後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ

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第二章 想い人との日常

おまけ

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 私は生まれたときから、皇帝になることが決まっていた。

 幼い頃から皇帝になるために必要なことを学び、皇帝である父が母以外の妃のところに通っていることも知っていた。

 それは皇帝として必要なことなのだと。

 父は病気で倒れるまで、様々な妃の元へと通っていた。

 皇帝として。

 もちろん、国のために王宮でやるべき仕事はしていたし、国の長である皇帝としての姿は尊敬していた。

 けれど後宮で何歳になっても色々な女の元に通っている姿だけは、何だかとても情けない姿に見えていた。

 だが父がなくなり、実際に自分が皇帝になってみて、皇帝の務めとして十何人の妃ができると、私も彼女たちの元へ通わなければいけなくなってしまった。

 情けないと思っていた父と、同じようなことをせざるを得ない。

 皇帝だから。

 もし自分が皇帝でなければ……一人の愛する女性を妻にして、生涯愛し愛されて人生を終えたいと思う。

 けれど、そんなことは許されない。

 なぜなら私は皇帝だから。

 皇帝としての務めを果たしていく内に、いつしか女の目を見るだけでどんな人物なのかが分かるようになってきた。

 親の野心のために輿入れさせられた女、自身の野心のために輿入れしてきた女、皇帝の妃になるべく育てられた女、他に好いた相手がいる女、国のためにと励む志高い女。

 無理やり輿入れさせられた女には同情したが、野心丸出しの女共はどうにも好かなかった。

 だが、だからといって避けるわけにもいかず、色々な女と出会い、床を共にした。

 そして通っても大丈夫な女と、通うと面倒なことになる女とを選別できるようになり、通わない女には贈り物をしたり、少し茶を共にするぐらいで機嫌を取るようになった。

 正直、後宮がなぜ皇帝のための花園と呼ばれているのか理解できなかった。

 私にとっては様々な思惑が入り乱れる地獄のような場所で、私はその地獄でうまく立ち回らなければならない管理人のような存在になっていたからだ。

 皇帝として世継ぎを作らねばならぬからと、好きでもない女を抱く。

 別の日には違う女を抱く。

 別の日には贈り物をして、女の機嫌を取る。

 そんなことをただひたすらに繰り返していたある日、また新しい妃が輿入れしてきた。

 よく働く貴族役人・チェンの娘で、娘の希望でぜひ妃にということだった。

 勤務態度も良く、人柄も家柄も良いチェンたっての希望ということもあり、すぐに輿入れが決まった。

 チェンから娘の話を聞いたことはなかったが、初めて彼女を目にしたときは驚いた。

 まるで天女のような美しさで、侍女を連れて歩いている姿は、まるで絵画から飛び出してきたかのような現実味のない光景に思えた。

 だが、それ以上に私を驚かせたものがある。

 彼女の目だ。

 彼女の希望での輿入れということだったが、彼女の目からは私への恋慕など感じられず、むしろ他に好いた者がいるような目とよく似ていた。

 しかし好いた者を諦めた女とも、好いた者と無理やり引き離された女の目とも違っていて……彼女の瞳からは、惹き込まれるような強い意志が感じられた。

 私は胸が高鳴るのを感じた。

 他の妃とは明らかに違う目……その目を持つ彼女が、これから私に何を見せてくれるのか、楽しみでならなかった。

 彼女から……彼女の瞳から、目が離せなかった。

 早く会いたいという気持ちを抑えて、やっと彼女の宮を訪れることができた日……彼女から後宮に来た事情を聞いた。

 宦官になった想い人を追いかけてきたという、ただ傍にいたいのだという力強い瞳が、また私を惹きつけた。

 好いた男のために、好きでもない男の元に嫁ぐ……嫌々でもなく、諦めるでもなく、どこまでも駆けてくる覚悟と行動力に、とてつもない魅力を感じた。

 ――それからは、地獄のようだった後宮で過ごす日々が一気に彩りを放つようになった。

 彼女のために宦官となった想い人を彼女の宮の担当者にして、彼女から感謝の言葉を聞いたり、恋の進捗はどうか尋ねたり。

 私も彼女に好いてもらいたいと仕事の合間を縫ってお茶を共にしたり、庭園を散策したり、食事を共にしたり……純粋に楽しかった。

 彼女の喜ぶことは何だろうか、どうしたら自分にも関心を向けてもらえるだろうかと考える時間は、とても幸せに満ちていた。

 そして、自分の好意とは反していることは分かっていながらも、彼女の恋もうまくいけば良いなという想いが浮かぶ。

 不思議な感覚だった。

 皇帝になるべくして育った私に、普通の恋なんて分からないけれど……私にとってはこれが初恋で、彼女の心からの笑顔を見るだけで、心に温かいものが広がるのを感じる。

 こんな感情、他の妃には抱いたことはない。

 機嫌を取るために贈り物をすることはあっても、何を贈れば喜んでくれるかなんて考えたこともなかった。

 今までの私は、ただの皇帝だった。

 けれど、彼女に恋して……初めて、私は自分自身になれた気がする。

 他の妃には申し訳ないと思いながらも、最低限の皇帝の務めだけ果たして、今は彼女との時間を、思うままに楽しもう。

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