好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう

文字の大きさ
28 / 43
ミラ編

エレナとの再会

しおりを挟む
 その日はなんだかそわそわして来客を待った。私の会いたい人…昔は王太子殿下だった。あの方の面影を追い求め、交わした言葉を反芻して噛み締めた。でも今……私の会いたい人は。

「ミラ!馬車だよ!エミール様!」

 
 エミリアの甲高い声が響く。門のところで朝から待っていたのだ。慌てて門まで出迎えるとエミール様と一緒に入ってきた女性を見て、涙が溢れた。

「エレナ…エレナ」

 思わず抱きついた。

「お嬢様 お会いしたかった。十年ぶりですね。お元気そうで嬉しいです。でもあんなにお綺麗だった髪が短くなってしまって」

 私を抱きしめ返してくれたのは、母代わりで幼い頃から私を育ててくれたエレナだ。

「修道女してたのでしょうがないわ」

「ミラ嬢 ホーク伯爵からエレナをあなたに付けたいと言われたので連れてきました。医師も口の固い人をホーク伯爵から紹介していただきました。マリアンヌの診察をしてもらうので、エミリアを近づけないようにしてもらえますか」

 エミール様が兄の紹介してくれたお医者様を連れてこられた。なんだか不安げなマリアンヌと別室に三人で入って行った。

「エミリア この人は私のお母さんみたいな人よ」

「エミリア エレナです。仲良くしてね」

「島にもエレナがいたよ」

 エレナは子供の相手がとても上手だ。あっという間にエミリアと仲良くなっていた。
 私はお医者様とエミール様に差し上げるお茶の用意をしていた。

 「違う!違う!」

 マリアンヌが悲鳴のような声を上げて部屋から飛び出してきた。そのマリアンヌを抱きとめて寝室に連れて行き、なだめていたらマリアンヌが寝息を立て始めた。
 居間に戻るとエレナがお医者様とエミール様にお茶を出してくれていた。

「ミラ お母さんどうしたの?」

 エミリアが抱きついてきた。私を見上げる目に不安がある。

「大丈夫よ。ちょっと大きな声を出しただけ」

「エミリア お母さんは大丈夫だから、台所でクッキー作らない?」
 
 エレナが声をかけるとパッと表情を明るくして、エレナと二人で台所に向かった。エミリアが出て行くのを確認してからエミール様が口を開いた。

「すまない。今後もし王太子殿下のお姿を見てマリアンヌが逆上するといけないと思って殿下の絵姿を見せてこの人は王太子殿下だからと言い含めようとしたら。いきなり叫び出してしまって」

 そこには王太子殿下と妃殿下の御婚姻の記念で配られた絵姿があった。懐かしい慕わしい殿下。島ではずっと交わした会話を反芻していたのに今は仲睦まじげに妃殿下と寄り添った絵姿を見てもなんとも思わなかった。

「マリアンヌはあくまで殿下がエミールだと言うんだ。エミリアの父親だと。ここで言うのは見逃せるけれど万が一外で言って死んだ事になってるのに身元がばれたらただではすまない。エミリアの将来も危ない」

 私は自分の指先をギュッと握って不安をなだめる。

「どうしたらいいのでしょうか」

 それまで黙っていた医師が口を開いた。

「過去のことがかなり錯乱しているようです。王太子殿下に関わる事なので、救護院に収容した方がいいと思うのですが、お子さんもいらっしゃるし、ここで見張りをつけて回復を待つのがいいかと」

「そうですね。隔離をして誰に見られるかわからない。ミラ嬢、お手間ですがこの家でマリアンヌの世話をお願いできますか?お金のことは心配しないで下さい」

 エミール様に言われてまだエミール様のおそばにいられると嬉しかった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

クリスティーヌの本当の幸せ

宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。 この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

婚約破棄は夜会でお願いします

編端みどり
恋愛
婚約者に尽くしていたら、他の女とキスしていたわ。この国は、ファーストキスも結婚式っていうお固い国なのに。だから、わたくしはお願いしましたの。 夜会でお相手とキスするなら、婚約を破棄してあげると。 お馬鹿な婚約者は、喜んでいました。けれど、夜会でキスするってどんな意味かご存知ないのですか? お馬鹿な婚約者を捨てて、憧れの女騎士を目指すシルヴィアに、騎士団長が迫ってくる。 待って! 結婚するまでキスは出来ませんわ!

【完結】恋を忘れた伯爵は、恋を知らない灰かぶり令嬢を拾う

白雨 音
恋愛
男爵令嬢ロザリーンは、母を失って以降、愛を感じた事が無い。 父は人が変わったかの様に冷たくなり、何の前置きも無く再婚してしまった上に、 再婚相手とその娘たちは底意地が悪く、ロザリーンを召使として扱った。 義姉には縁談の打診が来たが、自分はデビュタントさえして貰えない… 疎外感や孤独に苛まれ、何の希望も見出せずにいた。 義姉の婚約パーティの日、ロザリーンは侍女として同行したが、家族の不興を買い、帰路にて置き去りにされてしまう。 パーティで知り合った少年ミゲルの父に助けられ、男爵家に送ると言われるが、 家族を恐れるロザリーンは、自分を彼の館で雇って欲しいと願い出た___  異世界恋愛:短めの長編(全24話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千
恋愛
ロロビア王国、アークライド公爵家の娘ロザリア・ミラ・アークライドは夫のファーガスと結婚し、順風満帆の結婚生活・・・・・とは言い難い生活を送って来た。 なかなか子供を授かれず、夫はいつしかロザリアにに無関心なり、義母には子供が授からないことを責められていた。 そんな毎日をロザリアは笑顔で受け流していた。そんな、ある日、 「今日から愛しのサンドラがこの屋敷に住むから、お前は出て行け」 突然夫にそう告げられた。 夫の隣には豊満ボディの美人さんと嘲るように笑う義母。 理由も理不尽。だが、ロザリアは、 「旦那様、本当によろしいのですか?」 そういつもの微笑みを浮かべていた。

処理中です...