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第六章 ハディ国にて
第二十二話
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宴が終わり、わたくしは王城内に用意された客間へと戻ってきた。
「ふぅ……」
部屋に備え付けられている一人用の風呂場で身体を温め、寝間着に着替えて、すでに寝る準備はできていた。
「ハディ国はすごいわね。部屋毎に風呂をつけているなんて……」
そんな誰にも聞こえない独り言を漏らしながら、窓際に置かれた椅子に腰掛ける。
緊張からなのだろうか、それとも慣れない場所だからなのだろうか、なかなか眠る気になれない。
美しく整えられた寝台をちらりと見てから、わたくしは部屋の窓からぼんやりと空を眺める。
町並みも住まう人々もロン国とは全く違うけれど、空だけはロン国から眺める景色と変わらないからこそ、わたくしの心に安堵をもたらしてくれていた。
そしてふっと、皇帝陛下のことを思い出す。
妃のもとに通うのは休もうかなんて仰っていたけれど、今頃何をなさっているのだろうか。
さすがにお仕事は終わっているだろうか……ご自分の宮に帰られているのだろうか……。
イェン兄様とは定期的に業務連絡をするため会っているとは言え、会えない日の方が圧倒的に多いので、正直に言ってそこまで寂しさは感じない。
けれど、皇帝陛下とは短時間でも頻繁にお会いしているので、こんな風に会わずに過ごしていると何だか違和感がある。
思えば後宮に入ってから、皇帝陛下とこんなにも離れたのは初めてのことだ。
だからだろうか……どうしても皇帝陛下の顔が浮かぶ。
年相応な笑顔や、わたくしに寄り添ってくださるたくましい身体も、ここにはない。
「……寂しい……」
誰もいないからこそ、漏れ出た本音。
もしそんなことを皇帝陛下本人に言ったら……『ついに私に惚れたか?』と、いたずらっぽい笑みを浮かべるのだろうか。
そんな姿を思い浮かべると、少しイラッとする。
それとも『胸が高鳴る』『ときめき』と、あの時のように興奮した顔を見せるのだろうか。
そんな姿を思い浮かべると、くすっと笑みがこぼれる。
もしくは『私も寂しい』と……仰ってくださるのだろうか。
そう思うと……皇帝陛下の真剣な眼差しが、顔が浮かんだためだろうか、顔が少しだけ熱くなったように感じる。
けどその感情を打ち消したくて、ぶんぶんっと頭の周りの余計な思考を払いのけるように慌てて手を振る。
「なんで隣国に来てまで、後宮を離れてまで皇帝陛下のことを……!」
自分自身のことが分からなくなり、わたくしは勝手に動揺していた。
胸に手を当てて、一つ、二つ、深呼吸をして、自分を落ち着ける。
わたくしはやっと頭の中から消えた皇帝陛下の代わりに、イェン兄様のことを思い浮かべる。
イェン兄様は何をなさっているだろうか。
皇帝陛下曰く、イェン兄様は仕事の時間が過ぎても自主的に仕事をしていることが多く、帰宅も夜遅くなることが多いらしい。
もしかしたら、こんな夜更けになっていても、まだ仕事をなさっているのかもしれない。
「お体を壊されないと良いけれど……」
そんな独り言をこぼしながら、真剣な表情で書類を整理したり書き物をしたり、机に向かっているであろうイェン兄様のお姿が頭に浮かぶ。
その真剣な眼差しは、おそらく皇帝陛下のためのもので、わたくしに向けられることはないのだろう。
そう思うと、また勝手に落ち込んでしまう。
「はぁ……」
深い溜め息を吐くと、また空を見上げる。
イェン兄様も皇帝陛下も……何をしていらっしゃるのだろうか。
何を思っていらっしゃるのだろうか。
「……お会いしたいな……」
そんな独り言をこぼすと、わたくしはふっと眠気を感じる。
もうだいぶ夜も遅い。
