色欲も時代には勝てないらしい

もにゃじろう

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プロローグ

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 突然だが、僕には前世の記憶がある。

 そして智紀と僕は、前世でとても仲の良い恋人同士だった。

 僕は智紀以外他に何も必要なかったし、智紀にとっての僕もそうだったと思う。たまには喧嘩もしたけれど、それでもお互いの命が尽きるまでずっと幸せに暮らした。

 だから生まれ変わったこの時代でも智紀に出会えた時、僕は本当に嬉しかった。僕たちは運命なんだって心から思った。智紀に出会ってからは、それまでの退屈な日々が嘘のように毎日が楽しくて、幸せで、前世同様死ぬまでこんな日々が続くのだろうと信じて疑わなかった。

 
 
 ……だけど。

 今世ではそんな日々も長くは続かなかった。

 
 


 智紀が急にパソコンでゲームをし始めたのは、同棲をして半年ほど経った頃のこと。友達に誘われたからと始めたそのゲームは、仲間とパーティーを組み、銃などの武器を使って他のパーティーと戦うというものだった。智紀はそれまでもよく携帯でゲームをしていたし、普段全くゲームをしない僕でも聞いた事がある程有名なものだったから、その時は特段珍しいとは思わなかった。
 
 だけど、そんな呑気に構えている場合ではなかった。何故ならそれは、智紀があっという間にそのゲームに「依存」したからだ。
 
 僕が異変に気づいた頃には、智紀は既に寝ても覚めてもゲーム状態だった。パソコンだけじゃ飽き足らず何処にでもゲーム機を持ち歩き、お風呂でも、トイレでも、食事中でも、とにかくずっとゲームをしていた。そんなゲームに「依存」した智紀が一番に削っていったもの、それは僕との時間だ。

 楽しみにしていたお出掛けはキャンセルされ、毎日一緒に入っていたお風呂は別々になり、ご飯を食べるのもバラバラになった。そして数ヶ月経った頃には、分厚いヘッドセットのせいで「今日の夜ご飯どうする?」とか「もう洗濯機回しちゃうけど洗って欲しいものはちゃんと入れた?」とか、こんな普通の日常会話すらできなくなった。
 
 僕は智紀の豹変ぶりに、最初戸惑いまくった。そしてギャーギャー怒った。何度も何度も喧嘩して、言い合いになって、泣き喚いて、その果てにゲーム機を壊した事もあった。

 でも、どんなに2人の関係が悪化しても智紀がゲームを辞めることはなかった。それどころか、智紀は僕なんて必要ないみたいに仕事とゲームという日常生活を送り続けた。

 どんどん変わってしまう智紀が、僕は怖かった。

 だって、前世で彼以外に僕を愛してくれた人はひとりも居ない。智紀が愛してくれなきゃ僕は誰からも愛されない。あの幸せな日々がもう永遠に訪れないかもしれないと思ったら、怖くて怖くて仕方がなかった。

 だから僕は考えを改め、智紀に文句を言う事を辞めた。そして、僕がゲームよりも良いと思ってもらえるように色んなことを始めた。料理教室に通ったり、身だしなみに気を付けてみたり、英会話や色んな資格をとってみたり。家事だってほぼ全部するようになったし、智紀の気を引く為に苦手だったゲームにも挑戦した。

 だけど、結局そのどれでも智紀の気を引く事はできなかった。寧ろゲームは全く逆効果で、ゲームとはいえ人に向かって銃を撃つという行為に抵抗がある僕は、パーティーでは足を引っ張りまくり、すぐ画面酔いを起こしてゲームを中断させた。間に合わなくて智紀のパソコンに戻してしまった時は、すごく冷たい表情で睨まれた。

 そんな毎日が悲しくて、悔しくて、もどかしくて、尚更焦って空回った。その度に智紀から向けられる冷たい目線に、僕の心臓は何度もぎゅっと縮まった。

 どうしたら前の智紀に戻ってくれる?どうしたらゲームよりも僕を優先してくれる?智紀が好きな僕ってどんな性格でどんな価値観を持った人間だった?

 毎日毎日考えて、色んな手を尽くした。だけど、どんなに頑張っても智紀は変わらなかった。

「ゲームくらい大目に見てやれよ。仕事だってちゃんとしてるんだしさ。ストレス発散も大事だって!」

 智紀の周りの人たちはみんなそう言う。それに、時代的に趣味とか推しが何より大事という人が多いというのも分かってる。ゲームや動画を見ていればあっという間に時間が過ぎてしまうし、欲求を満たしてくれる楽しいコンテンツは有り余るほど存在して、それらを楽しむ為には時間がいくらあっても足りない。それは分かるんだ。でも……。
 
 

「ずっと一緒にいような。それだけで俺は幸せだから」

 そう言って微笑んでくれた彼はどこに行ってしまったのだろう。ゲームがあるこの時代じゃ、彼に僕は必要ない?あの幸せな日々はゲームよりも価値のないものだった?

 遠くに聞こえる智紀の楽しそうな声に、僕は部屋の片隅で耳を塞いでうずくまる。あの日の彼がいつか戻ってくれることを信じて。
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