19 / 70
第一部「ブレナード反逆編」
第19話:偽りの戴冠と、決戦の前夜
しおりを挟む
王都がざわめいていた。
貴族街の奥、かつてブレナード家の一族が頻繁に出入りしていた旧公爵邸――
そこに、美しき“公爵令嬢”が姿を見せたという噂が広まり始めたのは、たった一日前のことだった。
その女の名は、カミラ・デュクレール。
東の旧公爵家に連なるとされる貴族で、若くして聖職界に身を置いた“修道女上がり”の令嬢だという。
だが、その微笑みも、振る舞いも――
かつて私が対峙した、エレーヌ・ブレナードと寸分違わぬ“匂い”を纏っていた。
「……王妃陛下の体調が思わしくないと聞いた直後に、“王妃候補”が現れるとは、あまりにも出来すぎていますわ」
私は、アレクシスと共に王宮の廊下を歩きながら、静かに吐き捨てるように言った。
「その“体調不良”自体が、作られたものだろう」
アレクシスの声は冷たい怒りを含んでいた。
「王妃陛下は数日前から喉の不調を訴え、ほとんど人前に姿を見せていない。その隙を狙った偽王妃計画――まさに“すり替え”だ」
「……けれど、この国の重臣たちの中には“ブレナードの血”に惹かれる者もいる。表向きは王家の未来を考えるふりをしながら、背後では玉座を動かしたがる連中」
「だからこそ、明日。“我々が先に動く”」
アレクシスの声に、私は強く頷いた。
「決戦は、明日の日没後。“即位前夜の仮面舞踏会”。王宮に全貴族が集う中、“あの女の正体”を暴く」
* * *
日が落ちていく王都。
私はドレスの胸元に忍ばせた銀のペンダントを指でなぞっていた。
これは父が残した最後の品――裏には、“R.A.へ。真実を見抜け”とだけ刻まれている。
「……あなたも、こうして戦っていたのですね」
父は、決して表舞台に立つ人ではなかった。
だがその分、最後まで“裏側”でこの国を守ろうとしていたのだと、今なら分かる。
「……レイナ」
アレクシスが近づいてくる。彼もまた、黒の礼装に身を包み、決戦に向けて一切の隙を削ぎ落とした騎士のような姿だった。
「明日は、もう“逃げ道”がない。あの女を追い詰めるなら、証拠も手段もすべて一手で決めなければならない」
「承知しております。けれど私は、“言葉”で決着をつけたいのです」
「言葉で?」
「はい。エレーヌの“正義”が偽りだと、全員の前で示します。その上で――必要であれば、剣も振るいます」
アレクシスの瞳が、優しく細められた。
「……君がそう望むなら、最後の刃は僕が振るおう。君は――言葉でこの国を救ってくれ」
彼の手が私の頬に触れる。
「……行こう。明日が、決着だ」
* * *
その夜、王妃陛下は密かにアレクシスと私を部屋に招き入れた。
「……申し訳ありません。“公に姿を見せられぬ病”という噂を広めさせました。罠に引っかかる者たちの顔を、確かに見極めるために」
「王妃陛下……」
「私は、玉座を守るのが使命ではありません。玉座が守るべき者を、見極める責任を負っております」
その声は、体調を崩しているとは思えないほど澄んでいた。
「レイナ様。あなたの“正義”を、明日、私の代わりに王の広間で語ってください。それができるのは――もはや、あなたしかいない」
私は、王妃の手を取って深く頭を下げた。
「必ず。あの女の仮面を、引き剥がしてみせます」
* * *
深夜。
屋敷のバルコニーで、アレクシスとふたり、月を見上げていた。
「ねえ、アレクシス様」
「ん?」
「決着がついたら、本当に……ふたりで旅に出ましょうね」
「……ああ。名前も地位も脱ぎ捨てて、ただの“男と女”として」
私は彼の肩にそっと寄りかかった。
「それまでは、“王妃殺しの冤罪”も、“父の真実”も、“王宮の裏切り”も――全部、終わらせます」
「君とならできる。いや、君とでなければできない」
その言葉が、確かな誓いとなって胸に染み込む。
王都は、静かに眠り始めていた。
だが、明日は“革命の夜”。
すべての仮面が剝がれる、最後の舞台が待っている――。
貴族街の奥、かつてブレナード家の一族が頻繁に出入りしていた旧公爵邸――
そこに、美しき“公爵令嬢”が姿を見せたという噂が広まり始めたのは、たった一日前のことだった。
その女の名は、カミラ・デュクレール。
東の旧公爵家に連なるとされる貴族で、若くして聖職界に身を置いた“修道女上がり”の令嬢だという。
だが、その微笑みも、振る舞いも――
かつて私が対峙した、エレーヌ・ブレナードと寸分違わぬ“匂い”を纏っていた。
「……王妃陛下の体調が思わしくないと聞いた直後に、“王妃候補”が現れるとは、あまりにも出来すぎていますわ」
私は、アレクシスと共に王宮の廊下を歩きながら、静かに吐き捨てるように言った。
「その“体調不良”自体が、作られたものだろう」
アレクシスの声は冷たい怒りを含んでいた。
「王妃陛下は数日前から喉の不調を訴え、ほとんど人前に姿を見せていない。その隙を狙った偽王妃計画――まさに“すり替え”だ」
「……けれど、この国の重臣たちの中には“ブレナードの血”に惹かれる者もいる。表向きは王家の未来を考えるふりをしながら、背後では玉座を動かしたがる連中」
「だからこそ、明日。“我々が先に動く”」
アレクシスの声に、私は強く頷いた。
「決戦は、明日の日没後。“即位前夜の仮面舞踏会”。王宮に全貴族が集う中、“あの女の正体”を暴く」
* * *
日が落ちていく王都。
私はドレスの胸元に忍ばせた銀のペンダントを指でなぞっていた。
これは父が残した最後の品――裏には、“R.A.へ。真実を見抜け”とだけ刻まれている。
「……あなたも、こうして戦っていたのですね」
父は、決して表舞台に立つ人ではなかった。
だがその分、最後まで“裏側”でこの国を守ろうとしていたのだと、今なら分かる。
「……レイナ」
アレクシスが近づいてくる。彼もまた、黒の礼装に身を包み、決戦に向けて一切の隙を削ぎ落とした騎士のような姿だった。
「明日は、もう“逃げ道”がない。あの女を追い詰めるなら、証拠も手段もすべて一手で決めなければならない」
「承知しております。けれど私は、“言葉”で決着をつけたいのです」
「言葉で?」
「はい。エレーヌの“正義”が偽りだと、全員の前で示します。その上で――必要であれば、剣も振るいます」
アレクシスの瞳が、優しく細められた。
「……君がそう望むなら、最後の刃は僕が振るおう。君は――言葉でこの国を救ってくれ」
彼の手が私の頬に触れる。
「……行こう。明日が、決着だ」
* * *
その夜、王妃陛下は密かにアレクシスと私を部屋に招き入れた。
「……申し訳ありません。“公に姿を見せられぬ病”という噂を広めさせました。罠に引っかかる者たちの顔を、確かに見極めるために」
「王妃陛下……」
「私は、玉座を守るのが使命ではありません。玉座が守るべき者を、見極める責任を負っております」
その声は、体調を崩しているとは思えないほど澄んでいた。
「レイナ様。あなたの“正義”を、明日、私の代わりに王の広間で語ってください。それができるのは――もはや、あなたしかいない」
私は、王妃の手を取って深く頭を下げた。
「必ず。あの女の仮面を、引き剥がしてみせます」
* * *
深夜。
屋敷のバルコニーで、アレクシスとふたり、月を見上げていた。
「ねえ、アレクシス様」
「ん?」
「決着がついたら、本当に……ふたりで旅に出ましょうね」
「……ああ。名前も地位も脱ぎ捨てて、ただの“男と女”として」
私は彼の肩にそっと寄りかかった。
「それまでは、“王妃殺しの冤罪”も、“父の真実”も、“王宮の裏切り”も――全部、終わらせます」
「君とならできる。いや、君とでなければできない」
その言葉が、確かな誓いとなって胸に染み込む。
王都は、静かに眠り始めていた。
だが、明日は“革命の夜”。
すべての仮面が剝がれる、最後の舞台が待っている――。
7
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる