【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

文字の大きさ
10 / 88
契約夫婦のすれ違う日々

10

しおりを挟む
 同居を始めたといっても、若佐先生と私はほとんど時間が合わなかった。
 お互いに仕事をしていた事もあり、朝は私が先に家を出て行き、夜は若佐先生が遅く帰ってきていた。私がシフト制の仕事をしており、休日が不規則だった事もあって、なかなか休みが合わず、仕事から帰宅してからも、お互いに自分の時間を過ごし、食事や洗濯、掃除も各自でやっていた。
 同居を始めた直後に、私が二人分の家事をやろうとしたが、料理を焦がし、洗濯物を色落ちさせ、更に掃除機に衣服を詰まらせて壊してしまった。そこまでやってしまうと、若佐先生は私が家事の一切が出来ないのを悟ったようで、自分の分の家事は自分でするようになってしまった。私も反省して無理に二人分の家事をやりたいとは言わず、自分の分だけするようにしたのだった。
 たまに休日が重なった時は、若佐先生に誘われて、一緒に食事に行く事もあったが、その時もほとんど会話らしい会話をしなかった。
 それも仕方がなかった。同居前、婚姻届を記入した時に知ったが、二十三歳の私に対して、若佐先生は二十九歳と六歳の歳の差があった。そうなると、やはり話題が微妙に合わず、また若佐先生が寡黙で、話しかけてもあまり会話が盛り上がらず、趣味も合わなかったので、いつも私が一方的に話して終わるだけとなってしまった。

 それがしばらく続くと、やがて会話らしい会話はほとんどしなくなり、何か用事があれば、スマートフォンで最低限のメッセージを送り合うくらいしかしなくなった。
 少しの寂しさはあったが、条件付きの一時的な結婚なので、こんなものだろうと考えていた。

 若佐先生も「籍を入れる以外は、夫婦らしい事は特に何もしなくていい」と言っていたが、結婚指輪を購入しないどころか、結婚式を行わず、新婚旅行に行かず、新婚生活さえも他人行儀でどこか冷めていた。
 あくまでも若佐先生は他人であって、私達は一時的に夫婦として同居をしているだけ。目的が達成されたら別れる関係。家賃や生活費なども、若佐先生に頼ってばかりいるのは良くないからと、私も少額ながら負担している事もあり、その意識はますます強くなった。

 それでも若佐先生との同居は、決して居心地の悪いものでもなかった。
 ほとんど会話がないからといっても、若佐先生はぞんざいな扱いをしなかったし、私が質問すれば丁寧に答え、頼みをすれば聞いてくれた。
 これだけでもパワハラに遭っていた職場に比べれば、かなりマシだった。
 でも、ただそれだけであった。
 心はお互いに離れたまま。時折、「このままでいいのだろうか」と、不安と空虚が入り混じった気持ちになるが、何も出来ないまま、時間だけが過ぎていった。

 そして、その年の夏の終わりに裁判が閉廷し、私の敗訴が決まった。
 私が上告しない事を決めると、私は今の会社を退職した。
 敗訴した事で職場に居づらくなったというのもあるが、元々、前の職場で崩した体調が完治していなかった事もあり、裁判の結果に関わらず、療養の為、近い内に仕事を辞めようと決めていた。
 療養をしながら、仕事で忙しい若佐先生の役に少しでも立てるように、家庭の事に専念したいという気持ちもあった。
 上告はせず、職場を退職して、これからは療養と家庭の事をしたいと若佐先生に話した時、若佐先生は何か言いたげな顔をしていたが、私が裁判を引き受けてくれた礼を述べると、苦虫を噛み潰したような顔をして無言で立ち去ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

処理中です...