好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう

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ミラ編

ミラの諦念

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 私はどうしたのだろう。あんなに大好きだった本にも手が伸びない。私付き侍女のエレナに訝しげに見られた。

「お嬢様 デビュタントの舞踏会から帰られてからお身体どこかお悪いのですか?いえ、この前王宮の図書室から戻られてから本をお読みになられなくて、絶対おかしいです」

 そんなにおかしく見えるのか。私が普段どれだけ本にのめり込んでるかの証拠だなと思う。

「デビュタントで嫌なことあったのですか?あのディビス様が何かしたとか」

「ディビスはいつも通り私を放置していたから何もないわ」

「いえ ちょっと嫌な話を聞いたのでもしかしてと思って」

 エレナは何か言いたげだったけど、私はこの時聞き出さなかった。図書室で会った王太子殿下と交わした会話を頭の中で反芻していたからだ。


 次の日また王宮に上がる父について、王宮の図書室に行った。思わず周りを見回したけど、王太子殿下はいなかった。十六になって表に出てこられた殿下は執務に忙しいから、ここに来るわけないと分かってはいたけど、期待してしまっていた。頭の中で反芻する会話を頭を振り、自分の頬を叩いて追い出そうとした。

「そんなに強く叩くと跡になるよ」

 後ろから声をかけられて、飛び上がるほどびっくりした。

「今日は何の本がお目当て?本が好きなんだね」

 振り返るとキラキラした笑みを浮かべた王太子殿下がいらした。私は慌てて礼をするために腰をかがめようとしたが、本棚と本棚の間で狭くて肘が本棚の角に当たってしまった。

「ああ こんな狭いとこで礼なんていらないよ。でも私が誰か知ってるのだね」

「申し訳ありません。あの先日のデビュタントでお見かけして」

「謝ることなんて何もないよ。そうか 君は今年のデビュタントだったんだね。でも一緒に踊ることなかったね。誰と踊ったの」

「あ あの 王弟殿下に踊っていただきました」

「そうか 君は伯爵家か子爵家の令嬢なのか」

 私は王太子殿下と踊れるのは、やはり高位貴族の令嬢なんだと心中複雑だった。

「はい 私はホーク伯爵家の娘でございます」

「ホーク伯爵令嬢だったのだね。王妃のお茶会の招待状は届いた?」

「いえ まだ拝見してません。」

「デビュタントの令嬢を集めてするお茶会なので、その年で人数は違うけれど、王妃は気さくに対応してくれるから、気負わずに参加して」

 それだけ言われると、入り口で待っていた護衛に声を掛けて、殿下は行ってしまわれた。
 それだけでも、嬉しくてまた私は殿下との会話を反芻した。王妃様のお茶会に行ったらまた殿下お会いできるかもしれないと思ったら胸が高鳴った。

 父を待って邸に帰ると、執事が王宮から招待状が来てると父に渡した。その場で封を切りざっと見た父が私を見て言った。

「王妃様から今年のデビュタントでデビューした令嬢へお茶会に招待したいと招待状が来た。だが、お断りする」

 なぜ!とつい言葉が強く出た。

「どうしてですか!お父様 王妃様のご招待をお断りするなんて非礼です」

 じろりと私を見た父が

「王妃様のお茶会は、まだ婚約者がいなくて相手を探しています。よいご縁がございましたらお願いしますという王妃様に目に留めていただく主旨で参加する令嬢のものだ。お前にはもうディビス殿がいるだろう。ドルン侯爵家にお茶会に出たなど伝わったら、どう誤解されるかわからない。いいな、我が家は不参加だ。婚約者のいる令嬢は断っても非礼ではない」

 それだけ言うと、父はさっさと執務室に入って行った。残された私は思わず膝を付いた。エレナが駆け寄って来た。

「どうされました。お嬢様。旦那様がなにか?」

 心配そうに覗き込むエレナ。私は自分にはあのディビスしか与えられないのだと思うと涙も出なかった。
 王太子殿下に自分が相応しいとは思ってはいなかったが、たまに会話するぐらいのご褒美があってもいいのではないかと思っていたが、それも身分不相応なのか。全てを諦めて嫌われながらこの婚約を受け入れ続けるしかないのだ。
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