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≪私がいけないというのですか……?≫
潤んだ瞳で一言目の台詞を口にすると、観客のどよめきが聞こえる。
何度か観たことのある観客が、セレーネ役の変更に気付いた?いや、どうもそうではないようだった。
「ま、まるで本物の女神だ……」
そんな声が最前列に座る男から微かに聞こえる。
横目で声の主に視線を送ると、なんとそこにはライネスとゼラの姿があった。
そういえば協賛者の中に彼女の家の名前があったっけ。
まさか彼らの前で演じることになるとは……思わず表情を歪めそうになった。
けれど——私は……いいえ、セレーネはこんなことくらいで動揺したりしない。
私は丁寧に、心の底から溢れる台詞を紡いでいく。
物語に深く沈みこんで、セレーネの感情を正確にトレースしながら。
上から、横から、正面から照らしてくる眩しい光を浴びながら、私は踊る。
その度に私の銀色の髪に星が輝いているのが分かる。
ああ、今の私は——どうしようもなく女神だ。
≪でも、そうしたら君は女神ではなくなってしまうのだろう!?≫
物語も最終盤、ジャミルが悲痛な声で叫ぶ。私の心すら抉られてしまいそうな演技だ。
≪でも私は……私はそれでも貴方と一緒になりたいの!≫
私がそう答えたら、ここからクライマックスに入る。
それなのに、私は台詞にない言葉を口にした。
≪たとえ誰に捨てられてもいい、いえ世界に嫌われたっていい……≫
私は舞台の一番前、ライネスの目の前に立つと大きく手を広げる。
≪私は、私の心のままに……生きていきたいの≫
「なっ!? あいつ……あの女神……シェリー、なのか?」
≪さようなら≫
≪女神としての自分への別れか……本当にそれでいいんだね?≫
ジャミルが私のアドリブをちゃんと拾って元の流れに戻してくれた。
もちろん、そうしてくれると信頼していたからできたことだ。
≪はい。永遠の命よりも貴方との限りある時間を選びます≫
≪セレーネ……≫
こうして私とジャミルは長いキスをして、舞台は終わった。
大歓声の中、ゆっくりと緞帳が降りていく。
「終わった……私、上手にできてました?」
「ああ、素晴らしかった。特に最後のアドリブは感情が強く乗ってて最高だったよ」
憧れのジャミルが笑顔で親指を立てて褒めてくれたから、それが嬉しすぎて。
思わず人目も気にせず抱きついてしまった。
「おっと……ほら、この拍手と歓声を聞いてごらん。みんなが君に賛辞を送りたいんだって。さあカーテンコールの時間だ」
鳴り止まない拍手と歓声に応えるように、緞帳が再び上がる。
今日は公演の再開を祝して、端役から楽器の奏者、それに座長のラウルさんまで全ての関係者が舞台に上がる『アンサンブル・カーテンコール』をするらしい。
主役の私とジャミルは、一番最後の出番だ。
舞台の袖から客席を見ると、観客たちはみんな総立ちでスタンディングオベーションを送ってくれている。
二階の最前列では、私とジャミルを描いた絵師さんが笑顔で拍手をしてくれているのが見えた。
「私ね、自分に自信がなかったんです。婚約者に冷たくあしらわれて、浮気までされて……女としての自信がなくなっていて。そんな時にこの演劇と出会って……本当に良かった」
「そっか、自尊心が傷ついていたんだね」
「はい。でも私を認めてくれる人がこんなにもいてくれた」
「そうさ。この歓声は君の心の傷を埋めてくれるはずだよ……さ、行こうっ!」
******
「でね、私の番になったらさらに歓声が大きくなったから、びっくりしちゃった」
「なぁシェリー……」
「くそー、俺も嬢の晴れ舞台を見に行きたかったぜ」
「セイは仕事でトラブルがあったんでしょ? なら仕方ないよ」
「な、なぁシェリー……俺の女神よ、無視しないでおくれ……」
初舞台の翌日から、ライネスが毎日ウチのお店へ来るようになった。
舞台上の私を見て惚れ直したとかなんとかいっている。
私の話しかしなくなったライネスはゼラとも関係が悪くなり、別れたらしい。
でもそんなこと、私の知ったことじゃない。
私は私のやりたいことを自由にやるの。
だから今日もこういって彼を追い返す。
「お客様、カーテンコールは終わりましたので」
潤んだ瞳で一言目の台詞を口にすると、観客のどよめきが聞こえる。
何度か観たことのある観客が、セレーネ役の変更に気付いた?いや、どうもそうではないようだった。
「ま、まるで本物の女神だ……」
そんな声が最前列に座る男から微かに聞こえる。
横目で声の主に視線を送ると、なんとそこにはライネスとゼラの姿があった。
そういえば協賛者の中に彼女の家の名前があったっけ。
まさか彼らの前で演じることになるとは……思わず表情を歪めそうになった。
けれど——私は……いいえ、セレーネはこんなことくらいで動揺したりしない。
私は丁寧に、心の底から溢れる台詞を紡いでいく。
物語に深く沈みこんで、セレーネの感情を正確にトレースしながら。
上から、横から、正面から照らしてくる眩しい光を浴びながら、私は踊る。
その度に私の銀色の髪に星が輝いているのが分かる。
ああ、今の私は——どうしようもなく女神だ。
≪でも、そうしたら君は女神ではなくなってしまうのだろう!?≫
物語も最終盤、ジャミルが悲痛な声で叫ぶ。私の心すら抉られてしまいそうな演技だ。
≪でも私は……私はそれでも貴方と一緒になりたいの!≫
私がそう答えたら、ここからクライマックスに入る。
それなのに、私は台詞にない言葉を口にした。
≪たとえ誰に捨てられてもいい、いえ世界に嫌われたっていい……≫
私は舞台の一番前、ライネスの目の前に立つと大きく手を広げる。
≪私は、私の心のままに……生きていきたいの≫
「なっ!? あいつ……あの女神……シェリー、なのか?」
≪さようなら≫
≪女神としての自分への別れか……本当にそれでいいんだね?≫
ジャミルが私のアドリブをちゃんと拾って元の流れに戻してくれた。
もちろん、そうしてくれると信頼していたからできたことだ。
≪はい。永遠の命よりも貴方との限りある時間を選びます≫
≪セレーネ……≫
こうして私とジャミルは長いキスをして、舞台は終わった。
大歓声の中、ゆっくりと緞帳が降りていく。
「終わった……私、上手にできてました?」
「ああ、素晴らしかった。特に最後のアドリブは感情が強く乗ってて最高だったよ」
憧れのジャミルが笑顔で親指を立てて褒めてくれたから、それが嬉しすぎて。
思わず人目も気にせず抱きついてしまった。
「おっと……ほら、この拍手と歓声を聞いてごらん。みんなが君に賛辞を送りたいんだって。さあカーテンコールの時間だ」
鳴り止まない拍手と歓声に応えるように、緞帳が再び上がる。
今日は公演の再開を祝して、端役から楽器の奏者、それに座長のラウルさんまで全ての関係者が舞台に上がる『アンサンブル・カーテンコール』をするらしい。
主役の私とジャミルは、一番最後の出番だ。
舞台の袖から客席を見ると、観客たちはみんな総立ちでスタンディングオベーションを送ってくれている。
二階の最前列では、私とジャミルを描いた絵師さんが笑顔で拍手をしてくれているのが見えた。
「私ね、自分に自信がなかったんです。婚約者に冷たくあしらわれて、浮気までされて……女としての自信がなくなっていて。そんな時にこの演劇と出会って……本当に良かった」
「そっか、自尊心が傷ついていたんだね」
「はい。でも私を認めてくれる人がこんなにもいてくれた」
「そうさ。この歓声は君の心の傷を埋めてくれるはずだよ……さ、行こうっ!」
******
「でね、私の番になったらさらに歓声が大きくなったから、びっくりしちゃった」
「なぁシェリー……」
「くそー、俺も嬢の晴れ舞台を見に行きたかったぜ」
「セイは仕事でトラブルがあったんでしょ? なら仕方ないよ」
「な、なぁシェリー……俺の女神よ、無視しないでおくれ……」
初舞台の翌日から、ライネスが毎日ウチのお店へ来るようになった。
舞台上の私を見て惚れ直したとかなんとかいっている。
私の話しかしなくなったライネスはゼラとも関係が悪くなり、別れたらしい。
でもそんなこと、私の知ったことじゃない。
私は私のやりたいことを自由にやるの。
だから今日もこういって彼を追い返す。
「お客様、カーテンコールは終わりましたので」
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