好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ミラ編

ミラへの断罪

　ディビスの大声が廊下にまで響き渡る。そばに立っているリリアの甲高い悲鳴がホールまで響く。

　私の上にのっていた見知らぬ男が勢いよく立ち上がり、開け放たれたドアへ走り出した。ドアに立っていたディビスとリリアはさっと身体を退けて男が逃げて行くのを助けた。

「ミラ　お前という女は婚約者の家の夜会に来て男を引っ張り込む淫婦だったんだな」

　ディビスは大声で外にも聞こえるように言った。私は反論したくとも、舌も身体も痺れている。

「まああ　ここに宝石がありますわ。ミラ様は男からこんなものを受け取って身体を許していらしたのね」

　リリアが甲高い声で叫ぶ。その声でホールから物見高い招待客が見に来てしまっていた。それで私は陥れられたと悟った。



　それからすぐ夜会は中止されて、招待客を返した後ドルン侯爵が私の父を呼び、婚約破棄を宣言した。ホーク伯爵家に貸し付けられた金の即時の返金か高利での借金に切り替えるか迫られて、父は高利での借金を選んだ。
　父が来た頃に薬が抜けて口もきけるようになった私は父に冤罪だと訴えた。だが父はこんなに証人がいて、もう王都中にお前のスキャンダルは知れ渡った。お前は嫁にも行けない。恥ずかしくて外にも出せない。と平手打ちをした。
　私は二度と王太子殿下にお会いすることは叶わないのかと胸の奥が冷えてしまった。


　父に引き摺られるように邸に帰り、私室に閉じ込められた。外でエレナが父に入室をさせてくれと懇願する声が聞こえた。
　それから一ヶ月後私に離島の修道院に行くようにと父が告げた。
　その頃には全て諦めていた私は静かに受け入れた。エレナが同行を懇願したらしいが許可されなかった。
　旅立つ日義姉が見送りに港までそっと来てくれた。

「ミラ　悲観しないで。アランがあなたを絶対助けると言ってるわ。お義父様の目があるからここに来れないけど、私から伝えるように言われているの」

　兄は私を信じてくれている。嬉しかった。

「無理しないで。私のせいでドルン侯爵家に高利の借金ができたのでしょう。これ以上家族に迷惑をかけれない」

　そう言って私は生まれて初めて船に乗った。離島行きの船は離島に食料と水を運ぶ船で、私はわずかなスペースに身を潜めて、荒い波に洗われる旅を味わった。ようやく離島にたどり着いた時私は船酔いで真っ青になって倒れそうだった。

　私を出迎えてくれたのは、お年を召した院長様と私より年長の修道女のみんなだった。真っ青な私を見て、すぐ私室に案内してくれ今日はもう休むように言ってくれた。また明日お話しましょうと院長様は穏やかに微笑まれた。そのお顔を見て私は幼い頃に母をなくした私の母代わりのようなエレナを思い出し、エレナが恋しかった。

　休むように言われても、伯爵家のベットに比べて硬いマット、ごわごわした上掛け、一つしかない平べったい枕、どれも慣れなくて寝られない夜だった。灯りが足りなくて真っ暗な部屋で流れる涙は誰にも見られることがなかった。