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第七章 夢
第二十八話
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わたくしは幼い頃から、見た目が良かった。
顔立ちは絵画のように美しく繊細で、黒い瞳と髪は月夜のように艶めき、身体つきは細すぎず太すぎず理想的、纏う空気はまるで天女のようだと評判だった。
誰も彼もが、わたくしを見ると「美しい」とこぼし、わたくしの内面も知らないくせに「将来はうちの嫁に」と言ってくる。
誰もわたくしのことを知らない、知ろうともしない。
だからわたくしは美しい自分の容姿と、それを褒めそやす周囲の人間が大嫌いになった。
わたくしはそんな周囲の人間を退けるため、ある時期から自分の見た目を隠すようになる。
前髪を重く伸ばして顔が見えないようにし、服も野暮ったい物を選んで体型を隠して、入浴も拒否して小汚い雰囲気を纏うようになった。
そうすると、美しいと褒めそやしていた人たちは一転、「元は良いのに残念な子だ」と遠ざかっていった。
そして、わたくしの周りからは誰もいなくなった。
けれど寂しさを感じることはなく、邪魔な羽虫がいなくなったことに、清々しい思いでいた。
そんなある日、親戚での集まりがあった。
参加せずにいたいけれど、集まりは我が家で開催されているので逃げ場はなく、わたくしが参加せずにいると両親の立場もないだろうからと、渋々参加する。
まぁ、わたくしが小汚いから寄り付く者はおらず、大人は「昔のように身綺麗にすれば良いのに」と言い、子どもは「きったねぇ!」と笑ってくるのだけれど。
わたくしはそれらを無視する。
反論はしない。
しても無駄だし、あれらの言うことが間違っているとは別に思っていないから。
「……年頃の女の子に、そのようなことを言うのは失礼だ」
そんな中、一人の少年が声を上げた。
声は少年らしい声をしているのに、大人よりも落ち着き払った声がとても印象的だった。
わたくしはそのように庇われたことなど一度もなかったため、驚きから声のした方を見やる。
そこにはわたくしと同じ黒髪黒目で、わたくしよりも少し年上らしい、目元が涼し気な……どこにでもいそうな平凡な見た目をした男の子がいた。
わたくしがぽかんとしていると、少年が真剣な表情で続ける。
「彼女に謝ったほうが良い」
少年がそう言うと、子どもたちは「お前、そんなばっちいのが好きなのかよ」と茶化し、大人たちはクスクスと笑っている。
わたくしはそんな反応を、冷めた目で見ていた。
少年の方を見やると、彼は表情を一切変えない。
「人として恥ずべきことをしているから謝れと言っている。そこに好意も他意もないだろう」
少年の言っていることは、しごく真っ当だ。
けれど彼の年齢にしてはあまりにも正義感が強く、そしてあまりにも真っ当過ぎることを言っていて驚いた。
少年の言葉に、先ほどまで強気だった子どもたちはたじろぎ、大人たちも笑みをやめる。
「お、面白くね―の! みんな、あっち行こうぜ」
子どもの一人がそう言うと、他の子どもを引き連れて庭の方へと走っていく。
正義感の強い少年は是が非でも謝罪を得るためか追いかけようとしていたけれど、わたくしはそれを制止する。
「わたくしは謝罪をいただかなくても結構です。庇っていただき、ありがとうございました」
少年にそう告げると、少年は納得のいかない表情をしている。
「本当にありがとうございました。庇われたのは初めてのことで、嬉しかったです」
わたくしが彼を納得させるためにさらにお礼を伝えると、彼は困惑したような、それでいて諦めたような納得したような表情を見せた。
「……そうか」
かと思うとわたくしに近づいてきて、わたくしの頭を撫でながら優しげな笑みを浮かべる。
わたくしは衝撃を受けた。
今のわたくしに、嘲笑以外の笑みを見せる人など両親以外いない。
わたくしの頭は髪が絡まり、油でギトついているというのに……なんのためらいもなく手を差し伸べた。
その事実にただただ驚いた。
呆然とするわたくしを他所に、少年は笑顔のまま口を開く。
「自分はイェンという。君の名前は?」
「……メイリンと言います」
