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運命のつがいと初恋 第2章
⑧
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夕食後にクリスマスツリーの点灯式が行われた。
飾り付けのお手伝いをした凛子はすぐに点灯してもらえるとわくわくして待っていたのだが、東園に捕まり泣きながら風呂を終えて今、陽向の膝にいる。
右手はピンクの肌触りのよい生地のパジャマのお腹辺りを掴み、左手に猫のぬいぐるみを抱き、凛子は固唾を飲んで見守っている。
リビングを暗くしたあと、東園が電源を入れた。
赤、黄、緑、青、白の電球が代わる代わる点き、暗い部屋にツリーの輪郭が浮かぶ。
凛子はきゃあと叫び、陽向の膝から飛び降りツリーに近付き眺め始めた。
それを見ていた東園も嬉しそうにしていて勧めて良かったなぁと思う。
ほどなくリビングを明るくしたのだが、飾り付けを手伝った凛子はクリスマスツリーのそばを離れたくないらしく、今日の絵本はリビングで、ねずみの二人組の家にサンタクロースが訪ねてくる話にした。
ソファで寝てしまった凛子を東園が抱え寝室へ運ぶのを見送って、陽向はコーヒーを二杯分淹れ始めた。
そういえばショッピングモールで東園の欲しいものもリサーチしようと思っていたのだが、出来なかった。凛子が寝てしまい早めに帰宅することになったのでしょうがない。
この暮らしをみると、必要なものは揃っていそうだから実際なんでもいいのかもしれない。
カラフルなライトが点灯しているツリーをぼんやり見ながらクリスマスが終わったら正月が来るなと思う。
今まで冬休み保育と園の掃除、自宅の掃除など年末は忙しくしていて、帰省は大晦日の夜から一月二日までだったのだけど、今回はどうしようか。
もしかしたら、東園達は両親のいる外国……そういえば国名を聞いていなかった、いや聞いて覚えていないだけかもしれない……に帰省、というのか、会いに行くのかもしれない。
東園と凛子がいないのなら、陽向がここにいる必要はないので帰省を早めてもいいなと思う。その話もしないと、と考えていたらタイミング良く東園が降りてきた。
「ねえねえ、コーヒーでもどうぞ」
手招きすると東園は欠伸混じりに「ありがとう」と応え陽向の対面に座った。
「絵本の朗読聞いてると毎回ちゃんと眠くなるの、何でだろうな」
コーヒーカップを持ち上げた東園が微笑む。真正面から見ると整った顔をしているなと毎回きっちり思う。
「まだ寝ないで欲しいんだけど、ちょっと聞いておきたいことがあって」
「ん、何?」
眠たげな目が急に締まりじっと陽向を見つめる。
美形に間近で見られると心臓に悪い。しかも聞きにくいことを聞こうとしているのでなんとなく居心地が悪い。
「えーと、りんちゃんのお母さんのことなんだけど」
東園が微妙に首をかしげる。
「その、幼稚園ってお迎えにお母さんが来る事が多いから、りんちゃんに自分のお母さんの事を今後聞かれる可能性があるかなって思って。もし聞かれたらどんな風に答えたらいいのか、聞いていた方がいいかなって思って。立ち入ったことだとは思ったんだけど」
トレーナーの袖口をいじりながらもごもご言う陽向に、東園は「立ち入ってくれて構わないよ」と少し笑った。
「そうだな。姉の事から話そうか。姉は今、うちの別荘で療養中だ。絵に描いたような優等生だよ。小さな頃から学業優秀、容姿端麗、しかも優しい心根の持ち主だ。弟の俺とけんかになったこともなかったな。大学卒業と同時に結婚したけど」
「結婚相手がダメダメだったの?」
真剣に聞いたのに吹き出した東園を睨む。
「ダメダメか、そうだな、ダメダメなのかな。姉はαで、相手は大病院の跡取り、彼もαだ。結婚後、しばらく子が出来なかった。別に急がなくても、と俺は思うけれど相手サイドはそう思っていなかったみたいで、プレッシャーもあったんだろうと思う。俺に愚痴をこぼすようなことはなかったけど。凛子が出来て、それはもう両家でお祭り騒ぎだったよ。無事生まれて、姉も彼も本当に幸せそうだったんだ。凛子の性別がβと分かるまでは」