そろそろ眠りにつくかと、椅子から立ち上がると寝台で横になり、わたくしは静かに眠りについた。
イェン兄様と、皇帝陛下のことを思いながら。
「ふぅ……」
部屋に備え付けられている一人用の風呂場で身体を温め、寝間着に着替えて、すでに寝る準備はできていた。
「ハディ国はすごいわね。部屋毎に風呂をつけているなんて……」
そんな誰にも聞こえない独り言を漏らしながら、窓際に置かれた椅子に腰掛ける。
緊張からなのだろうか、それとも慣れない場所だからなのだろうか、なかなか眠る気になれない。
美しく整えられた寝台をちらりと見てから、わたくしは部屋の窓からぼんやりと空を眺める。
町並みも住まう人々もロン国とは全く違うけれど、空だけはロン国から眺める景色と変わらないからこそ、わたくしの心に安堵をもたらしてくれていた。
そしてふっと、皇帝陛下のことを思い出す。
妃のもとに通うのは休もうかなんて仰っていたけれど、今頃何をなさっているのだろうか。
さすがにお仕事は終わっているだろうか……ご自分の宮に帰られているのだろうか……。
イェン兄様とは定期的に業務連絡をするため会っているとは言え、会えない日の方が圧倒的に多いので、正直に言ってそこまで寂しさは感じない。
けれど、皇帝陛下とは短時間でも頻繁にお会いしているので、こんな風に会わずに過ごしていると何だか違和感がある。
思えば後宮に入ってから、皇帝陛下とこんなにも離れたのは初めてのことだ。
だからだろうか……どうしても皇帝陛下の顔が浮かぶ。
年相応な笑顔や、わたくしに寄り添ってくださるたくましい身体も、ここにはない。
「……寂しい……」
誰もいないからこそ、漏れ出た本音。
もしそんなことを皇帝陛下本人に言ったら……『ついに私に惚れたか?』と、いたずらっぽい笑みを浮かべるのだろうか。
そんな姿を思い浮かべると、少しイラッとする。
それとも『胸が高鳴る』『ときめき』と、あの時のように興奮した顔を見せるのだろうか。
そんな姿を思い浮かべると、くすっと笑みがこぼれる。
もしくは『私も寂しい』と……仰ってくださるのだろうか。
そう思うと……皇帝陛下の真剣な眼差しが、顔が浮かんだためだろうか、顔が少しだけ熱くなったように感じる。
けどその感情を打ち消したくて、ぶんぶんっと頭の周りの余計な思考を払いのけるように慌てて手を振る。
「なんで隣国に来てまで、後宮を離れてまで皇帝陛下のことを……!」
自分自身のことが分からなくなり、わたくしは勝手に動揺していた。
胸に手を当てて、一つ、二つ、深呼吸をして、自分を落ち着ける。
わたくしはやっと頭の中から消えた皇帝陛下の代わりに、イェン兄様のことを思い浮かべる。
イェン兄様は何をなさっているだろうか。
皇帝陛下曰く、イェン兄様は仕事の時間が過ぎても自主的に仕事をしていることが多く、帰宅も夜遅くなることが多いらしい。
もしかしたら、こんな夜更けになっていても、まだ仕事をなさっているのかもしれない。
「お体を壊されないと良いけれど……」
そんな独り言をこぼしながら、真剣な表情で書類を整理したり書き物をしたり、机に向かっているであろうイェン兄様のお姿が頭に浮かぶ。
その真剣な眼差しは、おそらく皇帝陛下のためのもので、わたくしに向けられることはないのだろう。
そう思うと、また勝手に落ち込んでしまう。
「はぁ……」
深い溜め息を吐くと、また空を見上げる。
イェン兄様も皇帝陛下も……何をしていらっしゃるのだろうか。
何を思っていらっしゃるのだろうか。
「……お会いしたいな……」
そんな独り言をこぼすと、わたくしはふっと眠気を感じる。
もうだいぶ夜も遅い。
そろそろ眠りにつくかと、椅子から立ち上がると寝台で横になり、わたくしは静かに眠りについた。
イェン兄様と、皇帝陛下のことを思いながら。
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