後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ

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第六章 ハディ国にて

第二十三話

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「それで? どう? 最近は」

「どう……と申されますと?」

「最近の後宮のこととか、お妃様たちのこととか、皇帝陛下のこととか。ぜひ教えて!」

「そうですね……」

 今日はガルシア様とのお茶会。

 ガルシア様はかなりグイグイと後宮のことについて尋ねてくるけれど、その顔は何かを期待しているように輝いている。

 本来であれば、他国の姫君に後宮の情報を漏らすのは良くないことなのかもしれないけれど、ガルシア様からはその情報を悪用しようとする考えは微塵も感じられない。

 ただ全てを話すわけにはいかないだろうと、頭の中で情報を整理しながら言葉を選ぶ。

「後宮はガルシア様がいらっしゃった時と、特に変わりありません。妃に関しても特に人の動きはなく、変わりないですね」

「まぁ、そうなのね。ではあの時ご一緒だったフォンス様やファン様のご様子はどう?」

 私は頭の中で最近のフォンス様を思い浮かべる。

 ファン様と庭園の東屋でお茶会をしようとすると、たまに鉢合わせることがあるのだが、そんな時、彼女はわたくしの方をギッと睨みつけてくる。

 今にも射殺さんばかりの視線だ。

 現状、毒味係が毒に倒れることはないけれど、その内にまた毒を盛られるかもしれないなと、わたくしは他人事のように微笑みを返していた。

 けれど、そんな後宮の恥をガルシア様に伝えるわけにはいかないので、核心はぼかしつつ、笑顔で、正直に答える。

「フォンス様は、相変わらずお元気に過ごされていますよ」

 あれだけの目つきができるのだから、元気は有り余っていらっしゃるだろう。

 だから嘘はついていない。

 元気いっぱいのフォンス様が頭に浮かんだのか、ガルシア様はくすっと笑みをこぼす。

「彼女が元気だと、皇帝陛下はさぞ大変でしょうね」

 わたくしは肯定することも否定することもできず、ただ無言で微笑み続けた。

 そして次に、ファン様のことを思い浮かべる。

 ファン様とは変わらず、定期的にお茶を一緒にしていて、特別な変化もなく穏やかに良好な関係が続いている。

 そんな彼女が最近言っていたことをふっと思い出す。

「ファン様は最近、自分の宮の庭に植えた花が咲いたと、喜んでいらっしゃいましたね」

「まぁ。ファン様は花の精のように可愛らしい方だったから、開花を喜んでいる姿がすぐに思い浮かべられるわね」

 そう仰るガルシア様は、先程までとは違って懐かしむような、優しげな笑みを浮かべてらした。

 わたくしほどではないけれど、ファン様もガルシア様とお話させていただいた時間があるので、ファン様のお話は懐かしく感じられるのかもしれない。

 ……フォンス様は皇帝陛下に夢中で、結局ご挨拶しただけでガルシア様と関わることはなかったからな……。

 わたくしはあの時のことを懐かしみ、薄く笑みを浮かべながら遠い目をしていた。

「では……皇帝陛下との関係はどうなの?」

 そんなわたくしに、ガルシア様はぐいっと身を乗り出すようにして質問してくる。

「皇帝陛下との関係……ですか?」

 わたくしはガルシア様の勢いに負けて、身体を少し後ろへと仰け反らせる。

 ガルシア様はそんなわたくしの様子にもめげず、うんうんと首を上下に振り、キラキラと青に輝く瞳でわたくしの答えを待っている。

「特に変わりないと思い――「そんなはずないわ!」

 わたくしの言葉を遮るように、ガルシア様が声をあげる。

 突然のことにわたくしが目を瞬かせて驚いていると、ガルシア様はにんまりと笑ってこちらを見つめてくる。

「だって……メイリン様のお顔が、以前お会いした時とは全然違うもの」

「顔……ですか」

 自分の頬に手をやってみるが、思い当たるフシはまったくない。

 今日も鏡で自分の顔を見てみたが、見飽きた美しい顔立ちはいつもどおりだし、化粧を変えた覚えもない。

「最近、わたくしの侍女が恋愛結婚をしたのだけれど、彼女と同じような明るい表情をしているわ。つまり! メイリン様も恋をした……そういうことでしょう?」

 ぽかんっとしているわたくしとは対照的に、ガルシア様は興奮気味に、そして自信あり気にそう語る。

 ……恋?

 恋ならば、ガルシア様がロン国にいらっしゃった時にはすでにしている。

 イェン兄様との関係は特に進展していないし……何よりもわたくしは皇帝陛下の妃だ。

 そのわたくしに、恋をしたのでしょうと尋ねてくるのは……一体どういったお考えなのだろうかと、わたくしはただただ困惑した。
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