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運命のつがいと初恋 第5章
③
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午後から崩れる、と朝のニュースでお天気お姉さんが言っていたがとてもそうは思えない快晴の空を見上げ陽向は「暑くなりそうだね」と隣に立つ東園に声を掛けた。
東園の運転で走り出したセダンはあっという間に東園の実家にたどり着いた。
近い、とは聞いていたけれど車で十五分も掛からなかった。
閑静な住宅街の一角、大きな鉄の門扉が見えると東園がリモコンを操作して開き抜けてゆく。
まさか敷地を車で移動か、そんなに広いのか、とおののいたけれど、車はすぐ止まった。
車寄せに駐車した東園は、助手席の陽向の扉を開いて「ここが実家」と現れた瀟洒な邸宅に顔を向けた。
広々とした敷地を活かした低層でモダンな建物は実家と聞いていなければ美術館かなと思うような佇まいだ。民家にはとても見えない。
偶然だったが雑誌で東園の素性を知っていて良かった。知らずに来ていたら陽向は今頃胃痛に見舞われていたかもと心の中で苦笑した。
迎えに出た年配の男性に東園が話しかけカギを渡す。
「陽向、ここの管理を任されている藤田さん」
「あ、三田村陽向ともうします」
「三田村様、よろしくお願いいたします。皆様お待ちでございます」
グレーヘアの藤田は目元を緩ませ美しい角度で頭を下げた。
映画で見た外国映画に出てくる執事みたいだ、かっこいいと思う。
「あ、よろしくお願いします」
藤田に見入っていた陽向があわあわと頭を下げると、さあ行こうと東園が陽向の肩を抱いた。
「すごいね、藤田さんって所謂執事さんなの? 執事カフェって知ってる? 前の職場の先生達が行きたいって話してたんだ」
「陽向は藤田さんがタイプ?」
歩きながら東園は陽向のこめかみにキスをした。
東園はこういう触れ合いにとても慣れている。それがどうしたと思うのにいちいち引っかかる自分が嫌になる。
見上げると笑みを浮かべてこちらを見る東園と目が合った。
東園が好きだから、好みのタイプは東園なのかも。
こういうとき普通はどういう風に返すんだろう。素直に言うのだろうか、ぼかすのかな、それとも流していいのかな。
固まった陽向に東園が「頼むから違うって言って」と顔を近づける。触れるだけのキスを唇に落として目を覗き込まれる。
知っていたけど本当に顔が綺麗な男だ。
かっと顔に血が集まって熱くなる。
「ち、違う」
玄関から伸びる廊下の壁に押しつけられた陽向は東園に顎を掬われ深く口付けられた。
「……ん、」
こんなところで、と思うのに力が抜けていく。
東園の匂いが強くなって頭がぼうっとなってしまう。
身体がこの男を求めている。運命のつがいだと言われたとき驚いたが身体を重ねる毎にそれが間違いないと思い至る。
運命のつがいではあるけれど。
「ちょっと、それは帰ってからやってくれる?」
柔らかく、涼やかな声だ。
投げかけられた声にはっとして陽向はそちらに顔を向けた。腕組みした背の高い美女が笑みを浮かべこちらを見ている。
「あ、……あっ、す、みません」
陽向はこんなところを見られたと狼狽えるが、東園は「お預けか」とのんびりした口調で陽向に巻き付いたままだ。
「三田村陽向さんね。私は馨の姉、絢子です。よろしく」
「あ、よろしくおねがいします」
差し出された手を握る。ほっそりした指だなと思う。握った絢子の手は冷たかった。
「あなたには迷惑を掛けてしまって。本当にごめんなさい。そして凛子と仲良くしてくれてありがとう」
陽向より少し背の高い絢子が一歩近づく。
瞳の色が美しく一度見てしまうと目が離せない。眉の形や、バランスの良い配置が秀逸で華がある、東園とよく似ていると思う。
この人があのとき凛子をさらったのか。確かに背格好は似ている、長い髪も。顔は見ていなかったけれど、こんなに綺麗な人だったんだと思う。
陽向は首を振って見せた。
「りんちゃんは元気ですか?」
「ええ、あなたを待っている」
笑うと目尻が下がる。それも東園と同じだ。
