3 / 7
智紀との回想
しおりを挟む
「ねぇ智紀。映画見にいこうよ」
僕が智紀をそう誘ったのは、日曜日の昼下がりのことだった。
その日の僕たちは休みだというのに何の予定もなく、暇を持て余し家でゴロゴロしていた。たまには何もせずゆっくりするのも悪くないだろう、と初めは思っていたんだけど、流石に一日中ってのも勿体ない気がして。何かする事ないかなぁと思っていた時、前に智紀が「この映画見たいな」とテレビを見て呟いていたことを思い出したのだ。
「あ?映画?」
地べたに座りながらソファに背中を凭れさせるようにしていた智紀が、僕の方に振り返る。
「うん。この間智紀見たいって言ってたじゃん」
僕の言葉に、智紀は一瞬考える素振りをみせたが、すぐに思い浮かんだようで「あぁ」と声を漏らす。
「無名の小説家が低予算で作ったっていうあれか」
「そう、それ。家でゴロゴロしてるよりは良くない?」
近未来SFミステリーコメディだというそのB級映画は、無名の小説家が自らの作品を実費で映画にした、というかなり異例の作品だった。そのため演じている俳優も全くの無名で、制作費も激安。当初は2つの映画館でしか公開されていなかったらしい。だけど映画を見た人から面白いとの声が次々と上がり、SNSで大バズり。異例の大ヒットをしているそうだ。あらすじをチラッと見ただけでは分からなかったけれど、きっと面白いのだろう。
「ねぇ、どうする?」
追い打ちをかけるようにそう聞く僕に、智紀は「あー」と少し唸ってから、「行く」と答える。だけどその割には全然起き上がる気配が無い。スライムのようにソファと一体化したままだ。
「……ねぇ、本当に行く気ある?」
「あるよ。祐が起こしてくれれば」
「え、またぁ?智紀重いからやだよ」
「お願い」
僕の方に手を伸ばしながらそう言われてしまえば、僕はその手を取る他ない。仕方がないから智紀の腕に自分の腕を絡めて、立たせるようにグイグイと引っ張る。
「もう、早く起きてよ」
「んー」
「全然力入ってないじゃん」
「…………」
「も、智紀しっかりしてって………うあああっ!」
僕の叫び声と共に、二人の男がソファへどすっと倒れ込む。どうやら智紀の重さに耐えられずバランスを崩してしまったらしい。智紀が僕に覆い被さるように倒れてくるもんだから、肺が潰れて息ができない。
「ぐ……重い……どいてよ」
「…………」
「も、まじ、無理だから」
「…………」
「……ぅじぬ」
苦しい。そろそろ本気でやばい。そう思って智紀の腕をトントン叩くのに、彼は全然離れてくれない。それどころか少しニヤッとしながら息を吹き込むようにキスをしてくる。
「んんっ!」
「…………」
「ん、っんんー!」
「……っ……」
苦しいんだか楽なんだか分からない。だけどバタバタと足が勝手に跳ねていることを考えると苦しいのかもしれない。そんなことを思いながら、僕は智紀を押し退ける。
「……っぷは!もう!毎回何なの!?」
「何が?」
「この茶番だよ。何で普通に起きてくれないの」
僕の抗議に智紀はククッと少し笑うと、「苦しむ祐が可愛くてつい」と意味不明な回答をしてくる。そして何事もなかったかのように「とりあえず上映時間調べるわ」と、スタスタ歩き、充電器に刺さったままだったスマホをぶちっと引き抜くのだ。本当に何がしたいのかよくわからない。
この茶番は出掛ける前のルーティンみたいなもので、外出前には大体行われる。普通に起きられるくせにわざとああやっているのだ。智紀は倒れてるだけだから良いかもしれないけど僕は本気で苦しいからやめて欲しい。
そして不思議なことに、この行動は前世の智紀もよくやっていた。姿形は全く違うのに、前世を覚えていないはずなのに、なぜか同じ行動をするのだ。
最初は偶然かと思っていた。けれど一緒に暮らすうちにそうじゃないと気付いた。好きな食べ物や嫌いな食べ物、歌が異常に下手なところ、嬉しい時や照れてる時に手を口に当てる癖など。そりゃ時代や国籍が違うから全く同じと言うわけではないけれど、似たようなところがいっぱい出てくるのだ。
