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第四章 二つの顔
第十三話
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「本日は私のために、このような宴を催していただき、ありがとうございます。我がハディ国とロン国との友好関係百年を祝うと共に、これからのさらなる良好な関係を願います」
ロン国では見かけない美しい金髪金眼、身体に沿うような細身な礼服を身に纏った女性が、そう言って手にした銀杯を掲げて乾杯の音頭をとる。
「ハディ国とロン国に、乾杯」
そしてそれに続くように皇帝陛下がそう告げて、同じように銀杯を高らかに掲げる。
すると、舞台上に立っている二人よりも一段下、中央の空間を開けて左右にいた王宮役人たちが「乾杯!」と言って、同じように銀杯を掲げた。
皇帝陛下の隣に座っていたわたくしも、それに倣って銀杯を掲げる。
そうして皆が酒を口に運ぶと、舞台の前、開けられた中央の空間にスススっと美しい衣装を身に纏った女性たちが現れ、楽団の曲に合わせて美しい舞の披露を始めた。
皇帝陛下と金髪金眼の女性は自分の席に戻ると、その舞を整った笑みを浮かべながら鑑賞し始める。
――毒味対策のおかげか大きな危険に晒されることなく、平和な日常を過ごしていたある日、隣国・ハディ国の姫君であるガルシア様が訪問された。
両国の友好関係百年を祝うためということで、我が国では姫の来訪を歓迎する王宮主催の大きな宴をやることとなった。
わたくしは、今日は皇帝陛下の妃として、客人をもてなす役目を命ぜられて、この宴に参加している。
参加している妃はわたくしの他に、ファン様、フォンス様もいらっしゃる。
席順は左からファン様・フォンス様・皇帝陛下・わたくし・ガルシア様の順だ。
二人ともわたくしと同じように、客人であるガルシア様をもてなすように言われているはずなのだが、フォンス様は皇帝陛下に纏わりつくようにはしゃいでおられる。
対照的に、ファン様は緊張されているのかガチガチに固まっていて、とてもではないが客人をもてなす余裕はないように見える。
そして席順を思うと、皇帝陛下もこうなることは予想されていたのだろう……つまりは、わたくし一人で客人をもてなせと言われているのだろうということにすぐ思い至った。
もし粗相をしたら、両国の友好関係にヒビが入り、国際問題になりかねない。
慎重にいかなければ。
わたくしはガルシア様に向けて、笑みを浮かべながら話しかける。
「ガルシア様。宴は楽しんでいらっしゃいますか?」
「ええ。ロン国の舞というものは、私の国のダンスとまた違った趣があって良いわね」
するとガルシア様はこちらにニコッと笑みを返しながら、気さくな言葉遣いで返事をしてくださった。
姫とは思えないほどの気取らなさに少し驚きながらも、笑みを崩さずに会話を続ける。
「此度の宴はガルシア様を歓迎するため、ロン国としても力を入れたものなので、ガルシア様のお気に召したのであれば、皇帝陛下もお喜びになるでしょう」
「まぁ、そうなのね。私のためにありがとう。後で改めて皇帝陛下にもお礼を伝えなければね」
そう言って、ガルシア様はわたくしの奥にいらっしゃる皇帝陛下の方を見やる。
かと思うと、わたくしの方に身を乗り出すようにしながら、ちょいちょいと手でわたくしにも同じようにするよう促してくる。
不思議に思いながらも、わたくしもガルシア様の方に身を乗り出すようにすると、ガルシア様は口元に添えるように手をやりながら、小声で話し始める。
「ロン国の皇帝陛下はカッコいい方ね。普段からあのように凛々しい方なの?」
ガルシア様からの突然の密談に少し驚きながらも、笑顔で「はい」と答える。
まさか後宮のわたくしの宮では、年相応の青年のように見えますよなど、隣国の姫君にお伝えできることではないから。
わたくしの返事を聞いたガルシア様は、口元に両手を持っていき、くぅーっと何かを噛み締めているような表情をしたかと思うと、言葉を続ける。
「羨ましいわ。威厳ある若き名君……私もこの国の出身だったら、結婚相手に選びたかったわね」
突然の言葉に驚き、笑顔のまま返答に困って固まっていると、わたくしの様子に気がついたガルシア様がクスっと笑みをこぼす。
「安心して。そんなことにはならないから。ハディ国とロン国はあくまでも対等という建前があるから、私が皇帝陛下に嫁ぐなんてことは絶対にありえないわ」
ガルシア様は残念そうに、茶化すように……それでいてハディ国の姫という立場を理解した上で、そう語った。
かと思うと、もう一度皇帝陛下の方を見やり、また口元に手を添えるようにしながら小声に戻る。
「それに……あの様子だと、妃同士の関係が面倒くさそうだしね」
あの様子というのは、皇帝陛下に纏わりつくようにしながら、キャッキャッとはしゃいだ声を上げているフォンス様のことを仰っているのだろうと、そちらを見なくても分かった。
客人をもてなす宴を、自分と皇帝陛下のための宴だと勘違いしているのか、客人であるガルシア様の方には目もくれず、皇帝陛下に話しかけ続けている。
「せっかくの宴に、お恥ずかしいものをお見せしてしまい、申し訳ございません」
皇帝陛下に代わり、フォンス様の恥知らずな行動を謝罪すると、ガルシア様は裏表のない笑みを浮かべながら手をひらひらとする。
「大丈夫よ。どこの国でも、あぁいった妃というのはいるものよ」
ガルシア様は見慣れていると言わんばかりで、本当に気にしていない様子だった。
それでもこのような公の場であのような態度はいただけないなと、そしてなぜフォンス様の恥をわたくしが謝罪しなければならないのだと、イラッとしながらも笑みを浮かべる。
「ガルシア様の寛大なお心、感謝いたします」
「フフっ……あなたも大変ね」
ガルシア様は同情の言葉をかけてくださるけれど、その表情はどこか楽しそうだった。
ロン国では見かけない美しい金髪金眼、身体に沿うような細身な礼服を身に纏った女性が、そう言って手にした銀杯を掲げて乾杯の音頭をとる。
「ハディ国とロン国に、乾杯」
そしてそれに続くように皇帝陛下がそう告げて、同じように銀杯を高らかに掲げる。
すると、舞台上に立っている二人よりも一段下、中央の空間を開けて左右にいた王宮役人たちが「乾杯!」と言って、同じように銀杯を掲げた。
皇帝陛下の隣に座っていたわたくしも、それに倣って銀杯を掲げる。
そうして皆が酒を口に運ぶと、舞台の前、開けられた中央の空間にスススっと美しい衣装を身に纏った女性たちが現れ、楽団の曲に合わせて美しい舞の披露を始めた。
皇帝陛下と金髪金眼の女性は自分の席に戻ると、その舞を整った笑みを浮かべながら鑑賞し始める。
――毒味対策のおかげか大きな危険に晒されることなく、平和な日常を過ごしていたある日、隣国・ハディ国の姫君であるガルシア様が訪問された。
両国の友好関係百年を祝うためということで、我が国では姫の来訪を歓迎する王宮主催の大きな宴をやることとなった。
わたくしは、今日は皇帝陛下の妃として、客人をもてなす役目を命ぜられて、この宴に参加している。
参加している妃はわたくしの他に、ファン様、フォンス様もいらっしゃる。
席順は左からファン様・フォンス様・皇帝陛下・わたくし・ガルシア様の順だ。
二人ともわたくしと同じように、客人であるガルシア様をもてなすように言われているはずなのだが、フォンス様は皇帝陛下に纏わりつくようにはしゃいでおられる。
対照的に、ファン様は緊張されているのかガチガチに固まっていて、とてもではないが客人をもてなす余裕はないように見える。
そして席順を思うと、皇帝陛下もこうなることは予想されていたのだろう……つまりは、わたくし一人で客人をもてなせと言われているのだろうということにすぐ思い至った。
もし粗相をしたら、両国の友好関係にヒビが入り、国際問題になりかねない。
慎重にいかなければ。
わたくしはガルシア様に向けて、笑みを浮かべながら話しかける。
「ガルシア様。宴は楽しんでいらっしゃいますか?」
「ええ。ロン国の舞というものは、私の国のダンスとまた違った趣があって良いわね」
するとガルシア様はこちらにニコッと笑みを返しながら、気さくな言葉遣いで返事をしてくださった。
姫とは思えないほどの気取らなさに少し驚きながらも、笑みを崩さずに会話を続ける。
「此度の宴はガルシア様を歓迎するため、ロン国としても力を入れたものなので、ガルシア様のお気に召したのであれば、皇帝陛下もお喜びになるでしょう」
「まぁ、そうなのね。私のためにありがとう。後で改めて皇帝陛下にもお礼を伝えなければね」
そう言って、ガルシア様はわたくしの奥にいらっしゃる皇帝陛下の方を見やる。
かと思うと、わたくしの方に身を乗り出すようにしながら、ちょいちょいと手でわたくしにも同じようにするよう促してくる。
不思議に思いながらも、わたくしもガルシア様の方に身を乗り出すようにすると、ガルシア様は口元に添えるように手をやりながら、小声で話し始める。
「ロン国の皇帝陛下はカッコいい方ね。普段からあのように凛々しい方なの?」
ガルシア様からの突然の密談に少し驚きながらも、笑顔で「はい」と答える。
まさか後宮のわたくしの宮では、年相応の青年のように見えますよなど、隣国の姫君にお伝えできることではないから。
わたくしの返事を聞いたガルシア様は、口元に両手を持っていき、くぅーっと何かを噛み締めているような表情をしたかと思うと、言葉を続ける。
「羨ましいわ。威厳ある若き名君……私もこの国の出身だったら、結婚相手に選びたかったわね」
突然の言葉に驚き、笑顔のまま返答に困って固まっていると、わたくしの様子に気がついたガルシア様がクスっと笑みをこぼす。
「安心して。そんなことにはならないから。ハディ国とロン国はあくまでも対等という建前があるから、私が皇帝陛下に嫁ぐなんてことは絶対にありえないわ」
ガルシア様は残念そうに、茶化すように……それでいてハディ国の姫という立場を理解した上で、そう語った。
かと思うと、もう一度皇帝陛下の方を見やり、また口元に手を添えるようにしながら小声に戻る。
「それに……あの様子だと、妃同士の関係が面倒くさそうだしね」
あの様子というのは、皇帝陛下に纏わりつくようにしながら、キャッキャッとはしゃいだ声を上げているフォンス様のことを仰っているのだろうと、そちらを見なくても分かった。
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