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次の日——私は本番用の衣装を着て、絵師さんの前でポーズを取っていた。
「はい、動かないでねー。腕が下がってきてるよ」
「ううっ、はい……」
同じ体勢で長時間ポーズを取っているのは、かなり大変だった。
普段使うことのない筋肉が悲鳴を上げている。
「ほら、女神はそんな顔をしないもんだよ」
彫刻家の青年を演じているジャミルが、そういって微笑みかけてくれた。
彼だってずっと同じ体勢でいるのに、辛そうな顔を一切見せない。
「僕は体を鍛えているからね。どんなアクションも演じられるように準備をしているんだ」
「そうなんですか……そう考えると私ってば全然ダメですね」
ジャミルの意識の高さを聞いて、自分の足りなさを思い知ったような気分だった。
「何をいっているんだ。君はこの短時間で完璧にセリーネを演じられるようになったんだろう? それはとても凄い才能だ」
「私に演劇の才能が……?」
「そうさ。それは僕なんかの努力では覆せないような、天賦のものだ」
お世辞かもしれない。おべっかかもしれない。
でも、憧れていたジャミルにそういわれて嬉しくないわけがなくて。
「ほら、女神役の子! もっと顔を引き締めてくれ」
だから絵師さんにそう怒られちゃった。
それから何度も怒られながら、ようやく完成したのは、舞台を宣伝するための大きな絵だった。
まるで神話の世界のような幻想的な場所で、女神と彫刻家の青年が見つめ合っている、そんな絵。
「これが私? まるで本当の女神様みたい」
「私としては誇張して描いたつもりはないよ。ただ君からあふれる希望とか自信をちょっぴり上乗せはしたけどね」
絵師さんはそういって、ウインクをした。
なんだ、じゃあやっぱり誇張してるってことじゃない。
こうして絵師さんに描いてもらったいくつかの絵は、人目の多い場所に貼られた。
学校、各ギルド、それから劇場前に。
その効果もあってか、公演再開日のチケットは爆発的に売れているらしい。
私が観に行っていた頃の公演は、多くて劇場半分くらいの客入りだった。
けど、もしかしたら今回は全て売り切れてしまうかもしれない。
三階建ての劇場が、お客さんで埋め尽くされたところを想像して私は思わずニヤけてしまった。
そしてついに公演再開日になった。つまり私にとっては初舞台の日だ。
私は神秘的な衣装を身に纏い、銀髪を整えて、舞台袖で深呼吸を繰り返していた。
「大丈夫……だってあんなに観たし、練習したんだから。今の私はシェリーじゃない、セレーネなの」
自分に言い聞かせるようにそう呟いてみたけれど、心臓は今にも張り裂けそうだ。
「大丈夫かい? ちょっとこっち向いてごらん」
ジャミルは優しい声でそういうと、私の手を取り、自分の心臓にあてがう。
「ほら、僕もドキドキしているだろう? 本番前は誰だってそうなるんだよ。いや、そうならなくなったら終わりさ」
「終わり……?」
「その胸の高鳴りの正体は緊張なんかじゃない。皆を楽しませたいって思うワクワクした気持ちなんだ」
「そう、なのかな?」
「うん、少なくとも僕はそう思ってる。ほら、待っている皆に君の胸の高鳴りを聞かせておいで」
ジャミルの優しい言葉に背押されて、私は舞台に立った。
開幕のベルが鳴り終わると、ゆっくりと緞帳が上がっていく。
舞台から目にしたのは——三階までぎっしりとお客さんが詰まった満席の劇場だった。
「はい、動かないでねー。腕が下がってきてるよ」
「ううっ、はい……」
同じ体勢で長時間ポーズを取っているのは、かなり大変だった。
普段使うことのない筋肉が悲鳴を上げている。
「ほら、女神はそんな顔をしないもんだよ」
彫刻家の青年を演じているジャミルが、そういって微笑みかけてくれた。
彼だってずっと同じ体勢でいるのに、辛そうな顔を一切見せない。
「僕は体を鍛えているからね。どんなアクションも演じられるように準備をしているんだ」
「そうなんですか……そう考えると私ってば全然ダメですね」
ジャミルの意識の高さを聞いて、自分の足りなさを思い知ったような気分だった。
「何をいっているんだ。君はこの短時間で完璧にセリーネを演じられるようになったんだろう? それはとても凄い才能だ」
「私に演劇の才能が……?」
「そうさ。それは僕なんかの努力では覆せないような、天賦のものだ」
お世辞かもしれない。おべっかかもしれない。
でも、憧れていたジャミルにそういわれて嬉しくないわけがなくて。
「ほら、女神役の子! もっと顔を引き締めてくれ」
だから絵師さんにそう怒られちゃった。
それから何度も怒られながら、ようやく完成したのは、舞台を宣伝するための大きな絵だった。
まるで神話の世界のような幻想的な場所で、女神と彫刻家の青年が見つめ合っている、そんな絵。
「これが私? まるで本当の女神様みたい」
「私としては誇張して描いたつもりはないよ。ただ君からあふれる希望とか自信をちょっぴり上乗せはしたけどね」
絵師さんはそういって、ウインクをした。
なんだ、じゃあやっぱり誇張してるってことじゃない。
こうして絵師さんに描いてもらったいくつかの絵は、人目の多い場所に貼られた。
学校、各ギルド、それから劇場前に。
その効果もあってか、公演再開日のチケットは爆発的に売れているらしい。
私が観に行っていた頃の公演は、多くて劇場半分くらいの客入りだった。
けど、もしかしたら今回は全て売り切れてしまうかもしれない。
三階建ての劇場が、お客さんで埋め尽くされたところを想像して私は思わずニヤけてしまった。
そしてついに公演再開日になった。つまり私にとっては初舞台の日だ。
私は神秘的な衣装を身に纏い、銀髪を整えて、舞台袖で深呼吸を繰り返していた。
「大丈夫……だってあんなに観たし、練習したんだから。今の私はシェリーじゃない、セレーネなの」
自分に言い聞かせるようにそう呟いてみたけれど、心臓は今にも張り裂けそうだ。
「大丈夫かい? ちょっとこっち向いてごらん」
ジャミルは優しい声でそういうと、私の手を取り、自分の心臓にあてがう。
「ほら、僕もドキドキしているだろう? 本番前は誰だってそうなるんだよ。いや、そうならなくなったら終わりさ」
「終わり……?」
「その胸の高鳴りの正体は緊張なんかじゃない。皆を楽しませたいって思うワクワクした気持ちなんだ」
「そう、なのかな?」
「うん、少なくとも僕はそう思ってる。ほら、待っている皆に君の胸の高鳴りを聞かせておいで」
ジャミルの優しい言葉に背押されて、私は舞台に立った。
開幕のベルが鳴り終わると、ゆっくりと緞帳が上がっていく。
舞台から目にしたのは——三階までぎっしりとお客さんが詰まった満席の劇場だった。
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