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第八章 恋の終わり
第三十三話
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「……イェン兄様……」
「メイリン様。以前も申し上げましたが、宦官をそのように呼ぶのは――」
「今だけは! 今だけは、昔のようにお呼びすることをお許しください……!」
イェン兄様の言葉を遮るようにして、わたくしは半ば叫びのような願いを伝える。
するとイェン兄様は少し驚いた様子だったけれど、しばらく考え込んでから「かしこまりました」と答えてくれた。
わたくしは荒くなりそうな呼吸と、引きちぎれてしまいそうなほど早鐘を打つ胸を抑え、ゆっくりと口を開く。
「わたくしは……イェン兄様、貴方様を、初めてお会いしたときからお慕いしておりました」
イェン兄様は言葉を発することはなかったけれど、少しだけ目を見開いていた。
そんなイェン兄様に対して、わたくしは言葉を続けた。
「小汚い見た目をしていたわたくしにも優しくしてくださって、悪口を言う親戚から守ってくださって、頭を撫でてくださって……本当に嬉しかった」
イェン兄様はただ黙って、わたくしの言葉を聞いていた。
「親戚の集まりは嫌いでしたが、イェン兄様に会えるのだ、お話ができるのだと思うと……いつの間にか楽しみになっておりました」
イェン兄様は何も言わない。
「穏やかで、真面目で、優しくて、正義感があって……わたくしの容姿について何も仰らないイェン兄様を、後宮に来る前から……後宮に来てからも、ずっとお慕いしております」
イェン兄様は黙っている。
わたくしは今までの思いの丈を、真っ直ぐにぶつける。
「そもそも後宮に来たのは、イェン兄様が宦官になったから……追いかけるためです。添い遂げたいなんて欲は申し上げませんが、ただ……お傍にいたかったのです」
イェン兄様はまた目を見開いていたけれど、わたくしは構わずに話し続ける。
「ただお傍にいれれば良いと思っておりましたが……今は、想いは伝えなければ伝わらないのだと、想いを伝えないのは辛く苦しいことだと、やっと気づくことができました」
そこまで言うと、わたくしはもう一つ深呼吸をしてから、真っ直ぐにイェン兄様を見つめる。
「わたくしはイェン兄様をお慕いしております」
イェン兄様はいつもと変わらぬ涼し気な目元で、わたくしを見つめ返していた。
かと思うと、静かに俯いて、何かを考え込んでいらっしゃる様子だ。
わたくしは言いたいことを言って、後はイェン兄様の返事を待つだけの状態。
告白はしたけれど、最後までイェン兄様と結婚したいとか床を共にしたいとか……そういった言葉を口にすることはなかった。
そのことに自分自身で気づいていながらも、見て見ぬふりをした。
そして待っていると、イェン兄様がゆっくりと顔を上げた。
その顔は、目元は、いつもと変わらぬ涼しげなものだった。
「……メイリン様」
「……はい」
わたくしは真っ直ぐにイェン兄様を見つめ返し、彼の言葉を待った。
聞かなくても、分かりきっている言葉を。
「メイリン様は皇帝陛下のお妃様です。そして自分はただの宦官です。そんな宦官へ想いを寄せるなど……皇帝陛下への裏切りに等しいです。恥を知りなさい」
分かっていても、イェン兄様から冷たく突き放すような言葉を聞くのは、胸に来るものがあった。
「後宮に来た経緯も、メイリン様の想いもお伺いしましたが、それは墓場まで持っていくべきことです。皇帝陛下のお妃様になったのであれば、全ては皇帝陛下に捧げなくては」
イェン兄様の意見は、全く持ってそのとおりだ。
わたくしとて、その覚悟を持って後宮に来たはずだった。
だからこそ、イェン兄様のお叱りを……黙って聞いていた。
「自分は確かに皇帝陛下のお妃様の一人を下賜していただくことになっていますが、それは皇帝陛下の寵愛を受けていらっしゃるメイリン様ではありません」
そんなことは、分かっている……。
「メイリン様は、どうか後宮で、皇帝陛下とのこれからの幸せだけをお考えくださいませ」
彼はそう言うと、また頭を下げた。
イェン兄様にそう告げられて、わたくしはまた胸がズキッと痛んだ。
けれど懸命に笑顔を浮かべる。
「……聞いてくださって、ありがとうございました」
「いえ、自分はこれで失礼させていただきます」
そう言って、イェン兄様はわたくしの宮を去った。
これで……わたくしの一世一代の告白はおしまい。
イェン兄様に知られたらお行儀が悪いと言われそうだなと思いながら、茶の間の長椅子に寝転ぶ。
