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ミラ編
エミールの初恋
しおりを挟むエミール様が迎えに来て下さった。馬車で行くより歩いた方が早く行けるとのことで、エミール様にエスコートされて歩く。街並みを見ながら二人で歩く。仕事だとはわかってはいるけれど、それだけで嬉しい。なんでもない穏やかな雑談が嬉しい。彼の口からマリアンヌの名前が出ないのも嬉しい。
図書室に着きエミール様が身分証明書を提示し、私の保証人になって下さり、有料で私の入室許可証が作られた。本を借りて家に持ち帰るにはお金がいるとのこと。王宮の図書室とは大いに違う。あそこは貴族であれば無償で借りることができた。私はもう貴族ではないんだと今更実感した。
それでも敬語の使い方の実例が載っている本を二冊ほど借りて帰る事にした。
帰り道でエミール様にお茶でもいかがですかと、街のカフェに誘われた。
また仕事の話かと思ったら、好きな本は何かと私について聞いて下さる。昔に戻ったような気分でこんな本が好きとかこんな本を読んだとかエミール様と話ができて満足だった。
美味しいお茶とお菓子を頂いて帰る道すがらふと見ると大きな商店に王太子殿下の婚姻記念の絵姿が貼ってあった。それをじっと見つめるエミール様の視線が切なくて哀しげで、見ている私の胸が切なくなった。
王太子殿下に焦がれているマリアンヌのことを考えているのだろうか?
「マリアンヌのこと考えていらっしゃるのですか?」
思わず口に出てしまい、慌ててまた言葉を重ねる。
「あの その あまりにお辛そうなので、あの方に焦がれているマリアンヌが心配なのかと思って…」
エミール様が目を細めて穏やかに笑われた。
「マリアンヌ?いえ、マリアンヌのことは考えていませんよ。そうですね。ミラ嬢に私の愚かな初恋の話を聞いてもらおうかな。立ち話では話せないし、送っていきますので、客間で話してもいいですか?」
それから二人とも黙ってしまい、エスコートしてくださって、家まで送っていただいた。
帰ってからエレナにお茶を頼んで客間へ行く。エレナがお茶を注いで下がってから、エミール様は口をひらかれた。
「私がまだ十五の時に妃殿下に会ったのです。今もお美しいですが、幼少時も天使でした。心をあっという間に持って行かれました」
苦しい。こんな事を聞きたいんじゃない。マリアンヌの事より苦しい。エミール様の思い出す表情が優しげで慕わしげで本当に愛してらしたのだ。
「……という訳で愚かな私はドルン侯爵の罠に嵌り、マリアンヌと関係を持ったのです。それでエミリアの父親候補になってしまった訳なのです。ミラ嬢から見ると恋に狂って道を誤った愚かな男に見えますでしょう?」
「そんな事はありません。過去に過ちがあるのは誰でもです」
「ミラ嬢は被害者です。何も悪いところなどない。私のような汚い男は軽蔑されても仕方ありません」
「卑下なさらないで!エミール様は十分立ち直っていらっしゃる」
泣けて来た。こんな言葉はエミール様に届かない。上っ面で滑っていくだろう。あの方に気持ちを届かせるにはどうすればいいのだろう。
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