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第三話 マフラーに込めた想い
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グレイと出会ってから数日が経った。
あの後、魔王城の中庭や回廊で偶然出会うことが増えた。最初は本当に偶然だと思っていたが、回数が増えるにつれて、春斗はある疑念を抱き始める。
(……あれ、これもしかして……偶然じゃない?)
今日もまた、春斗が書斎に向かって廊下を歩いていると──
「……春斗」
不意に名前を呼ばれて、春斗はビクリと肩を跳ねさせた。背後には、まるで空気の流れが変わったような気配。そして、聞き覚えのある声。
「グレイさん……!びっくりした。急に出てこないでくださいよ~、心臓に悪い」
「……悪い。待っていた」
「え、待ってたんですか? 俺のこと?」
「ああ」
真顔で即答されて、春斗は一瞬言葉を失う。
(ちょっと待って、これって……え? どういうこと?)
グレイは、淡々とした顔のまま、無言で手にしていたものを差し出した。
「……これを、君に」
差し出されたのは、薄い布。よく見ると、手編みのマフラーだった。氷のような白銀の糸が丁寧に編まれている。
「これ……グレイさんが?」
「……手が冷たいから、糸が張って……少し、歪だが」
「いや、すごいですよ!こんな細かい作業を……でも、どうして?」
春斗が尋ねると、グレイは少し目を逸らしてから答えた。
「……この前、寒そうにしていたから。……君が、震えたのを見て……嫌だった」
その一言に、春斗の胸がじんわりと熱くなる。
寒さに気づいてくれていたこと。自分のせいでそうさせたことを、気にしていたこと。言葉が少ない彼なりの気遣いに、春斗は自然と笑みを浮かべた。
(これを俺に渡したくて何回も声をかけてくれてたのか……)
春斗はグレイの気持ちを考えると胸がほくほくと温かくなった。
「ありがとう、グレイさん。すっごく嬉しい。今度からこれ巻いて話しますね。──これなら、あなたにもっと近づけそうだし」
その言葉に、グレイの瞳が大きく揺れた。そして、すぐに目を伏せてしまったが、その頬がほんのり赤く染まっていたことに、春斗はちゃんと気づいていた。
「早速巻いてみますね!」
春斗は嬉しそうに、グレイからもらったマフラーを巻いた。
「どう?似合ってます?」
ふいにそう言って顔を上げると、グレイは少し目を丸くして──そして、うっすらと微笑んだ。
「……ああ」
「よかった……じゃあ、これ巻いて、今度はもっと寒いとこでも平気かもですね」
春斗が軽く冗談を言ったそのとき──
「……春斗?」
背後で聞き慣れた、優しく低い声がした。
振り返ると、そこにはバロンが立っていた。書類を抱えたままの姿で、偶然この場所を通りかかったようだった。
「あっ、バロンさん!」
春斗が嬉しそうに手を振ると、バロンはゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。その瞳は、穏やかだけれどマフラーへと向ける視線は少し冷ややかだった。
「そのマフラー……」
「えへへ、グレイさんがくれたんです。俺、寒がりだって気にしてくれて」
春斗が無邪気に話すのを見守りながらも、バロンの表情にはわずかな変化があった。微笑んだまま、ほんの少しだけ──目元が寂しそうに揺れる。
「そうだったのか。春斗のことを考えてくれてありがとう、グレイ」
「……」
グレイが視線を逸らす。春斗はというと、二人の空気に少しだけ気まずさを感じながらも、話題を変えようと口を開いた。
「あ、バロンさんも今お仕事中ですか?偶然でも会えて嬉しい」
その一言に、バロンの表情がやわらぐ。
「ああ、たまたま通りかかっただけだが、春斗の顔が見られてよかったよ」
バロンの優しい声に、春斗は胸がぽっと熱くなるのを感じた。
そんな春斗の様子を、グレイは無言で見つめていた。
(……彼に、笑いかけるときの表情が……違う)
冷たい瞳の奥で、かすかに揺れた感情。 それは、自分にはないものを見たような、苦い寂しさだった。
「……では、俺はこれで」
グレイがさっさとその場を離れようとしたとき──
「グレイさん、また話しましょうね!」
春斗のその言葉に、彼は立ち止まり、振り返らずに一言だけ答えた。
「……ああ」
そしてその背に、バロンはそっと視線を向けていた。春斗には見せない、静かな真剣な眼差し。その瞳は独占欲や嫉妬でゆらゆらと揺れていた。
二人きりになった廊下で、春斗がふと呟く。
「なんか不思議ですね、グレイさんって、冷たいようで優しい。でも、バロンさんといるときの安心感とはちょっと違ってて」
バロンは春斗の言葉を聞きながら、穏やかな微笑みを浮かべた。
「春斗がそう思ってくれるなら、それでいい。でも……一つだけ」
「え?」
「寒いときはちゃんと俺の傍にも来ること」
「は、はい……」
バロンの言葉に、春斗の心臓が一気に跳ね上がった。カァッと顔に熱が集まる。
そのあと、バロンは何事もなかったように歩き出し春斗を先導する。
春斗は頬を赤くしながら、背中に向かってぽつりと呟いた。
「ずるいな……バロンさん、いつもそういうこと言うんだから……」
氷のようなマフラーのぬくもりと、バロンの言葉の優しさと独占欲。
どちらも違うけれど、どちらも今の春斗にはかけがえのない温もりだった。
廊下に響く二人の足音だけが、静かにその余韻を包んでいた。
あの後、魔王城の中庭や回廊で偶然出会うことが増えた。最初は本当に偶然だと思っていたが、回数が増えるにつれて、春斗はある疑念を抱き始める。
(……あれ、これもしかして……偶然じゃない?)
今日もまた、春斗が書斎に向かって廊下を歩いていると──
「……春斗」
不意に名前を呼ばれて、春斗はビクリと肩を跳ねさせた。背後には、まるで空気の流れが変わったような気配。そして、聞き覚えのある声。
「グレイさん……!びっくりした。急に出てこないでくださいよ~、心臓に悪い」
「……悪い。待っていた」
「え、待ってたんですか? 俺のこと?」
「ああ」
真顔で即答されて、春斗は一瞬言葉を失う。
(ちょっと待って、これって……え? どういうこと?)
グレイは、淡々とした顔のまま、無言で手にしていたものを差し出した。
「……これを、君に」
差し出されたのは、薄い布。よく見ると、手編みのマフラーだった。氷のような白銀の糸が丁寧に編まれている。
「これ……グレイさんが?」
「……手が冷たいから、糸が張って……少し、歪だが」
「いや、すごいですよ!こんな細かい作業を……でも、どうして?」
春斗が尋ねると、グレイは少し目を逸らしてから答えた。
「……この前、寒そうにしていたから。……君が、震えたのを見て……嫌だった」
その一言に、春斗の胸がじんわりと熱くなる。
寒さに気づいてくれていたこと。自分のせいでそうさせたことを、気にしていたこと。言葉が少ない彼なりの気遣いに、春斗は自然と笑みを浮かべた。
(これを俺に渡したくて何回も声をかけてくれてたのか……)
春斗はグレイの気持ちを考えると胸がほくほくと温かくなった。
「ありがとう、グレイさん。すっごく嬉しい。今度からこれ巻いて話しますね。──これなら、あなたにもっと近づけそうだし」
その言葉に、グレイの瞳が大きく揺れた。そして、すぐに目を伏せてしまったが、その頬がほんのり赤く染まっていたことに、春斗はちゃんと気づいていた。
「早速巻いてみますね!」
春斗は嬉しそうに、グレイからもらったマフラーを巻いた。
「どう?似合ってます?」
ふいにそう言って顔を上げると、グレイは少し目を丸くして──そして、うっすらと微笑んだ。
「……ああ」
「よかった……じゃあ、これ巻いて、今度はもっと寒いとこでも平気かもですね」
春斗が軽く冗談を言ったそのとき──
「……春斗?」
背後で聞き慣れた、優しく低い声がした。
振り返ると、そこにはバロンが立っていた。書類を抱えたままの姿で、偶然この場所を通りかかったようだった。
「あっ、バロンさん!」
春斗が嬉しそうに手を振ると、バロンはゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。その瞳は、穏やかだけれどマフラーへと向ける視線は少し冷ややかだった。
「そのマフラー……」
「えへへ、グレイさんがくれたんです。俺、寒がりだって気にしてくれて」
春斗が無邪気に話すのを見守りながらも、バロンの表情にはわずかな変化があった。微笑んだまま、ほんの少しだけ──目元が寂しそうに揺れる。
「そうだったのか。春斗のことを考えてくれてありがとう、グレイ」
「……」
グレイが視線を逸らす。春斗はというと、二人の空気に少しだけ気まずさを感じながらも、話題を変えようと口を開いた。
「あ、バロンさんも今お仕事中ですか?偶然でも会えて嬉しい」
その一言に、バロンの表情がやわらぐ。
「ああ、たまたま通りかかっただけだが、春斗の顔が見られてよかったよ」
バロンの優しい声に、春斗は胸がぽっと熱くなるのを感じた。
そんな春斗の様子を、グレイは無言で見つめていた。
(……彼に、笑いかけるときの表情が……違う)
冷たい瞳の奥で、かすかに揺れた感情。 それは、自分にはないものを見たような、苦い寂しさだった。
「……では、俺はこれで」
グレイがさっさとその場を離れようとしたとき──
「グレイさん、また話しましょうね!」
春斗のその言葉に、彼は立ち止まり、振り返らずに一言だけ答えた。
「……ああ」
そしてその背に、バロンはそっと視線を向けていた。春斗には見せない、静かな真剣な眼差し。その瞳は独占欲や嫉妬でゆらゆらと揺れていた。
二人きりになった廊下で、春斗がふと呟く。
「なんか不思議ですね、グレイさんって、冷たいようで優しい。でも、バロンさんといるときの安心感とはちょっと違ってて」
バロンは春斗の言葉を聞きながら、穏やかな微笑みを浮かべた。
「春斗がそう思ってくれるなら、それでいい。でも……一つだけ」
「え?」
「寒いときはちゃんと俺の傍にも来ること」
「は、はい……」
バロンの言葉に、春斗の心臓が一気に跳ね上がった。カァッと顔に熱が集まる。
そのあと、バロンは何事もなかったように歩き出し春斗を先導する。
春斗は頬を赤くしながら、背中に向かってぽつりと呟いた。
「ずるいな……バロンさん、いつもそういうこと言うんだから……」
氷のようなマフラーのぬくもりと、バロンの言葉の優しさと独占欲。
どちらも違うけれど、どちらも今の春斗にはかけがえのない温もりだった。
廊下に響く二人の足音だけが、静かにその余韻を包んでいた。
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