16 / 43
ミラ編
ミラへの詭計
しおりを挟む
しばらく私は立ち直れなかった。エレナはまた本に手を付けない私を心配していろいろ言ってくれるけれど、まさか王太子殿下にお会いする機会が潰されて悲しいなどと口にできなくて、なんでもないのよと言うしかなかった。
そんな時に兄が私の部屋に珍しくやってきた。私と八歳離れている兄はすでに伯爵家の執務を手伝い、王宮にも時々上がっている。幼馴染の義姉と結婚して、伯爵家の別棟に住んでいる。
「ミラ 最近ディビスと会ってるか」
「いいえ いつも通り手紙も来ないし、夜会へのエスコートもないわ」
「そうか」
兄が考え込む。
「これは知っておいた方がいいと思うので言っておく。父上は絶対お前には教えないだろうから」
「なんでしょうか」
「ディビスは最近男爵家の娘をエスコートして夜会に行ってる。それだけでなく、その娘を連れて宝飾店などに出入りしていろいろ買ってやっているらしい」
ディビスは女好きで過去にも女を連れて歩いていたのでショックではない。女らしい豊満な身体の女性が好きだと取り巻きと王宮の休憩室で言い放っているのを聞いたこともある。私のことは常に貶められていた。
「そんなこと、いつもではありませんか。今更です」
「いや いつもより入れ込んでいるとの噂だ。女の方もドルン侯爵家の景気の良さに必死に媚びを売ってるらしい。万が一にお前に危害を与えられるといけない。ディビスには商会つながりのたちの悪い取り巻きがいる。それにしても父上は末っ子で可愛がってたお前をなぜあんな男と婚約させたか、わからない。私は反対だった。なんとか白紙にできないか頑張るから、お前は身の回りに気をつけてくれ」
この時の真摯な兄の忠告をちゃんと聞いておけば良かったと未来の私は後悔することになる。
*****
一ヶ月後珍しいことに、ディビスからドルン侯爵家の夜会に招待された。エスコートするからとカードと花束が贈られて来た。
迎えの馬車に乗りドルン侯爵家に出向いた。相変わらずお金のあることを誇示したキラキラしい邸だった。
珍しくディビスが満面の笑みで迎えに来て、エスコートされてダンスを踊った。ディビスが客に挨拶してくると離れたので、招待した側だから当たり前と思い隅にしつらえられた長椅子に座った。
そこに胸を思い切り主張した艶福なドレスを着た令嬢が声をかけて来た。
「あの ミラ様でいらっしゃいますか」
「はい」
「申し訳ありません。私は男爵家のものなので本当ならミラ様にお声を掛けられないのですが、どうしてもミラ様にお話しておきたいことがありまして」
「なんでしょうか」
「あの ディビス様の事です。ここでは人様の目もありますし、休憩室で二人でお話させていただけないでしょうか」
その男爵令嬢は伏し目でさも申し訳ないようにぼそぼそ話した。
「お願いです。どうしてもミラ様にお話しないといけないのです!」
ふと見るとふるふると身体を震わせ涙目で私を見ている。女性とならいいかと思い承諾をして休憩室に入った。灯りが足りなくて薄暗いのが気になったが、入口のソファに腰掛けた。
「あの 私 ブレンケ男爵家の娘のリリアと言います」
ああ ディビスが豊満だと褒めていた令嬢はこの人か。リリアが部屋の奥に設えてあったティーセットに手をかけて、お茶を入れ出した。やけに用意がいいなとは思ったが令嬢相手だったので何も言わなかった。
カップにお茶を注ぎ、私に勧めて来た。
リリア自身もカップを手に持ち伏し目がちになって一口口に含んだのを見て私も紅茶を飲んだ。
「私ずっと領地にいて王都には今年生まれて初めて出てきました。貴族のことなんにも知らなくて、ディビス様に夜会で声かけられて有頂天になって恋人になったつもりでいました」
リリアが俯いて涙を拭こうとハンカチを出した。
「そしたらディビス様にはミラ様がいらっしゃると聞いてびっくりしてしまって。ミラ様、申し訳ありませんでした。私はまたすぐいなくなりますので、お許し下さい。これ ディビス様に買ってもらったものです。お返ししますので受け取って下さい」
と派手なデザインのネックレスを渡して来る。
「いりません」
と言おうとしたのに、舌が痺れて口がきけない。身体が前のめりになり、自由がきかない。
「おい うまくいったか」
知らない男の声がする。
「私の役目はここまでよ。ティーセット持って消えるからよろしくね」
リリアがワゴンを押して出て行く音がする。リリアあなた何したの。身体の奥底から恐怖が立ち昇る。見知らぬ男に抱き上げられ、ソファに寝かされた。身体も舌も痺れて動けない。
「やっちまいたいけど、さすがに名家の令嬢だから後がうるさいからな」
男はニヤリと笑って私のドレスの裾を膝までたくし上げ、胸元を広げようと手をかけるために、私の上に覆いかぶさった。そこにどやどやと人が複数動く音がしていきなりドアが開けられた。
「ミラ!何してる!」
そんな時に兄が私の部屋に珍しくやってきた。私と八歳離れている兄はすでに伯爵家の執務を手伝い、王宮にも時々上がっている。幼馴染の義姉と結婚して、伯爵家の別棟に住んでいる。
