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運命のつがいと初恋 第1章
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「親の会社に入っただけだ。それなりのポジションを与えてもらったから見合う働きをしようと必死だけど実際まだまだだよ」
秘書が付くそれなりのポジションって何かなと思う。一般的な役職を思い浮かべながら陽向はコーヒーカップを持ち直して飲んだ。
「三田村はいい先生なんだろうな。凛子、引っ込み思案というか知らない大人を怖がったりするんだが、昼間もし熱がなかったならすんなり遊べそうだったから」
「いいかどうかは分からないけど」
自分はいい先生だったのかなと振り返ってみる。日々の生活で子供達の色々な反応に納得、驚き、癒される事もあった。
子供達に取ってどうだったのかは分からないが、自分は楽しかった。Ωでなければまだ務めていられた、かもしれない。考えないようにしていても、ふとそうだったらなと思ってしまう。
「どうかしたか?」
いつの間にか俯いていたようで、視界にコーヒーカップを包んだ自分の手があった。急いで顔を上げ、笑って見せる。
「なんでもない。凛子ちゃんの幼稚園を探しているんだよね。うちの園だとちょっと遠くない?」
「通勤途中に行ける範囲ではあるんだが」
東園がついと眉間に皺を寄せた。
「ちなみに迎えが大体午後3時前後だけど、迎えに来られるの? 今はお預かりもあるけど、それでも最終が午後6時だよ」
「そうか」
東園はうぅんと唸った。
さまざまな事情から迎えに来られなくなり、急遽お預かりになる事もよくある。
陽向は会社勤めをしたことがないけれど、保護者と話すなかで仕事を持つ親の苦労を何度となく聞いた。
「三田村がいる園なら安心なんだがな」
そんな風に言ってもらえるほど親しくなかったよね、と突っ込みそうになるがグッとこらえる。子供を通わせる園に同級生がいたら、顔を知ってるだけでも安心に思えるものかもしれない。
「あ、実は今日で退職したからいないよ。なんか、ごめんね」
「え、そうか、……いや、こちらこそすまない」
東園はそうかとまた呟いてコーヒーを飲みはじめた。
理由を聞かれたくない陽向は東園が黙ったのでほっとした。自分の性が少なからず退職に関わっているので、αの東園に説明したくなかった。
αに関わらず、他人に自分の性がΩだとアピールするのは身を危険にさらす行為だ。
まあ、そもそも東園は陽向がΩだと覚えていたようだし、平凡な陽向ではΩであっても気にもならないだろう。
それでも改めて自分がΩで、嫌がらせを受けて退職するんだ、なんてこと話したくない。
「ご飯食べたら東園は一旦休んでね。凛子ちゃんに付いてるから」
凛子が起きて薬を飲ませたあと、凛子の熱が下がったのを見届けたら家に帰ろうと思う。
「いや、ゲストルームが二階にあるから三田村が先に休んで」
「……それじゃあ僕が手伝いに来た意味なくない?」
それもそうかと東園はばつの悪い顔をして首の後ろをかいた。その様子がなんだか面白くて思わず笑ってしまった。眉根を寄せた東園が口を開いたとき、インターホンが鳴った。
「ああ、飯か」
そうだった。飯と聞くと腹が減っているような気になってくる。良いタイミングだったと思いながら遅い夕食となった。
チャイムで起きなかった凛子は食べている間も起きてくる様子はなかった。しっかり眠れているようだ。
夕飯はおごりとの事なので食後、せめて食器を洗うと申し出た。
しかし東園家にはシステムキッチンに内蔵された食洗機があり、陽向の仕事は軽く汚れを落とした食器を中に並べていくだけだった。ソファに座ってくつろいでいたらいいのに、東園は陽向の隣に立ってじっと作業を眺めている。視線が少々うざったい。
「今のうちにシャワーかお風呂でも入ったら?」
「そうだ、風呂が沸いてるんだ。三田村が先に入ってくれるか」
「いや僕はいいよ。着替えもないし」
すべての食器を並べて終わったのでスイッチを入れる。グオンと稼働音のあと水音が続く。家族の多い家庭だと家事時間が大幅に減少しそうだ。
「新品のシャツも下着もある。あ、うちの母親用のだからサイズも合うと思う」
「お母さんのはさすがに小さいし、新品なら申し訳ないよ」
手を洗って流しの扉に掛けてあったタオルで拭きながら、下着はなあ、と思う。
「えっ、と、誤解しないでほしいんだが俺の母親はΩの男性だよ」
「え、ああ、……そうなんだ」
陽向は微笑む東園を見上げたまま固まった。
αもだが、Ωは更に珍しく陽向は自分以外の男性でΩ性の人間を見たことがない。陽向の母親はΩだが女性だからつい、母親と聞くと女性を想像してしまう。近くに本当の同性がいる、陽向の頬が熱くなる。
「ひっ、東園のお母さんってどんな方なの?」
思わず噛んでしまった。笑みを深めた東園が陽向を見つめ返す。
「その話は風呂入ってからにしよう」
「え、」
東園に背中を押され、二階へ上がる階段の奥、脱衣場へ入れられてしまった。
「鍵は閉めるなよ、入ってる間に着替え置きに来るから」
「あ、でも、僕は別に、」
目の前でぴしゃりと引き戸を閉められた。陽向はたっぷりスペースの取られた脱衣場で一人首を傾げた。いつのまにやら入浴することになってしまった。
秘書が付くそれなりのポジションって何かなと思う。一般的な役職を思い浮かべながら陽向はコーヒーカップを持ち直して飲んだ。
「三田村はいい先生なんだろうな。凛子、引っ込み思案というか知らない大人を怖がったりするんだが、昼間もし熱がなかったならすんなり遊べそうだったから」
「いいかどうかは分からないけど」
自分はいい先生だったのかなと振り返ってみる。日々の生活で子供達の色々な反応に納得、驚き、癒される事もあった。
子供達に取ってどうだったのかは分からないが、自分は楽しかった。Ωでなければまだ務めていられた、かもしれない。考えないようにしていても、ふとそうだったらなと思ってしまう。
「どうかしたか?」
いつの間にか俯いていたようで、視界にコーヒーカップを包んだ自分の手があった。急いで顔を上げ、笑って見せる。
「なんでもない。凛子ちゃんの幼稚園を探しているんだよね。うちの園だとちょっと遠くない?」
「通勤途中に行ける範囲ではあるんだが」
東園がついと眉間に皺を寄せた。
「ちなみに迎えが大体午後3時前後だけど、迎えに来られるの? 今はお預かりもあるけど、それでも最終が午後6時だよ」
「そうか」
東園はうぅんと唸った。
さまざまな事情から迎えに来られなくなり、急遽お預かりになる事もよくある。
陽向は会社勤めをしたことがないけれど、保護者と話すなかで仕事を持つ親の苦労を何度となく聞いた。
「三田村がいる園なら安心なんだがな」
そんな風に言ってもらえるほど親しくなかったよね、と突っ込みそうになるがグッとこらえる。子供を通わせる園に同級生がいたら、顔を知ってるだけでも安心に思えるものかもしれない。
「あ、実は今日で退職したからいないよ。なんか、ごめんね」
「え、そうか、……いや、こちらこそすまない」
東園はそうかとまた呟いてコーヒーを飲みはじめた。
理由を聞かれたくない陽向は東園が黙ったのでほっとした。自分の性が少なからず退職に関わっているので、αの東園に説明したくなかった。
αに関わらず、他人に自分の性がΩだとアピールするのは身を危険にさらす行為だ。
まあ、そもそも東園は陽向がΩだと覚えていたようだし、平凡な陽向ではΩであっても気にもならないだろう。
それでも改めて自分がΩで、嫌がらせを受けて退職するんだ、なんてこと話したくない。
「ご飯食べたら東園は一旦休んでね。凛子ちゃんに付いてるから」
凛子が起きて薬を飲ませたあと、凛子の熱が下がったのを見届けたら家に帰ろうと思う。
「いや、ゲストルームが二階にあるから三田村が先に休んで」
「……それじゃあ僕が手伝いに来た意味なくない?」
それもそうかと東園はばつの悪い顔をして首の後ろをかいた。その様子がなんだか面白くて思わず笑ってしまった。眉根を寄せた東園が口を開いたとき、インターホンが鳴った。
「ああ、飯か」
そうだった。飯と聞くと腹が減っているような気になってくる。良いタイミングだったと思いながら遅い夕食となった。
チャイムで起きなかった凛子は食べている間も起きてくる様子はなかった。しっかり眠れているようだ。
夕飯はおごりとの事なので食後、せめて食器を洗うと申し出た。
しかし東園家にはシステムキッチンに内蔵された食洗機があり、陽向の仕事は軽く汚れを落とした食器を中に並べていくだけだった。ソファに座ってくつろいでいたらいいのに、東園は陽向の隣に立ってじっと作業を眺めている。視線が少々うざったい。
「今のうちにシャワーかお風呂でも入ったら?」
「そうだ、風呂が沸いてるんだ。三田村が先に入ってくれるか」
「いや僕はいいよ。着替えもないし」
すべての食器を並べて終わったのでスイッチを入れる。グオンと稼働音のあと水音が続く。家族の多い家庭だと家事時間が大幅に減少しそうだ。
「新品のシャツも下着もある。あ、うちの母親用のだからサイズも合うと思う」
「お母さんのはさすがに小さいし、新品なら申し訳ないよ」
手を洗って流しの扉に掛けてあったタオルで拭きながら、下着はなあ、と思う。
「えっ、と、誤解しないでほしいんだが俺の母親はΩの男性だよ」
「え、ああ、……そうなんだ」
陽向は微笑む東園を見上げたまま固まった。
αもだが、Ωは更に珍しく陽向は自分以外の男性でΩ性の人間を見たことがない。陽向の母親はΩだが女性だからつい、母親と聞くと女性を想像してしまう。近くに本当の同性がいる、陽向の頬が熱くなる。
「ひっ、東園のお母さんってどんな方なの?」
思わず噛んでしまった。笑みを深めた東園が陽向を見つめ返す。
「その話は風呂入ってからにしよう」
「え、」
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「鍵は閉めるなよ、入ってる間に着替え置きに来るから」
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