寝癖が酷いのもそのひとつ。もう15時も過ぎたと言うのに、頭を動かすたびに寝癖がぴょこぴょこ跳ねている。
「智紀、寝癖ついてるよ」
「あぁ?」
「後ろのところ。某探偵さんみたい」
僕の言葉に、智紀は「またかよ」と言いながらスマホ片手に洗面台がある脱衣所へと歩いて行く。その後ろ姿に不思議さと親しみを感じてしまうことが可笑しくて、僕は思わずクスッと笑う。
「あ?何笑ってんだ」
「あれ、聞こえてた?」
「聞こえまくってるっつうの」
ムスッとした智紀の声が、脱衣所の中から聞こえてくる。
「別に何でもないよ。ただ生命の神秘だなって思っただけで」
「はぁ?意味わかんねぇ」
「智紀は昔から変わんないなってことだよ」
僕の言葉に、智紀はやっぱり意味不明って顔をしている。まぁそりゃそうか。智紀は前世のことなんてなんにも覚えていないのだから。だけどその何も知りませんって顔が、僕はかわいく見えて仕方がない。
「ねぇ智紀。映画、面白いと良いね」
「は?何だよ急に」
「だって面白いに越したことないでしょ?」
「そりゃまぁそうだけど」
「この映画続編決まってるらしいんだよね」
「…………」
「面白かったら続編も一緒に見に行こうね」
「…………」
「ねぇ智紀」
「……何だよ」
「大好き」
そう言う僕に、智紀は照れ隠しなのか口に手を当てる。
その姿を見て僕は思うのだ。
やっぱり智紀は僕の運命だ、と。
僕が智紀をそう誘ったのは、日曜日の昼下がりのことだった。
その日の僕たちは休みだというのに何の予定もなく、暇を持て余し家でゴロゴロしていた。たまには何もせずゆっくりするのも悪くないだろう、と初めは思っていたんだけど、流石に一日中ってのも勿体ない気がして。何かする事ないかなぁと思っていた時、前に智紀が「この映画見たいな」とテレビを見て呟いていたことを思い出したのだ。
「あ?映画?」
地べたに座りながらソファに背中を凭れさせるようにしていた智紀が、僕の方に振り返る。
「うん。この間智紀見たいって言ってたじゃん」
僕の言葉に、智紀は一瞬考える素振りをみせたが、すぐに思い浮かんだようで「あぁ」と声を漏らす。
「無名の小説家が低予算で作ったっていうあれか」
「そう、それ。家でゴロゴロしてるよりは良くない?」
近未来SFミステリーコメディだというそのB級映画は、無名の小説家が自らの作品を実費で映画にした、というかなり異例の作品だった。そのため演じている俳優も全くの無名で、制作費も激安。当初は2つの映画館でしか公開されていなかったらしい。だけど映画を見た人から面白いとの声が次々と上がり、SNSで大バズり。異例の大ヒットをしているそうだ。あらすじをチラッと見ただけでは分からなかったけれど、きっと面白いのだろう。
「ねぇ、どうする?」
追い打ちをかけるようにそう聞く僕に、智紀は「あー」と少し唸ってから、「行く」と答える。だけどその割には全然起き上がる気配が無い。スライムのようにソファと一体化したままだ。
「……ねぇ、本当に行く気ある?」
「あるよ。祐が起こしてくれれば」
「え、またぁ?智紀重いからやだよ」
「お願い」
僕の方に手を伸ばしながらそう言われてしまえば、僕はその手を取る他ない。仕方がないから智紀の腕に自分の腕を絡めて、立たせるようにグイグイと引っ張る。
「もう、早く起きてよ」
「んー」
「全然力入ってないじゃん」
「…………」
「も、智紀しっかりしてって………うあああっ!」
僕の叫び声と共に、二人の男がソファへどすっと倒れ込む。どうやら智紀の重さに耐えられずバランスを崩してしまったらしい。智紀が僕に覆い被さるように倒れてくるもんだから、肺が潰れて息ができない。
「ぐ……重い……どいてよ」
「…………」
「も、まじ、無理だから」
「…………」
「……ぅじぬ」
