49 / 60
44. 紹介
しおりを挟む「――ランベルト、あなたまだ寝てるの?」
聞き覚えのある高い声で目が覚めた。
「…姉さん、いつ帰って来たの?」
「昨日の夜よ。兄さんから聞いて急いで帰って来たの」
旅行に出たと聞いていた二人目の姉は、今でも上の兄と仲が良いようだ。
彼女が開けたであろう窓から朝陽と爽やかな風が入ってくる。
それだけで城の中ではなく、実家に帰って来たという実感がした。
もう一度眠ってしまいたい衝動を抑えて、傍に立った姉を見上げた。
きっちりした化粧、流行りの髪型に粟色の毛を結い上げて…朝から?家で?何故…。
姉の恰好に驚いていると、姉は我慢出来ないというように俺の寝間着の襟首を掴んだ。
「うぐっ…」
「~ねぇ!それより、早く私を彼に紹介してよ!!」
少女のようにはしゃぐ姉に呆れる。もう少し年相応に落ち着いたら?とでも言うと叩かれそうなので止める。
「紹介って?…誰かいるの?」
俺が寝ている間に誰か来たのかと、姉を押し退けてベッドから起き上がる。
隣で寝ていたはずのツヴァイはとっくに起きたらしい。着替えを手に取り姉を振り返る。
「一緒に城から来たんでしょ?しらばっくれないでよ~」
お願い!と手を合わせる姉に首を捻る。馬車の御者をしてくれた騎士見習いの彼の事だろうか?
まだ十代だろうあの青年に、自分を紹介してくれと言っているのか?姉さんは今年で三十だ。
我が姉ながら図々しいな…と考えながらシャツのボタンを留める。
姉は母に似て器量は良いはずだが。
なかなか結婚しないのは選り好みし過ぎるせいだと、家族全員が口を揃えている。
まだ何も言っていないのに姉に肩を小突かれた。
「年下なんて分かってるわよ、でもあんなに綺麗な顔ならもっと近くで見たいじゃない」
「綺麗?そうだったかなぁ…」
どちらかというと寡黙で地味な印象だった。上着を羽織ると姉が腕を引っ張った。
「あなたは殿下達のせいで判断基準が狂ってるのよ、本当に美形なんだから!」
騒ぐ姉と共に食堂へ向かった。
「こちら騎士見習いのユルグ・ロイヤード。こちらは私の姉です」
「っはじめまして!お邪魔しています!」
「…ようこそ我が家へ」
食堂で朝食をとっていた彼に近付き、姉を紹介した。突然の挨拶を受けて彼は目を白黒させている。
改めて彼の顔を見ても、真面目そうだなという言葉しか浮かばない。
俺の腕を掴んだままだった姉が、余所行きの声で彼に挨拶して俺を部屋の外へ連れ出した。
「…なにまだ何かあるの」
もっと話がしたいなら俺を介さずやってくれと態度で示す。
「~あなた、わざとやってるでしょ?」
「はぁ?なにが…」
言葉を続けようとしたが、廊下の先から長身の人物が歩いて来た。
長い草原のような色味の髪が揺れる、中性的な印象の透き通るように美しい男が立っていた。
「――ツヴァイ…?」
時間が止まったように感じる程、深く考えてからその名を口にした。
応えるようににこりと微笑んだ男に、姉が短い悲鳴を上げた。
「おはようございます。"弟"のツヴァイは先に帰しましたよ」
俺よりも低い声、面影はあるのに別人のようだ。もうすっかりあの少年が俺と同じ歳という事を忘れていた。
それでも底知れない宝石のような紫色の瞳は、彼がツヴァイ本人だと物語っていた。
姉が俺の背中を頻りに叩く。なんと紹介したものか…。
「…二番目の姉です。こちらはテレジオ卿」
色々端折ってみたが嘘は言っていない。熱心にツヴァイを見上げる姉に、同情の目を向ける。
「お姉さまでしたか、以後お見知り置きを」
ツヴァイはそれこそ王子様のように姉の手を取り、その甲に口付けた。
姉は顔を真っ赤にして、挨拶もそこそこに廊下の先に一瞬で消えた…。
「姉さん……」
さっきまでの勢いはなんだったのか。呆れて姉を見送ると、すぐ後ろにツヴァイが立っていた。
振り返り改めてツヴァイを見上げる。一晩でどうやってここまで大きくなったのか…。
俺より頭一つ分高い、エリアス殿下よりも高いかもしれない。
意外と身体に厚みもあるが…治癒師に筋肉は必要ないのではないだろうか?
不躾にツヴァイの身体を観察していると、頭上から声が掛かった。
「なんか僕に言う事ないワケ?」
「言うこと…?」
おはようと挨拶を返してなかったが絶対これではない自信がある。
「大きくなった…な?」
「くっ、ははっ」
珍しく笑った男を不思議に思って見上げた。身体が大人になって態度に余裕でも出たのか?
「テオドール殿下と同じコト言うんだな」
「ああ…そういう…」
確かに親戚の子どもに使うような言い回しだったかもしれない。
「そんな事より俺はすぐに出発するけど、ツヴァイはどうする?」
なんとなくツヴァイが俺の家族を気に入ってくれた気がして、もう少し滞在するか聞いてみる。
俺の見送りになんて出なければ、あと半日はこの家でゆっくり出来る筈だ。
それで馬車で大人しく城に帰ってくれと思ったが、彼は腰までありそうな髪を指ですきながら首を振った。
「いやアンタの覚悟を見届けてから帰るよ」
なんとも底意地が悪そうに笑って、そんな事を言った。
25
あなたにおすすめの小説
ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた
風
BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。
「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」
俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
初恋ミントラヴァーズ
卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。
飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。
ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。
眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。
知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。
藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。
でも想いは勝手に加速して……。
彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。
果たしてふたりは、恋人になれるのか――?
/金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/
じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。
集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。
◆毎日2回更新。11時と20時◆
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる