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ミラ編

ミラの二番目の恋

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 それから日々は単調に過ぎた。マリアンヌは幸い症状が悪化することもなく、エミリアにとって明るい母だ。エミリアの実際の世話はエレナが行い、私はエミリアの教育を担っている。
 できるなら将来エミール様の商会で働けるように読み書きと算術に重きを置いている。
 エミール様はお忙しいらしく、ここには滅多においでにならない。それでもおいでになる時はエミリアにエミリアの好きそうなお土産、私たちには美味しいものをと気を使ってもらっている。
 その日は一ヶ月ぶりにエミール様が訪問されて、エミリアははしゃぎマリアンヌも嬉しそうだった。相変わらずエミール様がマリアンヌに声をかけているのを見るのは辛い。

「今日はミラ嬢にお願いがあって。商会も順調にいって貴族との付き合いも増えました。商会の使用人に貴族の礼儀作法を教える講師をしてほしいのですが」

「いつもお世話になっているので、私でできることならなんでも」

 ああ そうじゃない。エミール様に会う機会が増えるのが嬉しいのだ。引き受けて週に二回エミール様の商会に出向く事になった。



 商会に出向く日が来た。エミール様からの迎えの馬車が来た。エレナにマリアンヌとエミリアを頼んで馬車に乗る。久々の外出だ。王都の中心部に向かうと見たことのある風景が広がっている。十年前は自分がこんな境遇になるとは思っていなかった。王太子殿下に心があっても嫌々ディビスに嫁ぐのだろうと諦めていた。そのまま嫁いで蔑ろにされた方が良かったのか、貴族の身分を失った今が良いのかと比べると今の方がいいに決まっていると思えた。

 そんなことを考えていたら、ヘルマン商会に着いた。まだ新しい商会だが、活気があり人の出入りも多いようだ。エミール様が出迎えて下さった姿を見て自覚した。私はこの人に恋をしているのだと。しかしこの人はいつも穏やかな目を向けてはくれるけれど、熱の篭った目は向けてくれない。複雑な気持ちでエミール様に着いて行く。


「教えていただきたいことは、女性従業員の貴族に対する所作言葉使い全般を。お茶の入れ方などもお願いしたい。男性従業員にも言葉使いが間違っていないかチェックもお願いできますか」

「お茶はエレナを今度同伴しますので、エレナから教えて貰った方が確実です。それ以外は私でも教えることができます」

「ありがとうございます。では今日は女性従業員を手の空き次第向かわせますので、客に対する作法を教えてやって下さい」

 エミール様が一度出て行かれ、女性従業員を二人連れて入ってきた。どんなことがわからないのか聞き、実際の入室の仕方から教えていたら言葉使いは教本があった方がいいことに気がついた。今日はわからないないことを教えるに終始して、家で教本を作ってそれを元に教えたいとエミール様に提案する。

「教本ですか、自習のためにもいいですね。原本を作っていただければ印刷します」

「それで間違ったことを教えるといけないので図書室に行きたいのですが」

「もう私も貴族ではないので王宮の図書室には入れませんが、王都にある有料の図書室になら行けますのでご一緒します」

 エミール様と二人で出歩ける。仕事だけれども胸が高まる。
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