そして一人で小さく丸くなって、声を押し殺して泣いた。
「メイリン様。以前も申し上げましたが、宦官をそのように呼ぶのは――」
「今だけは! 今だけは、昔のようにお呼びすることをお許しください……!」
イェン兄様の言葉を遮るようにして、わたくしは半ば叫びのような願いを伝える。
するとイェン兄様は少し驚いた様子だったけれど、しばらく考え込んでから「かしこまりました」と答えてくれた。
わたくしは荒くなりそうな呼吸と、引きちぎれてしまいそうなほど早鐘を打つ胸を抑え、ゆっくりと口を開く。
「わたくしは……イェン兄様、貴方様を、初めてお会いしたときからお慕いしておりました」
イェン兄様は言葉を発することはなかったけれど、少しだけ目を見開いていた。
そんなイェン兄様に対して、わたくしは言葉を続けた。
「小汚い見た目をしていたわたくしにも優しくしてくださって、悪口を言う親戚から守ってくださって、頭を撫でてくださって……本当に嬉しかった」
イェン兄様はただ黙って、わたくしの言葉を聞いていた。
「親戚の集まりは嫌いでしたが、イェン兄様に会えるのだ、お話ができるのだと思うと……いつの間にか楽しみになっておりました」
イェン兄様は何も言わない。
「穏やかで、真面目で、優しくて、正義感があって……わたくしの容姿について何も仰らないイェン兄様を、後宮に来る前から……後宮に来てからも、ずっとお慕いしております」
イェン兄様は黙っている。
わたくしは今までの思いの丈を、真っ直ぐにぶつける。
「そもそも後宮に来たのは、イェン兄様が宦官になったから……追いかけるためです。添い遂げたいなんて欲は申し上げませんが、ただ……お傍にいたかったのです」
イェン兄様はまた目を見開いていたけれど、わたくしは構わずに話し続ける。
「ただお傍にいれれば良いと思っておりましたが……今は、想いは伝えなければ伝わらないのだと、想いを伝えないのは辛く苦しいことだと、やっと気づくことができました」
そこまで言うと、わたくしはもう一つ深呼吸をしてから、真っ直ぐにイェン兄様を見つめる。
「わたくしはイェン兄様をお慕いしております」
イェン兄様はいつもと変わらぬ涼し気な目元で、わたくしを見つめ返していた。
かと思うと、静かに俯いて、何かを考え込んでいらっしゃる様子だ。
わたくしは言いたいことを言って、後はイェン兄様の返事を待つだけの状態。
告白はしたけれど、最後までイェン兄様と結婚したいとか床を共にしたいとか……そういった言葉を口にすることはなかった。
そのことに自分自身で気づいていながらも、見て見ぬふりをした。
そして待っていると、イェン兄様がゆっくりと顔を上げた。
その顔は、目元は、いつもと変わらぬ涼しげなものだった。
「……メイリン様」
「……はい」
わたくしは真っ直ぐにイェン兄様を見つめ返し、彼の言葉を待った。
聞かなくても、分かりきっている言葉を。
「メイリン様は皇帝陛下のお妃様です。そして自分はただの宦官です。そんな宦官へ想いを寄せるなど……皇帝陛下への裏切りに等しいです。恥を知りなさい」
分かっていても、イェン兄様から冷たく突き放すような言葉を聞くのは、胸に来るものがあった。
「後宮に来た経緯も、メイリン様の想いもお伺いしましたが、それは墓場まで持っていくべきことです。皇帝陛下のお妃様になったのであれば、全ては皇帝陛下に捧げなくては」
イェン兄様の意見は、全く持ってそのとおりだ。
わたくしとて、その覚悟を持って後宮に来たはずだった。
だからこそ、イェン兄様のお叱りを……黙って聞いていた。
「自分は確かに皇帝陛下のお妃様の一人を下賜していただくことになっていますが、それは皇帝陛下の寵愛を受けていらっしゃるメイリン様ではありません」
そんなことは、分かっている……。
「メイリン様は、どうか後宮で、皇帝陛下とのこれからの幸せだけをお考えくださいませ」
彼はそう言うと、また頭を下げた。
イェン兄様にそう告げられて、わたくしはまた胸がズキッと痛んだ。
けれど懸命に笑顔を浮かべる。
「……聞いてくださって、ありがとうございました」
「いえ、自分はこれで失礼させていただきます」
そう言って、イェン兄様はわたくしの宮を去った。
これで……わたくしの一世一代の告白はおしまい。
イェン兄様に知られたらお行儀が悪いと言われそうだなと思いながら、茶の間の長椅子に寝転ぶ。
そして一人で小さく丸くなって、声を押し殺して泣いた。
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