「メイリンか。良い名前だな」
これがイェン兄様との……わたくしの初恋との出会いだった。
顔立ちは絵画のように美しく繊細で、黒い瞳と髪は月夜のように艶めき、身体つきは細すぎず太すぎず理想的、纏う空気はまるで天女のようだと評判だった。
誰も彼もが、わたくしを見ると「美しい」とこぼし、わたくしの内面も知らないくせに「将来はうちの嫁に」と言ってくる。
誰もわたくしのことを知らない、知ろうともしない。
だからわたくしは美しい自分の容姿と、それを褒めそやす周囲の人間が大嫌いになった。
わたくしはそんな周囲の人間を退けるため、ある時期から自分の見た目を隠すようになる。
前髪を重く伸ばして顔が見えないようにし、服も野暮ったい物を選んで体型を隠して、入浴も拒否して小汚い雰囲気を纏うようになった。
そうすると、美しいと褒めそやしていた人たちは一転、「元は良いのに残念な子だ」と遠ざかっていった。
そして、わたくしの周りからは誰もいなくなった。
けれど寂しさを感じることはなく、邪魔な羽虫がいなくなったことに、清々しい思いでいた。
そんなある日、親戚での集まりがあった。
参加せずにいたいけれど、集まりは我が家で開催されているので逃げ場はなく、わたくしが参加せずにいると両親の立場もないだろうからと、渋々参加する。
まぁ、わたくしが小汚いから寄り付く者はおらず、大人は「昔のように身綺麗にすれば良いのに」と言い、子どもは「きったねぇ!」と笑ってくるのだけれど。
わたくしはそれらを無視する。
反論はしない。
しても無駄だし、あれらの言うことが間違っているとは別に思っていないから。
「……年頃の女の子に、そのようなことを言うのは失礼だ」
そんな中、一人の少年が声を上げた。
声は少年らしい声をしているのに、大人よりも落ち着き払った声がとても印象的だった。
わたくしはそのように庇われたことなど一度もなかったため、驚きから声のした方を見やる。
そこにはわたくしと同じ黒髪黒目で、わたくしよりも少し年上らしい、目元が涼し気な……どこにでもいそうな平凡な見た目をした男の子がいた。
わたくしがぽかんとしていると、少年が真剣な表情で続ける。
「彼女に謝ったほうが良い」
少年がそう言うと、子どもたちは「お前、そんなばっちいのが好きなのかよ」と茶化し、大人たちはクスクスと笑っている。
わたくしはそんな反応を、冷めた目で見ていた。
少年の方を見やると、彼は表情を一切変えない。
「人として恥ずべきことをしているから謝れと言っている。そこに好意も他意もないだろう」
少年の言っていることは、しごく真っ当だ。
けれど彼の年齢にしてはあまりにも正義感が強く、そしてあまりにも真っ当過ぎることを言っていて驚いた。
少年の言葉に、先ほどまで強気だった子どもたちはたじろぎ、大人たちも笑みをやめる。
「お、面白くね―の! みんな、あっち行こうぜ」
子どもの一人がそう言うと、他の子どもを引き連れて庭の方へと走っていく。
正義感の強い少年は是が非でも謝罪を得るためか追いかけようとしていたけれど、わたくしはそれを制止する。
「わたくしは謝罪をいただかなくても結構です。庇っていただき、ありがとうございました」
少年にそう告げると、少年は納得のいかない表情をしている。
「本当にありがとうございました。庇われたのは初めてのことで、嬉しかったです」
わたくしが彼を納得させるためにさらにお礼を伝えると、彼は困惑したような、それでいて諦めたような納得したような表情を見せた。
「……そうか」
かと思うとわたくしに近づいてきて、わたくしの頭を撫でながら優しげな笑みを浮かべる。
わたくしは衝撃を受けた。
今のわたくしに、嘲笑以外の笑みを見せる人など両親以外いない。
わたくしの頭は髪が絡まり、油でギトついているというのに……なんのためらいもなく手を差し伸べた。
その事実にただただ驚いた。
呆然とするわたくしを他所に、少年は笑顔のまま口を開く。
「自分はイェンという。君の名前は?」
「……メイリンと言います」
「メイリンか。良い名前だな」
これがイェン兄様との……わたくしの初恋との出会いだった。
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