「りんちゃん、βなんだ」
東園は頷く。
「……一般的にαとαでβは出来にくいと言われているだろ」
え、と思う。それって、凛子が両親の子ではないということか。
「で、出来にくいって言っても確か絶対じゃないよね。それに赤ちゃんは性別がちゃんと出ないこともあるって聞くしっ」
「そうなんだ。冷静に考えたらβが産まれても可笑しくないし、検査自体も早期過ぎて正確さにかける。でも姉はまず、βと浮気したんじゃないのかと疑われたんだ」
浮気と聞いてぎょっとする。
現実に恋愛の経験がない陽向には浮気など物語上の話でしかなく、仲の良い友人からもそんな大それた事をした、されたなどの話題を振られた事もない。驚く事しか出来ない自分が少々情けないが陽向はしばらく口を開けたままただ東園を見ていた。
「そんな、そんな事……、そんな事ない、んでしょ? 無実なのに疑われたらお姉さん可哀想だよ」
ようやく喋りだした陽向に、東園がゆっくりと頷いてみせた。
「勿論。そういう人じゃない。ただ、今まで優秀で他人に疑われるような経験がそうない人間だったから、心が折れてしまったんだ。うちの母が手伝いに行っていたときだったのが幸いだったんだが、突然凛子を抱けなくなった。凛子の声を聞くと、姿を見ると、吐き気が止まらなくなって。とにかく二人を一緒にさせておけない状況だったから凛子はうちの母が一時的に引き取ったんだ。今、姉のケアには旦那が付き添っている。姉の心が落ち着いたら、今後のことを考えようと話してはいるんだ」
「そうか、そうなんだ」
心は身体の傷と違って可視出来ない。
陽向もΩなので子どもが出来る身体、なんて軽く言われたりするが、性的な事柄をかすめる話なので言われる方は恥ずかしく、いたたまれなくなる。
産前までにそんなプレッシャーを受け、産後不安定な時期に不倫を疑われ極度に消耗してしまったんだろうか。
会ったことがない人だけれどゆっくり穏やかに過ごして欲しいと思う。
飾り付けのお手伝いをした凛子はすぐに点灯してもらえるとわくわくして待っていたのだが、東園に捕まり泣きながら風呂を終えて今、陽向の膝にいる。
右手はピンクの肌触りのよい生地のパジャマのお腹辺りを掴み、左手に猫のぬいぐるみを抱き、凛子は固唾を飲んで見守っている。
リビングを暗くしたあと、東園が電源を入れた。
赤、黄、緑、青、白の電球が代わる代わる点き、暗い部屋にツリーの輪郭が浮かぶ。
凛子はきゃあと叫び、陽向の膝から飛び降りツリーに近付き眺め始めた。
それを見ていた東園も嬉しそうにしていて勧めて良かったなぁと思う。
ほどなくリビングを明るくしたのだが、飾り付けを手伝った凛子はクリスマスツリーのそばを離れたくないらしく、今日の絵本はリビングで、ねずみの二人組の家にサンタクロースが訪ねてくる話にした。
ソファで寝てしまった凛子を東園が抱え寝室へ運ぶのを見送って、陽向はコーヒーを二杯分淹れ始めた。
そういえばショッピングモールで東園の欲しいものもリサーチしようと思っていたのだが、出来なかった。凛子が寝てしまい早めに帰宅することになったのでしょうがない。
この暮らしをみると、必要なものは揃っていそうだから実際なんでもいいのかもしれない。
カラフルなライトが点灯しているツリーをぼんやり見ながらクリスマスが終わったら正月が来るなと思う。
今まで冬休み保育と園の掃除、自宅の掃除など年末は忙しくしていて、帰省は大晦日の夜から一月二日までだったのだけど、今回はどうしようか。
もしかしたら、東園達は両親のいる外国……そういえば国名を聞いていなかった、いや聞いて覚えていないだけかもしれない……に帰省、というのか、会いに行くのかもしれない。
東園と凛子がいないのなら、陽向がここにいる必要はないので帰省を早めてもいいなと思う。その話もしないと、と考えていたらタイミング良く東園が降りてきた。
