後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ

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第七章 夢

第二十九話

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 その次の親戚の集まりの日、イェンと再会した。

「やぁ。また会ったね。メイリン」

 彼の両親と共に、わたくしの両親に挨拶に来た彼は、わたくしを見るとそう声を掛けてきた。

「お、お久しぶりです。イェンさん」

 人にまともに挨拶をされるのなど久しぶりで、驚きながらも失礼のないように挨拶を返す。

「イェンさんなんてそんな他人行儀な。親戚同士なのだから、気安く兄のように呼んでくれ」

 そう言われて、困惑しながら両親の方を見やると、両親が嬉しそうに微笑みながら頷いていた。

 彼の両親の方も、小汚い私を嫌がることなく、子ども同士のやり取りを温かい眼差しで見守っている。

「で、では……イェン兄様」

「うん。妹ができたようで嬉しいよ」

 わたくしの返答を聞いたイェン兄様は、嬉しそうに笑みをこぼしていた。

 あの時、わたくしの容姿を馬鹿にしていた人たちを注意していた時の、大人顔負けの真剣な眼差しからは想像できないほど、子供らしい可愛らしい笑顔だった。

 けれどわたくしはそんな笑顔を向けられたことなどなくて……恥ずかしさと困惑から、袖で熱くなった顔を隠す。

「メイリン、良かったら向こうでおしゃべりでもしようか」

 顔を隠すわたくしに、イェン兄様は優しい声色でそう提案する。

 わたくしはまたわたわたと困惑したけれど、懸命に「は、はい」と返事をした。

 親戚の集まりのため、邪魔にならないように隅に置かれていた長椅子に二人で腰掛ける。

「メイリンは皇都に暮らして長いのかい?」

「は、はい。長いと言うか、皇都生まれ皇都育ちです」

「そうなんだね。自分はこの前まで田舎の方に暮らしていて、皇都近くに最近越してきたばかりなんだ」

「そうだったのですね」

 イェン兄様を今まで見かけたことがなかったと思っていたけれど、今までは住まいが遠くて親戚の集まりには不参加だったようだ。

 自分の中で納得がいった。

 けれど、納得できないこともあった。

「その……イェン兄様は、わたくしといて恥ずかしくないのですか?」

「……? どういう意味だい?」

「わたくしの見た目は小汚くて、親戚の方々も避けるほどです。そんなわたくしといるのは、お嫌ではないのかなと」

 わたくしの中で、純粋に疑問だったことだ。

 悪口を言われていて庇ってくださったのは、正義感が強いからだろうと理解できるけれど、今回はそういったこともなく、ただイェン兄様の方から話そうかと誘ってくださった。

 わたくしの傍にいると、親戚の人たちから嘲笑の声と視線を向けられるというのに。

 なぜわたくしの傍にいてくださるのか……それが純粋に不思議でならなかった。

 わたくしの問いを聞いたイェン兄様は、最初目を丸くして驚きの表情を浮かべていたけれど、すぐにふわっと優しい笑みを浮かべてわたくしの頭を撫でてくださる。

「……人を馬鹿にする者たちと話すことなどないからな。それに自分も、この集まりでは浮いた存在になってしまったようだからな」

「……?」

 イェン兄様が浮いているという言葉の意味が分からず周囲をよく見てみると、わたくしを馬鹿にしていた子どもたちがこちらを見てはいるものの、来れずにいることに気がつく。

 どうやらわたくしをまた馬鹿にして笑いものにしたいけれど、前回イェン兄様に注意されたことを覚えているためか、来れずにいるらしい。

 何ともクソガキ……おっと、子どもらしい姿に、呆れて笑みがこぼれる。

 イェン兄様は、変わらずわたくしの小汚い頭を優しく撫でてくれている。

「き、汚いですよ……お手が汚れてしまいます」

「汚くなどないさ。少ししか話したことがないけれど、メイリンがそのような格好をしているのには、何か理由があるのだろうということくらい分かる」

「……」

「誰に迷惑を掛けているわけでもないのだから、君が気にすることはないさ」

 そのようなことを言われたのは初めてで、わたくしは目元にじわっと涙が滲むのを感じる。

 周りに何を言われても大丈夫と思っていたけれど、思っていたよりもわたくしは一人で頑張り続けることに疲れていたのかもしれないと思い知らされた。

 そしてイェン兄様がそばにいるために子どもたちが傍に来れないでいる姿を見て、もしかしてイェン兄様はわたくしがまた馬鹿にされないように傍にいてくれているのかなと。

 そんな風に優しくされたのなど、この姿になってから初めてのことだ。

 泣きたくないのに、ポロポロと涙がこぼれる。

 わたくしが泣いていても、長い前髪が隠すから、誰にも泣き顔を見られることはない。

 それでも、さすが傍にいるイェン兄様には分かるだろう。

 けれどイェン兄様は何も言わず、ただずっと、優しくわたくしの頭を撫でてくださっていた。
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