「ミラ 最近ディビスと会ってるか」
「いいえ いつも通り手紙も来ないし、夜会へのエスコートもないわ」
「そうか」
兄が考え込む。
「これは知っておいた方がいいと思うので言っておく。父上は絶対お前には教えないだろうから」
「なんでしょうか」
「ディビスは最近男爵家の娘をエスコートして夜会に行ってる。それだけでなく、その娘を連れて宝飾店などに出入りしていろいろ買ってやっているらしい」
ディビスは女好きで過去にも女を連れて歩いていたのでショックではない。女らしい豊満な身体の女性が好きだと取り巻きと王宮の休憩室で言い放っているのを聞いたこともある。私のことは常に貶められていた。
「そんなこと、いつもではありませんか。今更です」
「いや いつもより入れ込んでいるとの噂だ。女の方もドルン侯爵家の景気の良さに必死に媚びを売ってるらしい。万が一にお前に危害を与えられるといけない。ディビスには商会つながりのたちの悪い取り巻きがいる。それにしても父上は末っ子で可愛がってたお前をなぜあんな男と婚約させたか、わからない。私は反対だった。なんとか白紙にできないか頑張るから、お前は身の回りに気をつけてくれ」
この時の真摯な兄の忠告をちゃんと聞いておけば良かったと未来の私は後悔することになる。
*****
一ヶ月後珍しいことに、ディビスからドルン侯爵家の夜会に招待された。エスコートするからとカードと花束が贈られて来た。
迎えの馬車に乗りドルン侯爵家に出向いた。相変わらずお金のあることを誇示したキラキラしい邸だった。
珍しくディビスが満面の笑みで迎えに来て、エスコートされてダンスを踊った。ディビスが客に挨拶してくると離れたので、招待した側だから当たり前と思い隅にしつらえられた長椅子に座った。
そこに胸を思い切り主張した艶福なドレスを着た令嬢が声をかけて来た。
「あの ミラ様でいらっしゃいますか」
「はい」
「申し訳ありません。私は男爵家のものなので本当ならミラ様にお声を掛けられないのですが、どうしてもミラ様にお話しておきたいことがありまして」
「なんでしょうか」
「あの ディビス様の事です。ここでは人様の目もありますし、休憩室で二人でお話させていただけないでしょうか」
その男爵令嬢は伏し目でさも申し訳ないようにぼそぼそ話した。
「お願いです。どうしてもミラ様にお話しないといけないのです!」
ふと見るとふるふると身体を震わせ涙目で私を見ている。女性とならいいかと思い承諾をして休憩室に入った。灯りが足りなくて薄暗いのが気になったが、入口のソファに腰掛けた。
「あの 私 ブレンケ男爵家の娘のリリアと言います」
ああ ディビスが豊満だと褒めていた令嬢はこの人か。リリアが部屋の奥に設えてあったティーセットに手をかけて、お茶を入れ出した。やけに用意がいいなとは思ったが令嬢相手だったので何も言わなかった。
カップにお茶を注ぎ、私に勧めて来た。
リリア自身もカップを手に持ち伏し目がちになって一口口に含んだのを見て私も紅茶を飲んだ。
「私ずっと領地にいて王都には今年生まれて初めて出てきました。貴族のことなんにも知らなくて、ディビス様に夜会で声かけられて有頂天になって恋人になったつもりでいました」
リリアが俯いて涙を拭こうとハンカチを出した。
「そしたらディビス様にはミラ様がいらっしゃると聞いてびっくりしてしまって。ミラ様、申し訳ありませんでした。私はまたすぐいなくなりますので、お許し下さい。これ ディビス様に買ってもらったものです。お返ししますので受け取って下さい」
と派手なデザインのネックレスを渡して来る。
「いりません」
と言おうとしたのに、舌が痺れて口がきけない。身体が前のめりになり、自由がきかない。
「おい うまくいったか」
知らない男の声がする。
「私の役目はここまでよ。ティーセット持って消えるからよろしくね」
リリアがワゴンを押して出て行く音がする。リリアあなた何したの。身体の奥底から恐怖が立ち昇る。見知らぬ男に抱き上げられ、ソファに寝かされた。身体も舌も痺れて動けない。
「やっちまいたいけど、さすがに名家の令嬢だから後がうるさいからな」
男はニヤリと笑って私のドレスの裾を膝までたくし上げ、胸元を広げようと手をかけるために、私の上に覆いかぶさった。そこにどやどやと人が複数動く音がしていきなりドアが開けられた。
「ミラ!何してる!」
105
あなたにおすすめの小説
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
東雲の空を行け ~皇妃候補から外れた公爵令嬢の再生~
くる ひなた
恋愛
「あなたは皇妃となり、国母となるのよ」
幼い頃からそう母に言い聞かされて育ったロートリアス公爵家の令嬢ソフィリアは、自分こそが同い年の皇帝ルドヴィークの妻になるのだと信じて疑わなかった。父は長く皇帝家に仕える忠臣中の忠臣。皇帝の母の覚えもめでたく、彼女は名実ともに皇妃最有力候補だったのだ。
ところがその驕りによって、とある少女に対して暴挙に及んだことを理由に、ソフィリアは皇妃候補から外れることになる。