「ねえねえ、コーヒーでもどうぞ」
手招きすると東園は欠伸混じりに「ありがとう」と応え陽向の対面に座った。
「絵本の朗読聞いてると毎回ちゃんと眠くなるの、何でだろうな」
コーヒーカップを持ち上げた東園が微笑む。真正面から見ると整った顔をしているなと毎回きっちり思う。
「まだ寝ないで欲しいんだけど、ちょっと聞いておきたいことがあって」
「ん、何?」
眠たげな目が急に締まりじっと陽向を見つめる。
美形に間近で見られると心臓に悪い。しかも聞きにくいことを聞こうとしているのでなんとなく居心地が悪い。
「えーと、りんちゃんのお母さんのことなんだけど」
東園が微妙に首をかしげる。
「その、幼稚園ってお迎えにお母さんが来る事が多いから、りんちゃんに自分のお母さんの事を今後聞かれる可能性があるかなって思って。もし聞かれたらどんな風に答えたらいいのか、聞いていた方がいいかなって思って。立ち入ったことだとは思ったんだけど」
トレーナーの袖口をいじりながらもごもご言う陽向に、東園は「立ち入ってくれて構わないよ」と少し笑った。
「そうだな。姉の事から話そうか。姉は今、うちの別荘で療養中だ。絵に描いたような優等生だよ。小さな頃から学業優秀、容姿端麗、しかも優しい心根の持ち主だ。弟の俺とけんかになったこともなかったな。大学卒業と同時に結婚したけど」
「結婚相手がダメダメだったの?」
真剣に聞いたのに吹き出した東園を睨む。
「ダメダメか、そうだな、ダメダメなのかな。姉はαで、相手は大病院の跡取り、彼もαだ。結婚後、しばらく子が出来なかった。別に急がなくても、と俺は思うけれど相手サイドはそう思っていなかったみたいで、プレッシャーもあったんだろうと思う。俺に愚痴をこぼすようなことはなかったけど。凛子が出来て、それはもう両家でお祭り騒ぎだったよ。無事生まれて、姉も彼も本当に幸せそうだったんだ。凛子の性別がβと分かるまでは」
「りんちゃん、βなんだ」
東園は頷く。
「……一般的にαとαでβは出来にくいと言われているだろ」
え、と思う。それって、凛子が両親の子ではないということか。
「で、出来にくいって言っても確か絶対じゃないよね。それに赤ちゃんは性別がちゃんと出ないこともあるって聞くしっ」
「そうなんだ。冷静に考えたらβが産まれても可笑しくないし、検査自体も早期過ぎて正確さにかける。でも姉はまず、βと浮気したんじゃないのかと疑われたんだ」
浮気と聞いてぎょっとする。
現実に恋愛の経験がない陽向には浮気など物語上の話でしかなく、仲の良い友人からもそんな大それた事をした、されたなどの話題を振られた事もない。驚く事しか出来ない自分が少々情けないが陽向はしばらく口を開けたままただ東園を見ていた。
「そんな、そんな事……、そんな事ない、んでしょ? 無実なのに疑われたらお姉さん可哀想だよ」
ようやく喋りだした陽向に、東園がゆっくりと頷いてみせた。
「勿論。そういう人じゃない。ただ、今まで優秀で他人に疑われるような経験がそうない人間だったから、心が折れてしまったんだ。うちの母が手伝いに行っていたときだったのが幸いだったんだが、突然凛子を抱けなくなった。凛子の声を聞くと、姿を見ると、吐き気が止まらなくなって。とにかく二人を一緒にさせておけない状況だったから凛子はうちの母が一時的に引き取ったんだ。今、姉のケアには旦那が付き添っている。姉の心が落ち着いたら、今後のことを考えようと話してはいるんだ」
「そうか、そうなんだ」
心は身体の傷と違って可視出来ない。
陽向もΩなので子どもが出来る身体、なんて軽く言われたりするが、性的な事柄をかすめる話なので言われる方は恥ずかしく、いたたまれなくなる。
産前までにそんなプレッシャーを受け、産後不安定な時期に不倫を疑われ極度に消耗してしまったんだろうか。
会ったことがない人だけれどゆっくり穏やかに過ごして欲しいと思う。
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