婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第一部「ブレナード反逆編」

第19話:偽りの戴冠と、決戦の前夜

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王都がざわめいていた。

 貴族街の奥、かつてブレナード家の一族が頻繁に出入りしていた旧公爵邸――
 そこに、美しき“公爵令嬢”が姿を見せたという噂が広まり始めたのは、たった一日前のことだった。

 その女の名は、カミラ・デュクレール。
 東の旧公爵家に連なるとされる貴族で、若くして聖職界に身を置いた“修道女上がり”の令嬢だという。

 だが、その微笑みも、振る舞いも――
 かつて私が対峙した、エレーヌ・ブレナードと寸分違わぬ“匂い”を纏っていた。

 「……王妃陛下の体調が思わしくないと聞いた直後に、“王妃候補”が現れるとは、あまりにも出来すぎていますわ」

 私は、アレクシスと共に王宮の廊下を歩きながら、静かに吐き捨てるように言った。

 「その“体調不良”自体が、作られたものだろう」

 アレクシスの声は冷たい怒りを含んでいた。

 「王妃陛下は数日前から喉の不調を訴え、ほとんど人前に姿を見せていない。その隙を狙った偽王妃計画――まさに“すり替え”だ」

 「……けれど、この国の重臣たちの中には“ブレナードの血”に惹かれる者もいる。表向きは王家の未来を考えるふりをしながら、背後では玉座を動かしたがる連中」

 「だからこそ、明日。“我々が先に動く”」

 アレクシスの声に、私は強く頷いた。

 「決戦は、明日の日没後。“即位前夜の仮面舞踏会”。王宮に全貴族が集う中、“あの女の正体”を暴く」

* * *

 日が落ちていく王都。

 私はドレスの胸元に忍ばせた銀のペンダントを指でなぞっていた。
 これは父が残した最後の品――裏には、“R.A.へ。真実を見抜け”とだけ刻まれている。

 「……あなたも、こうして戦っていたのですね」

 父は、決して表舞台に立つ人ではなかった。
 だがその分、最後まで“裏側”でこの国を守ろうとしていたのだと、今なら分かる。

 「……レイナ」

 アレクシスが近づいてくる。彼もまた、黒の礼装に身を包み、決戦に向けて一切の隙を削ぎ落とした騎士のような姿だった。

 「明日は、もう“逃げ道”がない。あの女を追い詰めるなら、証拠も手段もすべて一手で決めなければならない」

 「承知しております。けれど私は、“言葉”で決着をつけたいのです」

 「言葉で?」

 「はい。エレーヌの“正義”が偽りだと、全員の前で示します。その上で――必要であれば、剣も振るいます」

 アレクシスの瞳が、優しく細められた。

 「……君がそう望むなら、最後の刃は僕が振るおう。君は――言葉でこの国を救ってくれ」

 彼の手が私の頬に触れる。

 「……行こう。明日が、決着だ」

* * *

 その夜、王妃陛下は密かにアレクシスと私を部屋に招き入れた。

 「……申し訳ありません。“公に姿を見せられぬ病”という噂を広めさせました。罠に引っかかる者たちの顔を、確かに見極めるために」

 「王妃陛下……」

 「私は、玉座を守るのが使命ではありません。玉座が守るべき者を、見極める責任を負っております」

 その声は、体調を崩しているとは思えないほど澄んでいた。

 「レイナ様。あなたの“正義”を、明日、私の代わりに王の広間で語ってください。それができるのは――もはや、あなたしかいない」

 私は、王妃の手を取って深く頭を下げた。

 「必ず。あの女の仮面を、引き剥がしてみせます」

* * *

 深夜。

 屋敷のバルコニーで、アレクシスとふたり、月を見上げていた。

 「ねえ、アレクシス様」

 「ん?」

 「決着がついたら、本当に……ふたりで旅に出ましょうね」

 「……ああ。名前も地位も脱ぎ捨てて、ただの“男と女”として」

 私は彼の肩にそっと寄りかかった。

 「それまでは、“王妃殺しの冤罪”も、“父の真実”も、“王宮の裏切り”も――全部、終わらせます」

 「君とならできる。いや、君とでなければできない」

 その言葉が、確かな誓いとなって胸に染み込む。

 王都は、静かに眠り始めていた。
 だが、明日は“革命の夜”。

 すべての仮面が剝がれる、最後の舞台が待っている――。
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