それから八年。母が敷いた軌道から外れて人生を見つめ直したソフィリアは、豪奢なドレスから質素な文官の制服に着替え、皇妃ではなく補佐官として皇帝ルドヴィークの側にいた。
上司と部下として、友人として、さらには密かな思いを互いに抱き始めた頃、隣国から退っ引きならない事情を抱えた公爵令嬢がやってくる。
「ルドヴィーク様、私と結婚してくださいませ」
彼女が執拗にルドヴィークに求婚し始めたことで、ソフィリアも彼との関係に変化を強いられることになっていく……
『蔦王』より八年後を舞台に、元悪役令嬢ソフィリアと、皇帝家の三男坊である皇帝ルドヴィークの恋の行方を描きます。
嫌われ者の王弟殿下には、私がお似合いなのでしょう? 彼が王になったからといって今更離婚しろなんて言わないでください。
木山楽斗
恋愛
冷遇されていたフェルリナは、妹の策略によって嫌われ者の王弟殿下ロナードと結婚することになった。
色々と問題があると噂だったロナードとの婚約に不安を感じていたフェルリナだったが、彼は多少面倒臭がり屋ではあったが、悪い人ではなかっため、なんとか事なきを得た。
それから穏やかな生活を送っていた二人だったが、ある時ロナードの兄である国王が死去したという事実を知らされる。
王位を継承できるのは、ロナードだけであったため、彼はほぼなし崩し的に国王となり、フェルリナはその妻となることになったのだ。
しかし、フェルリナの妹はそれを快く思わなかった。
ロナードと婚約破棄しろ。そう主張する妹を、フェルリナはロナードの助けも借りつつ切り捨てるのだった。
【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか
まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。
己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。
カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。
誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。
ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。
シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。
そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。
嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。
カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。
小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。
その結婚、承服致しかねます
チャイムン
恋愛
結婚が五か月後に迫ったアイラは、婚約者のグレイグ・ウォーラー伯爵令息から一方的に婚約解消を求められた。
理由はグレイグが「真実の愛をみつけた」から。
グレイグは彼の妹の侍女フィルとの結婚を望んでいた。
誰もがゲレイグとフィルの結婚に難色を示す。
アイラの未来は、フィルの気持ちは…
【完結】ロザリンダ嬢の憂鬱~手紙も来ない 婚約者 vs シスコン 熾烈な争い
buchi
恋愛
後ろ盾となる両親の死後、婚約者が冷たい……ロザリンダは婚約者の王太子殿下フィリップの変容に悩んでいた。手紙もプレゼントも来ない上、夜会に出れば、他の令嬢たちに取り囲まれている。弟からはもう、婚約など止めてはどうかと助言され……
視点が話ごとに変わります。タイトルに誰の視点なのか入っています(入ってない場合もある)。話ごとの文字数が違うのは、場面が変わるから(言い訳)
クリスティーヌの本当の幸せ
宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。
この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
【完結】嘘も恋も、甘くて苦い毒だった
綾取
恋愛
伯爵令嬢エリシアは、幼いころに出会った優しい王子様との再会を夢見て、名門学園へと入学する。
しかし待ち受けていたのは、冷たくなった彼──レオンハルトと、策略を巡らせる令嬢メリッサ。
周囲に広がる噂、揺れる友情、すれ違う想い。
エリシアは、信じていた人たちから少しずつ距離を置かれていく。
ただ一人、彼女を信じて寄り添ったのは、親友リリィ。
貴族の学園は、恋と野心が交錯する舞台。
甘い言葉の裏に、罠と裏切りが潜んでいた。
奪われたのは心か、未来か、それとも──名前のない毒。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる