52 / 52
第十章 その後の小話
第四十五話
しおりを挟む
それから何年も、何年も時が過ぎた。
ポウザンはミン様が皇帝となられたのと変わらぬ年頃となっていた。
すると時期を窺っていたミン様は、いよいよ皇帝の座を退き、ポウザンに皇帝の座を譲ると宣言した。
わたくしとポウザンは事前に話を伺っていたので驚きはなかったけれど、役人たちは未だになくならない後宮を廃するかもしれないという可能性に怯えきっていた。
皇帝の席にポウザンが座すると、彼には多くの妃候補が挙がった。
ポウザンはそれらを退けることはせず、仕事の合間合間にではあるけれども、一つ一つを丁寧に確認して、気になる女性がいれば王宮に招いて話を聞くこともした。
そして自分の生涯の伴侶となる女性を、懸命に探す。
それは気が遠くなるような作業だった。
全てと結婚してからお気に入りを決めた方が、明らかに手間は少ないのだろう。
けれど、ポウザンは時間を惜しまずに丁寧に、じっくりと運命の相手を探す。
そんな彼を、わたくしとミン様は静かに見守った。
そしてついに……一人の女性と出会い、何度か話をして、ポウザンは結婚を決めた。
皇帝になってから、三年後のことだった。
ポウザンの運命の相手はミンユンさんと言い、美人で意志の強そうな……人の目を真っ直ぐに見つめる女性だった。
けれど高圧的だったり嫌味なところはなく、実に印象の良い女性だ。
彼女と対面したミン様は「メイリンとどこか似ている」と笑っていた。
ポウザンはミンユンさんを妃として迎え、子どもができ次第、皇后の席に座ってもらうことが決まった。
そしてポウザンは王宮内外に後宮は廃すると、正式に宣言した。
役人たちはやはりかと肩を落とし、国民は一人の女性を愛したいと言うポウザンを好意的に受け取り、支持した。
こうして、後宮というものはなくなった。
厳密に言えば王族の居住区という意味での後宮は残っているけれど、皇帝のための女の花園としての後宮はなくなったという方が正しいだろうか。
ロン国では皇帝には一人の妃だけが寄り添い、国を守っていくことになる。
もしかしたら、後の世でまた後宮が復活することがあるかもしれないけれど、ポウザンの治世ではそれはないだろう。
ポウザンの結婚を見届けたわたくしとミン様は、穏やかに庭園を散策したりお茶を共にしたり、時には息子夫婦と会って、穏やかな時間を過ごしている。
「仕事に追われないというのは素晴らしいな……」
ミン様がしみじみと、気持ちよさそうに空を見つめながらそう仰る。
今日はわたくしの宮の茶の間で、いつものようにミン様とお茶を飲んでいる。
皇帝の座を退かれてから、ミン様は毎日のように自由な時間を楽しんでいらっしゃった。
「あら、皇帝だった頃から自由にわたくしの宮にいらしていたではないですか」
わたくしがお茶を飲みながらそう告げると、ミン様はギクッと肩を揺らす。
かと思うと、困ったような笑みを浮かべながら答える。
「……あれもそれなりに無理はしていたんだぞ……」
「まぁ、そうだったのですね。ふふっ……ありがとうございました」
「メイリンのためなら、どんなことも苦ではなかったからな」
ミン様は昔を懐かしみながらも、今のわたくしを真っ直ぐに見つめて、穏やかな笑みを浮かべてそう告げる。
お互いに歳は取ったけれど、ミン様の笑みはあの頃と何も変わらない。
そんな些細なことに、わたくしは幸せを感じていた。
けれど、そんなことを真っ直ぐに言うのは……少しだけ恥ずかしかったから、素知らぬ顔で口を開く。
「わたくしも……想い人のためならば、よく知りもしない方の妻になるくらいには、努力を惜しまない方でした」
「懐かしいな。そなたは昔から行動力があるというか、猪突猛進というか……」
「なんですか?」
「君は昔から、実に魅力的な女性だ」
そんなやり取りをして、わたくしたちはふっと笑みをこぼしながら、穏やかなお茶の時間を楽しんだ。
今度遠方にある離宮に行ってみようか、今度こそ二人でハディ国に行ってみるのもいいかもしれない……そんな楽しい予定を話しながら。
ポウザンはミン様が皇帝となられたのと変わらぬ年頃となっていた。
すると時期を窺っていたミン様は、いよいよ皇帝の座を退き、ポウザンに皇帝の座を譲ると宣言した。
わたくしとポウザンは事前に話を伺っていたので驚きはなかったけれど、役人たちは未だになくならない後宮を廃するかもしれないという可能性に怯えきっていた。
皇帝の席にポウザンが座すると、彼には多くの妃候補が挙がった。
ポウザンはそれらを退けることはせず、仕事の合間合間にではあるけれども、一つ一つを丁寧に確認して、気になる女性がいれば王宮に招いて話を聞くこともした。
そして自分の生涯の伴侶となる女性を、懸命に探す。
それは気が遠くなるような作業だった。
全てと結婚してからお気に入りを決めた方が、明らかに手間は少ないのだろう。
けれど、ポウザンは時間を惜しまずに丁寧に、じっくりと運命の相手を探す。
そんな彼を、わたくしとミン様は静かに見守った。
そしてついに……一人の女性と出会い、何度か話をして、ポウザンは結婚を決めた。
皇帝になってから、三年後のことだった。
ポウザンの運命の相手はミンユンさんと言い、美人で意志の強そうな……人の目を真っ直ぐに見つめる女性だった。
けれど高圧的だったり嫌味なところはなく、実に印象の良い女性だ。
彼女と対面したミン様は「メイリンとどこか似ている」と笑っていた。
ポウザンはミンユンさんを妃として迎え、子どもができ次第、皇后の席に座ってもらうことが決まった。
そしてポウザンは王宮内外に後宮は廃すると、正式に宣言した。
役人たちはやはりかと肩を落とし、国民は一人の女性を愛したいと言うポウザンを好意的に受け取り、支持した。
こうして、後宮というものはなくなった。
厳密に言えば王族の居住区という意味での後宮は残っているけれど、皇帝のための女の花園としての後宮はなくなったという方が正しいだろうか。
ロン国では皇帝には一人の妃だけが寄り添い、国を守っていくことになる。
もしかしたら、後の世でまた後宮が復活することがあるかもしれないけれど、ポウザンの治世ではそれはないだろう。
ポウザンの結婚を見届けたわたくしとミン様は、穏やかに庭園を散策したりお茶を共にしたり、時には息子夫婦と会って、穏やかな時間を過ごしている。
「仕事に追われないというのは素晴らしいな……」
ミン様がしみじみと、気持ちよさそうに空を見つめながらそう仰る。
今日はわたくしの宮の茶の間で、いつものようにミン様とお茶を飲んでいる。
皇帝の座を退かれてから、ミン様は毎日のように自由な時間を楽しんでいらっしゃった。
「あら、皇帝だった頃から自由にわたくしの宮にいらしていたではないですか」
わたくしがお茶を飲みながらそう告げると、ミン様はギクッと肩を揺らす。
かと思うと、困ったような笑みを浮かべながら答える。
「……あれもそれなりに無理はしていたんだぞ……」
「まぁ、そうだったのですね。ふふっ……ありがとうございました」
「メイリンのためなら、どんなことも苦ではなかったからな」
ミン様は昔を懐かしみながらも、今のわたくしを真っ直ぐに見つめて、穏やかな笑みを浮かべてそう告げる。
お互いに歳は取ったけれど、ミン様の笑みはあの頃と何も変わらない。
そんな些細なことに、わたくしは幸せを感じていた。
けれど、そんなことを真っ直ぐに言うのは……少しだけ恥ずかしかったから、素知らぬ顔で口を開く。
「わたくしも……想い人のためならば、よく知りもしない方の妻になるくらいには、努力を惜しまない方でした」
「懐かしいな。そなたは昔から行動力があるというか、猪突猛進というか……」
「なんですか?」
「君は昔から、実に魅力的な女性だ」
そんなやり取りをして、わたくしたちはふっと笑みをこぼしながら、穏やかなお茶の時間を楽しんだ。
今度遠方にある離宮に行ってみようか、今度こそ二人でハディ国に行ってみるのもいいかもしれない……そんな楽しい予定を話しながら。
12
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる