雨宮課長に甘えたい

コハラ

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嵐のあと

《2》

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11月に入ると総務部は創立記念パーティーの準備で慌ただしくなった。特に拓海さんは普段の業務に加えて司会進行という重要な役をやる事になり、各部署との打ち合わせなどで忙しそう。

「中島さん、打ち合わせをしたいのですが、今、大丈夫ですか?」

忙しい拓海さんが庶務係までやって来て、私を呼んだ。
オフィスでの拓海さんは無表情でちょっと怖い。

私たちがつき合っている事はまだ内緒にしてある。内緒にしておいた方がいいと言ったのは拓海さん。

恋人のふりをする事は佐伯リカコの不倫の手助けをする事になっていたので、ごく一部の人からお叱りのメールを拓海さんは頂いているようだ。

つき合っている事を公表して私にもそんなメールが送られて来たりする事を拓海さんは物凄く心配している。

それぐらい私は平気なんだけど、でも、今は拓海さんの為にも余計な波風を立てない方がいいと思って内緒にする事にした。

「雨宮課長、大丈夫です」

眼鏡越しの目と合うと、つい表情が緩みそうになる。

昨日は日曜日で、一日中、拓海さんと一緒にいて幸せだった。

「会議室が空いていないので、カフェバーで」

拓海さんとカフェバーで打ち合わせなんて嬉しい。
スキップしたいのを我慢して、拓海さんの半歩後ろを歩いた。

12階のカフェバーからは日比谷公園が見下ろせる。
窓際のカウンター席で、紅葉した公園の景色を眺めながら幸せを感じる。

隣に拓海さんがいる。濃いグレーのスーツが素敵。
昨日は拓海さん家にお泊りして、今日のスーツは私が選ばせてもらった。

カッコイイな。拓海さん。

でへ。

「中島さん、仕事中だよ」

書類から視線を上げた拓海さんが叱るように言った。

「僕の話を聞いてる?」
「えっ」

やば。拓海さんが麗し過ぎて聞いていなかった。

「困った人だな」

拓海さんがため息をつき、ブレンドコーヒーに口をつけた。
たったそれだけの仕草に目を奪われる。拓海さんがする事は何でも優雅に見える。

「雨宮課長、すみません。こんな風に課長とカフェバーに来れた事が嬉しくて」
「そうですか。では、仕事の話に戻ります」

拓海さん、全然隙がない。
ちょっとぐらい甘い顔をしてくれてもいいのに。

「それで、宣伝部で聞いたけど、中島さんが宣伝部のコーナーの時に司会に立つの?」

久保田に頼んであった事だ。

創立記念パーティーで宣伝部一押しの作品を上映する事になっていて、そのコーナーを私が担当させてもらえる事になった。

「はい。宣伝部は今、来月公開の『ラストヒロイン』のプロモーションと、ロングランしている『今日子』で忙しいですから、私が作品紹介の時は司会に立ちます。雨宮課長の許可が必要でしたか?」

「今聞いたから大丈夫です。上映作品に変更はありませんか?」
「そこに記載されている通りです」

拓海さんがじっと私の顔を見る。
恋人の緩い表情ではなく、仕事中の真剣な表情で見つめられてドキッとする。

頬が熱い。

なんで拓海さん、黙ったまま見つめてくるの?
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