絢子は陽向と手を繋いだまま「さあ行きましょう」と向き直って歩き出した。
振り返ると東園が肩を竦め首の後ろを掻いていた。
恐ろしく広いリビングは中庭に面していてとても明るい。芝生の庭に赤いカートが置いてある。凛子が乗るおもちゃだろうが、オブジェのように見える。
リビングの一角に東園宅にあったキッチンがちょこんと置いてある。
今の今まで遊んでいたのだろうか。本やクレヨンがローテーブルに置いたままだ。
「まま、ひーた、」
「あ、りんちゃん」
リビングの奥、6人掛けのダイニングテーブルがあるスペースの奥からブルーのワンピースにエプロンをつけた凛子が飛び出し、その後ろから智紀が「まってまって」と続いた。
「お、ひーたん久しぶりだね! 髪型変えた? 似合ってる」
「お久しぶりです、智紀さん。伸びすぎてたので切ってきました」
陽向は膝を突いて凛子と向き合った。鼻の頭が白くなっている。
「りんちゃんもしかしてお料理のお手伝いしていたの?」
「うん、ピザ! りんちゃんもみもみした」
「すごいね、さすが幼稚園のお姉さんだね」
「ひーた、見て」
今度は凛子に手を取られ奥のキッチンへと引っ張られた。
「ごめんなさいね。このあいだ一緒に作ったら楽しかったみたいで。それからずっとピザが食べたいって言うのよ」
一緒にキッチンへ入った絢子が凛子を幼児用の踏み台に凛子を乗せた。
壁側に流しやコンロが並び反対側には作業台が広く取られている。
そこにクッキングシートが四枚とその上に形がまちまちのピザ生地が並んでいた。
凛子はお仕事の途中だったらしく、二枚はチーズまで乗っていたが後に二枚はトマトソースが塗ってあるだけ。
凛子はボールに手を入れ掴んだスライスオニオンをトマトソースの上に散らした。
お次は黄色と赤のパプリカだ。
「りんちゃんすごいね。食べるのが楽しみだ」
凛子はうんと大きく言って、ぱっ、ぱっと握っては散らしていく。
絢子が次はこれを乗せて、とボールを差し出しここが少ないね、と話している。
陽向は楽しそうにしている二人を見ながらほっと息をついた。
良かった、二人は仲良くしているようだ。
見守っている陽向の隣に東園が立つ。
見上げると東園は穏やかな眼差しで二人を眺めていた。
東園の運転で走り出したセダンはあっという間に東園の実家にたどり着いた。
近い、とは聞いていたけれど車で十五分も掛からなかった。
閑静な住宅街の一角、大きな鉄の門扉が見えると東園がリモコンを操作して開き抜けてゆく。
まさか敷地を車で移動か、そんなに広いのか、とおののいたけれど、車はすぐ止まった。
車寄せに駐車した東園は、助手席の陽向の扉を開いて「ここが実家」と現れた瀟洒な邸宅に顔を向けた。
広々とした敷地を活かした低層でモダンな建物は実家と聞いていなければ美術館かなと思うような佇まいだ。民家にはとても見えない。
偶然だったが雑誌で東園の素性を知っていて良かった。知らずに来ていたら陽向は今頃胃痛に見舞われていたかもと心の中で苦笑した。
迎えに出た年配の男性に東園が話しかけカギを渡す。
「陽向、ここの管理を任されている藤田さん」
「あ、三田村陽向ともうします」
「三田村様、よろしくお願いいたします。皆様お待ちでございます」
グレーヘアの藤田は目元を緩ませ美しい角度で頭を下げた。
映画で見た外国映画に出てくる執事みたいだ、かっこいいと思う。
「あ、よろしくお願いします」
藤田に見入っていた陽向があわあわと頭を下げると、さあ行こうと東園が陽向の肩を抱いた。
「すごいね、藤田さんって所謂執事さんなの? 執事カフェって知ってる? 前の職場の先生達が行きたいって話してたんだ」
「陽向は藤田さんがタイプ?」
歩きながら東園は陽向のこめかみにキスをした。
東園はこういう触れ合いにとても慣れている。それがどうしたと思うのにいちいち引っかかる自分が嫌になる。
見上げると笑みを浮かべてこちらを見る東園と目が合った。
東園が好きだから、好みのタイプは東園なのかも。
こういうとき普通はどういう風に返すんだろう。素直に言うのだろうか、ぼかすのかな、それとも流していいのかな。
