好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう

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ミラ編

ミラへの詭計

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 しばらく私は立ち直れなかった。エレナはまた本に手を付けない私を心配していろいろ言ってくれるけれど、まさか王太子殿下にお会いする機会が潰されて悲しいなどと口にできなくて、なんでもないのよと言うしかなかった。

 そんな時に兄が私の部屋に珍しくやってきた。私と八歳離れている兄はすでに伯爵家の執務を手伝い、王宮にも時々上がっている。幼馴染の義姉と結婚して、伯爵家の別棟に住んでいる。

「ミラ 最近ディビスと会ってるか」

「いいえ いつも通り手紙も来ないし、夜会へのエスコートもないわ」

「そうか」

 兄が考え込む。

「これは知っておいた方がいいと思うので言っておく。父上は絶対お前には教えないだろうから」

「なんでしょうか」

「ディビスは最近男爵家の娘をエスコートして夜会に行ってる。それだけでなく、その娘を連れて宝飾店などに出入りしていろいろ買ってやっているらしい」

 ディビスは女好きで過去にも女を連れて歩いていたのでショックではない。女らしい豊満な身体の女性が好きだと取り巻きと王宮の休憩室で言い放っているのを聞いたこともある。私のことは常に貶められていた。

「そんなこと、いつもではありませんか。今更です」

「いや いつもより入れ込んでいるとの噂だ。女の方もドルン侯爵家の景気の良さに必死に媚びを売ってるらしい。万が一にお前に危害を与えられるといけない。ディビスには商会つながりのたちの悪い取り巻きがいる。それにしても父上は末っ子で可愛がってたお前をなぜあんな男と婚約させたか、わからない。私は反対だった。なんとか白紙にできないか頑張るから、お前は身の回りに気をつけてくれ」

 この時の真摯な兄の忠告をちゃんと聞いておけば良かったと未来の私は後悔することになる。


*****


 一ヶ月後珍しいことに、ディビスからドルン侯爵家の夜会に招待された。エスコートするからとカードと花束が贈られて来た。
 迎えの馬車に乗りドルン侯爵家に出向いた。相変わらずお金のあることを誇示したキラキラしい邸だった。
 珍しくディビスが満面の笑みで迎えに来て、エスコートされてダンスを踊った。ディビスが客に挨拶してくると離れたので、招待した側だから当たり前と思い隅にしつらえられた長椅子に座った。
 そこに胸を思い切り主張した艶福なドレスを着た令嬢が声をかけて来た。

「あの ミラ様でいらっしゃいますか」

「はい」

「申し訳ありません。私は男爵家のものなので本当ならミラ様にお声を掛けられないのですが、どうしてもミラ様にお話しておきたいことがありまして」

「なんでしょうか」

「あの ディビス様の事です。ここでは人様の目もありますし、休憩室で二人でお話させていただけないでしょうか」

 その男爵令嬢は伏し目でさも申し訳ないようにぼそぼそ話した。

「お願いです。どうしてもミラ様にお話しないといけないのです!」

 ふと見るとふるふると身体を震わせ涙目で私を見ている。女性とならいいかと思い承諾をして休憩室に入った。灯りが足りなくて薄暗いのが気になったが、入口のソファに腰掛けた。

「あの 私 ブレンケ男爵家の娘のリリアと言います」

 ああ ディビスが豊満だと褒めていた令嬢はこの人か。リリアが部屋の奥に設えてあったティーセットに手をかけて、お茶を入れ出した。やけに用意がいいなとは思ったが令嬢相手だったので何も言わなかった。
 カップにお茶を注ぎ、私に勧めて来た。
 リリア自身もカップを手に持ち伏し目がちになって一口口に含んだのを見て私も紅茶を飲んだ。

「私ずっと領地にいて王都には今年生まれて初めて出てきました。貴族のことなんにも知らなくて、ディビス様に夜会で声かけられて有頂天になって恋人になったつもりでいました」

 リリアが俯いて涙を拭こうとハンカチを出した。

「そしたらディビス様にはミラ様がいらっしゃると聞いてびっくりしてしまって。ミラ様、申し訳ありませんでした。私はまたすぐいなくなりますので、お許し下さい。これ ディビス様に買ってもらったものです。お返ししますので受け取って下さい」

 と派手なデザインのネックレスを渡して来る。

「いりません」

 と言おうとしたのに、舌が痺れて口がきけない。身体が前のめりになり、自由がきかない。

「おい うまくいったか」

 知らない男の声がする。

「私の役目はここまでよ。ティーセット持って消えるからよろしくね」

 リリアがワゴンを押して出て行く音がする。リリアあなた何したの。身体の奥底から恐怖が立ち昇る。見知らぬ男に抱き上げられ、ソファに寝かされた。身体も舌も痺れて動けない。

「やっちまいたいけど、さすがに名家の令嬢だから後がうるさいからな」

 男はニヤリと笑って私のドレスの裾を膝までたくし上げ、胸元を広げようと手をかけるために、私の上に覆いかぶさった。そこにどやどやと人が複数動く音がしていきなりドアが開けられた。

「ミラ!何してる!」




 
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