【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩

文字の大きさ
82 / 88
まだ伝えていない言葉があるんだ!【楓視点】

82

しおりを挟む
 ようやくタクシーは空港に着くが、支払いが非常にもどかしく感じられて苛立ちを隠しきれなくなる。ずっと急かしていたからか、タクシーの運転手は不機嫌そうだったが、そんな事を気にしている余裕はなかった。
 支払いを終えてタクシーを飛び降り、空港を出入りする人を掻き分けて中に入ると、すぐに飛行機の発着時刻を知らせる電光掲示板に駆け寄る。ざっと見ると色を失ったのだった。

(日本行きの飛行機がもうすぐ搭乗開始してしまう……!)

 搭乗してしまったら、今度こそ終わりだ。もう小春に追いつく事は出来ない。
 日本行きの飛行機の搭乗口を確認すると、空港内を走り出す。

「小春……っ!」

 行かないでくれ、置いて行かないでくれ、一人にしないでくれ。これからはもっと君を愛するから、夫として相応しい男になるから、離婚しないでくれ、いなくならないでくれ、俺の前から消えないでくれ、側にいてくれ――。

「小春! 小春ー!」

 叫んでいる間も何人もの人とぶつかり、その内の数人が小さく悲鳴を上げ、怒鳴っている者もいた。周囲の人達も怪訝な目で見てくるが、そんな事を気にしている余裕はなかった。日系人と思しき人がいれば片っ端から確認して、小春じゃないと分かると、すぐに走り出した。

「小春っ……! こはるっ!」

 ずっと声を張り上げていたので、息が上がってしまう。こんなに大声を出したのは初めて小春と出会った日以来だろうか。身体中が汗でべたついて気持ち悪い。眼鏡がずり落ちてきたので、片手で掴んで外してしまう。
 ここまで何かに必死になった事はこれまでなかった。一人の人を愛して、求めた事も――。

「小春ー!」

 その時、搭乗開始を知らせるアナウンスが空港内に響き渡った。とうとう時間になってしまったのかと身構えたが、国内線の案内と分かり、安堵の息を吐く。

「小春! 小春……! 返事をしてくれっ!」

 ――まだ君に、伝えていない言葉があるんだ!

 エスカレーターを駆け上り、日本行き飛行機の搭乗口近くの椅子を見て回っていた時、吸い寄せられる様に、とある一点を見つめると、じっと固まってしまう。
 深呼吸を繰り返して、駆け出したい気持ちを押さると、靴音を立てながらゆっくり近づいて行く。
 ようやく、目的の人物を見つけたのだった――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

処理中です...