運命のつがいと初恋

鈴本ちか

文字の大きさ
40 / 76
運命のつがいと初恋 第2章

しおりを挟む
 誠二郎と智紀が帰宅した後、凛子は興奮したのかなかなか寝付けなかった。ベッドで眠ったかと思ったら十分もしないうちに起きてきて、それを三度繰り返した。よほど楽しかったんだろうなと思う。
 凛子の隣で危うく眠りそうになったが、夜飲む分の薬がまだなのでまどろみを振り払い凛子の部屋を抜け出した。
 自室に入るとすでにエアコンで部屋は暖まっていた。そういえばまだみんなで食事をしていたとき、凛子が欠伸を漏らし始めたので東園から凛子の部屋を暖めるついでに陽向の部屋もつけてこようか、と聞かれたのだった。
 東園は結構こまめな気がするがあれでがさつなら陽向の方がよっぽど気が利かないしがさつな気がする。
 放り投げていたボストンバッグから薬袋を取り出し棚の上に置く。
 今までごくたまにだけど、飲み忘れることもあった抑制剤だが、今回ばかりはついうっかりは出来ない。
 荷解きをしていると部屋の隅に年末実家に帰るとき持って帰ろうと思っていたお土産や、東園へのクリスマスプレゼントが積まれているのが視界に入った。
 昨年まで帰省すると付き合っている人はいないのか、結婚する気はないのか、なんて聞かれて辟易していた。でも今はそんな自分を少し反省している。
 お土産を手に取りため息をつく。
 今度帰るときはもっとしっかり両親の話を聞こうと思う。
 おもちゃやぬいぐるみ、お年玉はきっと姪達が楽しみにしているだろうから明日送ろうと決め、陽向は抑制剤と東園へのクリスマスプレゼントを手に階下へ降りた。 

「やっと寝たか」

 キッチンに東園がいた。
 良かった、下から物音が聞こえたのでまだ寝ていないだろうと踏んだが当たっていた。

「まだ分からないよ、起きてくるかも」
「昂ってるんだろうな。ありがとう、なんか飲むか?」
「いいよ、自分でする」

 水だし、といいながらダイニングテーブルに荷物を置いてキッチンに入る。

「わ、なにこの香り、あまい」

 ガラス製の急須にお湯を注ぐ東園の手元を覗きこむ。

「母さんが置いていったお茶だよ。少しいる?」
「うん、じゃあ薬飲んだら貰おうかな」

 コップに水を入れ、包装シートから白い錠剤を取り出し手のひらに転がす。
 効いてくれよと思いながら口に含んで水で流し込む。
 ゴクリと飲み込んでコップを洗っていると隣から「今度の薬は強いのか?」と東園が包装シートを見ながら聞いてきた。

「特別強いわけじゃないらしい。今までと種類が違うって」
「そうか、身体に負担がかかりそうだから強くないならいいけど」
「負担が掛かってもちゃんと効いてくれないと。本当はすごく強いのでも良かったんだけど」

 ため息交じりに言うと東園に「おい」と窘められる。

「これ、なんだ?」

 ダイニングテーブルにティーカップを置きながら東園が陽向の持ってきた包み紙を取り上げた。

「あ、それ馨にあげるやつ」
「え?」
「どうぞ、貰ってやって。クリスマスプレゼントに買った物だから」
「え? 俺の? 開けていい?」
「うん、遅くなってごめんだけど」

 椅子に座って東園の置いたティーカップを引き寄せる。
 甘い、フルーティな匂いがする。覗き込むと紅茶にしては薄い色合いだ。
 目の前で東園が包みを慎重に開いている。陽向はテープ部分を破ってしまうので、丁寧だなと感心しつつ、淹れてくれたお茶を一口飲んでみる。

「香りが甘酸っぱい。これは紅茶かな?」
「さあ、ノンカフェインだとは聞いたがパッケージにはなにも書いていないな。イチゴの香りって言っていたよ。お、マフラー」
「うん」

 グレーのマフラーを手に取ってじっと眺めている。よく見たら東園の目の色と近い気がする。

「お茶、冷めるよ」

 そう高い物でもない、きっと東園はもっと質の良い高価なものを持っているだろうにあんまり長く眺めているから居心地が悪くなる。
 そう喜んでもなさそうに見えるから違う物の方が良かったのかもしれないなぁと思う。 
 まあ、付き合いも短いししょうが無い、気持ちの問題だからなと割り切ることにする。

「ああ、そうだった。……これありがとう」
「ううん。あ、そういえば馨っていつから仕事?」
「明日からだけど、休みとろうか?」
「いやいや、全然大丈夫だから」

 明日からは普通の日々が帰ってくるのか、と思う。
 ちっとも休めた感じではなかったし、入院中、食事もままならずただでさえ痩せ型なのに更に数キロ減ってしまった。
 しっかり薬を飲んで、しっかり食べる。次の発情期に備えなきゃなと思う。
 そして東園に話しておかなきゃいけないことがある。

「あのさ、今回、休みに重なったから、三浦さんと馨の両親がいてくれて困ることがなかったかもしれないけどさ、」
「ああ」
「万が一って思いたいけど、次も、また次も体調が悪くなる可能性もあるから、次の人を探した方がいいような気がするんだ」
「次……、陽向はなにも心配しなくていいよ」
「心配するしないって問題じゃなくて。うーん、りんちゃんが困るだろって事」

 東園は小首を傾げ陽向を見る。

「陽向が急にいないってのは、確かに困るだろうな。だけど、普通の家庭で、主に育児している人が突然病気に罹ることはままあるだろ。いつもいる人がいない、そんな状況も体験して子どもは成長していくんじゃないかな」
「……それは、まあ、そうかもだけど」
「短期間なら三浦さんや単発のシッターを頼んでもいいし、難しく考える必要ないと思っているよ」      
                
 微笑まれて閉口する。
 しばらくお互いの目をじっと見合っていたけれど陽向が先に目をそらした。
 なんだか負けた気分になった陽向はまあ、次はきっと大丈夫だけどねと小さく呟いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

虐げられた氷の聖子は隣国の野獣皇帝に執着(愛)されすぎて溶かされる

たら昆布
BL
暴君皇帝×薄幸の聖子

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

星降る夜に ~これは大人の純愛なのか。臆病者の足踏みか。~

大波小波
BL
 鳴滝 和正(なるたき かずまさ)は、イベント会社に勤めるサラリーマンだ。  彼はある日、打ち合わせ先の空き時間を過ごしたプラネタリウムで、寝入ってしまう。  和正を優しく起こしてくれたのは、そこのナレーターを務める青年・清水 祐也(しみず ゆうや)だった。  祐也を気に入った和正は、頻繁にプラネタリウムに通うようになる。  夕食も共にするほど、親しくなった二人。  しかし祐也は夜のバイトが忙しく、なかなかデートの時間が取れなかった。  それでも彼と過ごした後は、心が晴れる和正だ。  浮かれ気分のまま、彼はボーイズ・バーに立ち寄った。  そしてスタッフメニューの中に、祐也の姿を見つけてしまう。  彼の夜の顔は、風俗店で働く男娼だったのだ……。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

忘れられない君の香

秋月真鳥
BL
 バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。  両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。  母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。  アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。  最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。  政略結婚から始まるオメガバース。  受けがでかくてごついです! ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。

処理中です...