固まった陽向に東園が「頼むから違うって言って」と顔を近づける。触れるだけのキスを唇に落として目を覗き込まれる。
知っていたけど本当に顔が綺麗な男だ。
かっと顔に血が集まって熱くなる。
「ち、違う」
玄関から伸びる廊下の壁に押しつけられた陽向は東園に顎を掬われ深く口付けられた。
「……ん、」
こんなところで、と思うのに力が抜けていく。
東園の匂いが強くなって頭がぼうっとなってしまう。
身体がこの男を求めている。運命のつがいだと言われたとき驚いたが身体を重ねる毎にそれが間違いないと思い至る。
運命のつがいではあるけれど。
「ちょっと、それは帰ってからやってくれる?」
柔らかく、涼やかな声だ。
投げかけられた声にはっとして陽向はそちらに顔を向けた。腕組みした背の高い美女が笑みを浮かべこちらを見ている。
「あ、……あっ、す、みません」
陽向はこんなところを見られたと狼狽えるが、東園は「お預けか」とのんびりした口調で陽向に巻き付いたままだ。
「三田村陽向さんね。私は馨の姉、絢子です。よろしく」
「あ、よろしくおねがいします」
差し出された手を握る。ほっそりした指だなと思う。握った絢子の手は冷たかった。
「あなたには迷惑を掛けてしまって。本当にごめんなさい。そして凛子と仲良くしてくれてありがとう」
陽向より少し背の高い絢子が一歩近づく。
瞳の色が美しく一度見てしまうと目が離せない。眉の形や、バランスの良い配置が秀逸で華がある、東園とよく似ていると思う。
この人があのとき凛子をさらったのか。確かに背格好は似ている、長い髪も。顔は見ていなかったけれど、こんなに綺麗な人だったんだと思う。
陽向は首を振って見せた。
「りんちゃんは元気ですか?」
「ええ、あなたを待っている」
笑うと目尻が下がる。それも東園と同じだ。
絢子は陽向と手を繋いだまま「さあ行きましょう」と向き直って歩き出した。
振り返ると東園が肩を竦め首の後ろを掻いていた。
恐ろしく広いリビングは中庭に面していてとても明るい。芝生の庭に赤いカートが置いてある。凛子が乗るおもちゃだろうが、オブジェのように見える。
リビングの一角に東園宅にあったキッチンがちょこんと置いてある。
今の今まで遊んでいたのだろうか。本やクレヨンがローテーブルに置いたままだ。
「まま、ひーた、」
「あ、りんちゃん」
リビングの奥、6人掛けのダイニングテーブルがあるスペースの奥からブルーのワンピースにエプロンをつけた凛子が飛び出し、その後ろから智紀が「まってまって」と続いた。
「お、ひーたん久しぶりだね! 髪型変えた? 似合ってる」
「お久しぶりです、智紀さん。伸びすぎてたので切ってきました」
陽向は膝を突いて凛子と向き合った。鼻の頭が白くなっている。
「りんちゃんもしかしてお料理のお手伝いしていたの?」
「うん、ピザ! りんちゃんもみもみした」
「すごいね、さすが幼稚園のお姉さんだね」
「ひーた、見て」
今度は凛子に手を取られ奥のキッチンへと引っ張られた。
「ごめんなさいね。このあいだ一緒に作ったら楽しかったみたいで。それからずっとピザが食べたいって言うのよ」
一緒にキッチンへ入った絢子が凛子を幼児用の踏み台に凛子を乗せた。
壁側に流しやコンロが並び反対側には作業台が広く取られている。
そこにクッキングシートが四枚とその上に形がまちまちのピザ生地が並んでいた。
凛子はお仕事の途中だったらしく、二枚はチーズまで乗っていたが後に二枚はトマトソースが塗ってあるだけ。
凛子はボールに手を入れ掴んだスライスオニオンをトマトソースの上に散らした。
お次は黄色と赤のパプリカだ。
「りんちゃんすごいね。食べるのが楽しみだ」
凛子はうんと大きく言って、ぱっ、ぱっと握っては散らしていく。
絢子が次はこれを乗せて、とボールを差し出しここが少ないね、と話している。
陽向は楽しそうにしている二人を見ながらほっと息をついた。
良かった、二人は仲良くしているようだ。
見守っている陽向の隣に東園が立つ。
見上げると東園は穏やかな眼差しで二人を眺めていた。
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