃんはそんな風に言ってくれるんだな」

「だって本当に拓海さんのせいじゃないと思うから。優真君だってそんな風に思っていないと思います」

「ありがとう。奈々ちゃん。奈々ちゃんのそういう所に救われるんだ。奈々ちゃんはいつも俺を癒してくれる。だから甘え過ぎていたのかもしれない。すまない。奈々ちゃんに沢山、辛い思いをさせたね」

「いえ」

「佐伯リカコにハッキリと言うよ。これ以上は恋人のふりは出来ないって」

えっ……。

「いいんですか?」

「奈々ちゃんの気持ちを聞いてハッキリとわかったよ。彼女の事はもう過去の事だ。今、俺が大事にしなきゃいけないのは奈々ちゃんだ。大事な人をもうニ度と失いたくない」

拓海さん、私を選んでくれるんだ。

なんか目がうるうるしてくる。

嬉しい……。

涙が頬を伝う。

「あ、ごめんなさい。これは嬉しくて」

慌てて涙を拭おうとしたら、私の手よりも先に拓海さんの手が伸びて、人差し指で流れる涙をそっと拭ってくれる。

「奈々ちゃん、別れるのはやめよう。これからは奈々ちゃんが寂しくないように側にいるよ」

拓海さんが弱々しく微笑んだ。

「私でいいんですか? 私、わがままですよ」
「いいよ」
「沢山、甘えますよ」
「俺も沢山、甘えるから」

二人で顔を見合わせて自然と笑顔になる。

「奈々ちゃん、俺のそばにいてくれる?」
「はい」

私の返事を聞くと拓海さんが嬉しそうな顔をした。

「隣に行ってもいい?」
「もちろん。どうぞ」

拓海さんがコーヒーカップを持って私の隣に移動する。

「抱きしめてもいい?」

そんな風に聞いてくる拓海さんが可愛くて、甘い気持ちになる。

「はい」

拓海さんの腕の中にすっぽりと収まる。
拓海さんのいい匂いがする。とっても安心する。

拓海さんの胸に顔を押し付けると、今度は「頭撫でてもいい?」と聞かれた。

「拓海さん、いちいち聞かなくてもいいですよ」
「奈々ちゃんに叱られる気がして」
「叱りませんよ。何をしてもいいですよ」
「じゃあ、一緒にお風呂入ってもいい?」
「はい。もちろん……え! お風呂! お風呂一緒に入るの?」
「奈々ちゃん、一緒に入りたがっていただろ? せっかく今夜はホテルに泊まるし、実現できるかと」
「私、そんな事言いました?」
「仙台の温泉旅館で俺に入って欲しいと言ったじゃないか」

貸切風呂の件、拓海さんまだ気にしていたんだ。
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