後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ

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第六章 ハディ国にて

おまけ

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 メイリンがいない数日間は、実に退屈で不愉快で、地獄のような日々だった。

 後宮一の美姫が不在なのをいいことに、フォンスは『自分の宮に来てほしい』とねだってきたり、行ってみれば『自分こそ皇后にふさわしい』と熱弁されたりする。

 フォンスこれの父親の顔を立てて跳ね除けずにいると、こうも増長するものかと、うんざりとした。

 そんな彼女に対する私の答えは決まっている。

「皇后には誰がなるのだろうな」

 そう返すと、フォンスは不満げな表情をしたかと思うと、改めて自分こそ皇后にふさわしいのだと繰り返す。

 そんなやり取りをメイリンがいなくなった初日にさせられて、以降はフォンスの誘いは仕事を理由に断るようになった。

 けれどフォンスを退けても、次は王宮役人たちが「メイリン様が不在の間は他の妃に目を向けられてはいかがですか?」などと言いながら、後宮にいる自分の娘をと推す。

 皇帝陛下の寂しさをきっと埋めてくれるはずだろうと。

 私の寂しさを埋めてくれるだって?

 笑わせてくれる。

 メイリン以外の妃にそんな力があるのであれば、とうに私は一人の者を決め、その者と子を成せるように通い詰めていることだろう。

 それができないから、私は妃の中でも問題のなさそうな妃を選び、皇帝の務めとして最低限の回数を通う……なんてことをしているのではないか。

 通う妃・夜伽を共にする妃は数人いるけれど、私が特別気に入っているのはメイリンだけだ。

 メイリンとであれば、義務ではなく……私自身が求める形で、床を共にすることもできるだろう。

 私とて、性欲を持った男だ。

 好いているメイリンと身体を重ね合わせたいと、全く望まないわけではない。

 けれど、彼女には他に想い人がいる。

 そして私は宦官になったその者を追いかけ、皇帝の妃になるほどの行動力と、想い人だけを見つめている彼女の真っ直ぐな瞳が気に入っている。

 だから、彼女との関係を強いることはしない。

 むしろ、私は彼女の幸せを願っている。

 もし想い人の方も彼女に気があるのであれば、下賜するなりして夫婦にさせても良いと思っている。

 私の命令で夫婦となるのは嫌だと拒否されたが、両思いなのであれば問題ないであろう。

 そうしたら……私はこの後宮で、また一人になるのだな……。

 野心に満ちた女と役人たちのギラついた視線を受け、好きでもない女を抱き、ただただ世継ぎのために女と肌を重ねる日々。

 今はメイリンがいるから他の女との閨の頻度を減らしているが、メイリンがいなくなれば、それも前のように戻るだろう。

 ……地獄だ……。

 私は……メイリンの幸せを願っている。

 そのために、自分が地獄へと逆戻りするかもしれないことも覚悟している。

 けれど……もし、メイリンの想いがこちらに向いてくれればと、思わないわけではない。

 そうしたら私もメイリンも、お互いが幸せになれる。

 もし彼女と両思いになれたのであれば、私は……彼女よりも上に立つ女を作りたくない。

 私は彼女を皇后に……正妻にしたいと思う。

 けれどそれは、彼女を私と同じ地獄に引きずり込むことと同義……果たして、そこに彼女の幸せはあるのだろうか。

 そこまで考えて、自嘲気味に鼻で笑う。

 そんなもしものことを考えても、どうにもならないと言うのに……私は一体何を考えているのだろうな。

 これも、メイリンがいない寂しさからくるものなのかもしれない。

 あとは単純に疲れもあるかもしれないな。

 妃の元へ通わなくて済むように、遅くまで仕事を詰め込んでいるからな。

 ふぅ……とため息を漏らし、私はすっかり暗くなっている窓の外の空に目をやる。

 メイリンはハディ国で不自由していないだろうか……あわよくば、彼女も私と離れたことを寂しいと思ってくれてはいないだろうか。

「私は寂しいぞ。メイリン……」

 誰もいない執務室でそんな独り言を漏らして、私は彼女の帰りを待ち望みつつ、また仕事へと戻るのだった。
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