後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ

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第九章 愛する人

第四十話

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 皇太后様の宮の庭から牛車へと向かう最中、皇帝陛下はわたくしの腰に手を回して、わたくしを導いてくださるように共に歩いてくださっていた。

 そんな皇帝陛下のお顔を、ちらりと見やる。

 皇帝陛下の顔立ちは相変わらず整っていらして、わたくしを抱き寄せるたくましい身体つきも……出会った頃から何も変わっていない。

 けれど、わたくしの視線に気がついた皇帝陛下は、先程までの冷めた表情から一転、にっこりと優しげな笑みを見せてくださる。

 その笑みを見ただけで、どきっと胸が高鳴る。

 顔が熱くなるのを感じて、思わず視線を反らしてしまう。

 熱くなる顔を隠すようにしながらも、わたくしは一つの決意を固めていた。

 ――皇帝陛下と共にわたくしの宮まで戻ってくると、ぐーっと伸びをしながら皇帝陛下が口を開く。

「今日はすまなかったな。離縁話など進めさせないから、そなたは安心してくれ」

「いえ、皇帝陛下が謝ることでは……けれど、ありがとうございます」

 お礼を伝えると、皇帝陛下はニッと笑みを返し、「さすがに疲れた……」とこぼしながら倒れ込むように長椅子に腰を下ろす。

 わたくしはそんな皇帝陛下を、椅子に座ることもせずに見つめる。

 ……決意したというのに、思うように言葉が出てこない……。

 そんなわたくしを見た皇帝陛下は、不思議そうな表情をなさっている。

「どうした? そなたは座らないのか?」

「あ、あの……!」

「ん?」

 勇気を振り絞り、やっと声を出すことができたわたくしの言葉を、皇帝陛下はきょとんっとした年相応な表情で待ってくれていた。

 その顔を見るとまた胸がどきっとして……けれど、同時に勇気ももらえて、わたくしは意を決して口を開く。

「わ、わたくしは……あなた様をお慕いしております!」

 わたくしの告白を聞いた皇帝陛下は、突然のことに目を丸くして言葉を失っている。

 ずっと他に想い人がいると言っていた女が、突然好きだと告白してきたのだから、皇帝陛下の驚きは当然のことだろうと思われる。

 けれど……どんなに心変わりが早いと言われようとも、わたくしは決意したんだ。

 もう後悔したくないと……!

「い、イェン兄様に振られたばかりでこんなことを言うわたくしを、浅ましいとお思いになるかもしれませんが、わたくしの言葉に嘘偽りはございません」

 さらにそう告げるわたくしを、皇帝陛下はまだ目を瞬かせながら見つめていた。

 わたくしは顔が熱くて熱くて……今すぐにでも逃げ出して、池に飛び込んでしまいたいと思うほどだった。

 けれど、ここで逃げ出してはいけないと自分を律して、言葉を続ける。

「どうか……どうか……わたくしの想いを、受け取ってくださらないでしょうか?」

 イェン兄様に告白した時には、わたくしの想いが成就するかもしれない、してほしいという望みはなかった。

 けれど、この方には……受け入れていただきたいと、そう思う。

 懸命に告白するわたくしを驚きの表情で見ていた皇帝陛下だったけれど、告白を聞き終わると、真剣な面持ちに変わって口を開く。

「……私には十五人の妃がいる。皇帝として彼女たちの元へ通うこともあるだろう。一途なそなたに、それが耐えられるか?」

 自分の想い人が他の女の元と逢瀬を重ね、時には肌も重ねるなど……本来であれば、受け入れがたいことだろう。

「それに、前はどうでも良いと言ったが、今は正妃にするのであればそなたが良いと思っている。その重責に耐えられるか?」

 わたくしの告白を受けて、皇帝陛下の口から出された言葉は、わたくしを思いやるものばかりだ。

 それと同時に、これ以上踏み込んだら引き返せないぞという警告のようにも感じる。

 そんな皇帝陛下の言葉を聞いて、思いやりを感じて……わたくしは喜びを感じはするけれど、臆することはしない。

 だから真っ直ぐに皇帝陛下を見つめて、今度は視線を逸らすことはしない。

「はい。だってわたくしが好きなのは、皇帝陛下ではありませんから」

 そして、そう答えた。
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