苦しい。そろそろ本気でやばい。そう思って智紀の腕をトントン叩くのに、彼は全然離れてくれない。それどころか少しニヤッとしながら息を吹き込むようにキスをしてくる。
「んんっ!」
「…………」
「ん、っんんー!」
「……っ……」
苦しいんだか楽なんだか分からない。だけどバタバタと足が勝手に跳ねていることを考えると苦しいのかもしれない。そんなことを思いながら、僕は智紀を押し退ける。
「……っぷは!もう!毎回何なの!?」
「何が?」
「この茶番だよ。何で普通に起きてくれないの」
僕の抗議に智紀はククッと少し笑うと、「苦しむ祐が可愛くてつい」と意味不明な回答をしてくる。そして何事もなかったかのように「とりあえず上映時間調べるわ」と、スタスタ歩き、充電器に刺さったままだったスマホをぶちっと引き抜くのだ。本当に何がしたいのかよくわからない。
この茶番は出掛ける前のルーティンみたいなもので、外出前には大体行われる。普通に起きられるくせにわざとああやっているのだ。智紀は倒れてるだけだから良いかもしれないけど僕は本気で苦しいからやめて欲しい。
そして不思議なことに、この行動は前世の智紀もよくやっていた。姿形は全く違うのに、前世を覚えていないはずなのに、なぜか同じ行動をするのだ。
最初は偶然かと思っていた。けれど一緒に暮らすうちにそうじゃないと気付いた。好きな食べ物や嫌いな食べ物、歌が異常に下手なところ、嬉しい時や照れてる時に手を口に当てる癖など。そりゃ時代や国籍が違うから全く同じと言うわけではないけれど、似たようなところがいっぱい出てくるのだ。
寝癖が酷いのもそのひとつ。もう15時も過ぎたと言うのに、頭を動かすたびに寝癖がぴょこぴょこ跳ねている。
「智紀、寝癖ついてるよ」
「あぁ?」
「後ろのところ。某探偵さんみたい」
僕の言葉に、智紀は「またかよ」と言いながらスマホ片手に洗面台がある脱衣所へと歩いて行く。その後ろ姿に不思議さと親しみを感じてしまうことが可笑しくて、僕は思わずクスッと笑う。
「あ?何笑ってんだ」
「あれ、聞こえてた?」
「聞こえまくってるっつうの」
ムスッとした智紀の声が、脱衣所の中から聞こえてくる。
「別に何でもないよ。ただ生命の神秘だなって思っただけで」
「はぁ?意味わかんねぇ」
「智紀は昔から変わんないなってことだよ」
僕の言葉に、智紀はやっぱり意味不明って顔をしている。まぁそりゃそうか。智紀は前世のことなんてなんにも覚えていないのだから。だけどその何も知りませんって顔が、僕はかわいく見えて仕方がない。
「ねぇ智紀。映画、面白いと良いね」
「は?何だよ急に」
「だって面白いに越したことないでしょ?」
「そりゃまぁそうだけど」
「この映画続編決まってるらしいんだよね」
「…………」
「面白かったら続編も一緒に見に行こうね」
「…………」
「ねぇ智紀」
「……何だよ」
「大好き」
そう言う僕に、智紀は照れ隠しなのか口に手を当てる。
その姿を見て僕は思うのだ。
やっぱり智紀は僕の運命だ、と。
25
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ
いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。
いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。
※pixivにも同様の作品を掲載しています
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
自分の気持ちを素直に伝えたかったのに相手の心の声を聞いてしまう事になった話
よしゆき
BL
素直になれない受けが自分の気持ちを素直に伝えようとして「心を曝け出す薬」を飲んだら攻めの心の声が聞こえるようになった話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる