運命のつがいと初恋

鈴本ちか

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運命のつがいと初恋 第1章

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 他人の家で入浴なんて、覚えている限りない。
 小さな頃からどんな友達でも泊まりだけは母親が許さなかった。昔は凄くそれが悲しかったけれど思春期を迎えると誘われても自ら断るようになっていた。
暫く考えたが体調管理には自信があるし、今は発情期と呼ばれる期間でもない。ちょっと風呂に入るくらい大丈夫かと陽向は結論付けた。なにより東園の母親について聞きたい。
 のろのろと服を脱いで浴室をそろっと覗く。
 もしかしたら、この家は住み始めたばかりかもしれない。シャワーヘッドも鏡も、広い浴室内すべてがモデルルームで見るように使用感のない輝きがある。特注なのか浴槽は大人が二人、楽に浸かることが出来そうな広さで陽向は手早く身体を洗って湯船に浸かった。
 久しぶりにゆっくりと風呂に入っている。陽向は湯を掬って顔を洗った。
 身体が温まってくると、改めて自分はなにをやっているんだろうと不思議になる。
 今朝の自分が数時間後、東園家の風呂に入ってるなんて聞いたら衝撃を受けるだろう。普段の自分なら、しない。
 しかしΩ性の男性で出産した方なんて周りにいないから、聞けるものならどんなお母さんなのか知りたい。
 Ωの中でも男性というのは昔であれば恥ずかしい存在として家から出されず死んでいくか、娼館に売られるかどちらかだったと聞いている。そんな歴史を辿ったせいか、抑制剤の発達した現在、一部を除きΩの男性は自分の性を隠している場合が多い。
 陽向は結婚するつもりはない。もちろん出産も。
 だいたいにおいて、男と恋愛なんて無理だと思う。いくら自分がΩで相手がαでもだ、想像も出来ない。

「男と結婚かあ」

 思わず出てしまった声が浴室に響いて気恥ずかしくなる。
 話通りなら、東園はΩの男性から産まれたことになる。ご両親が婚姻関係にあるのかは分からないけど。
 陽向の両親は、陽向に早くα男性と結婚してほしいと願っていた。両親の気持ちを考えると口に出せなかったけれど、陽向は男なのに、同じ男と結婚なんてしたくないと常に思っていた。
 東園の母親はそういう気持ちは無かったのだろうか。
 ふと東園が昔、Ωを軽蔑するような発言をしていたことを思い出した。もし、東園が母親を愛しているならあんな発言はしないよなと思う。
 陽向の母親と陽向はΩだが家族は仲が良い。αの父親、姉、兄から母親や陽向に対して、Ω差別含む感触を今まで生きてきた中で一片も感じたことがなかった。いつも守ろうとしてくれていた。
 しかし一般的にΩは軽視されがちな性だから、母親がΩだとかえってΩを嫌悪することもあるだろう。東園はそうだったのかもしれない。
 陽向はなにも考えずただ同性として話を聞きたいと思ったが、東園は聞かれたくないかもしれない。
 もしそうなら触れない方がいいのかな。   
 少し残念に思いながら陽向はゆっくりと浴槽から立ち上がった。

 脱衣場にバスタオル、パッケージに入った紺のパジャマと下着が準備してあった。
 いつ置きに来たのだろう、全く気が付かなかった。
 東園の言った通り、本当に新品だ。
 包みを手に取ったが開くのに躊躇ってしまう。だってファッションに疎い陽向でも知っているハイブランドのロゴが入っているから。買って返さないといけないだろうけど、いくらだろうか。光沢のある生地を見ていると頭が痛くなってきた。
 別に、布団を用意してもらって寝る、普通の「お泊まり」ではないのだから今まで着ていた服でもいい気がする。
 そうは思ったものの準備をしてくれた東園の労力を無視も出来ない。陽向は仕方なく着替えを始めた。
 リビングに戻ると東園はキッチンに立ち鍋をかき回していた。さっきは点いていなかったTVもついている。
 録画していたのだろう朝の幼児番組をソファに座った凛子がぼんやり見ていて、その頬は赤い。
 陽向が風呂に行っている間に凛子は起きて来たらしい。陽向はキッチンの東園に顔を向けた。

「お風呂先にいただきました。凛子ちゃん起きたんだね。お熱計った?」
「ああ、まだ高いよ。食欲はないだろうけど、少しは食べさせないとな」
「そうだね」

 東園がかき回しているのはお粥のようだ。陽向はソファの凛子の横にそろっと座った。


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