20 / 70
第一部「ブレナード反逆編」
第20話:仮面舞踏会と、暴かれる真実
しおりを挟む
仮面舞踏会――それは、宮廷で最も華やかで、最も危うい夜。
王宮の大広間には、各地から集まった名門貴族が豪奢な衣装と仮面に身を包み、音楽と香に酔いしれていた。
だが、今宵の宴はただの祝祭ではない。
“新たな王妃候補”として名乗りを上げた、ある令嬢のお披露目の場でもあった。
彼女の名は、カミラ・デュクレール――表向きはそうだった。
だが私も、アレクシスも知っていた。
その仮面の下に潜むのは、ブレナード家の野望を体現する女、エレーヌに他ならない。
「……行きましょうか、アレクシス様」
「……ああ。“言葉”で決着をつけるのは君の役目だ」
「その刃が届かぬときは?」
「そのときは、僕が剣で終わらせる」
私たちは視線を交わし、舞踏会の中央へと進み出た。
* * *
「まあ……なんと麗しい。まさに未来の王妃殿下にふさわしいお姿ですわ」
そう口火を切ったのは、貴族たちの間でもっとも噂好きで知られる侯爵夫人。
壇上には、白銀の仮面をまとった“カミラ”が静かに微笑んでいた。
柔らかな仕草、知性を感じさせる目元、そして無垢な声色。
けれど私には分かった。
あの“完璧すぎる”立ち居振る舞いこそ、エレーヌが“作り込んだ人格”だと。
「“王妃代理”としてご挨拶を――そう陛下に命じられたと聞いておりますが、本当ですの?」
私が歩み出て問いかけると、会場が一瞬ざわついた。
「……ええ、王妃陛下からお言葉を頂戴いたしました。“病床の身に代わって、貴族方に希望を示してほしい”と」
そう言った彼女の声は、あまりにも“自信に満ちていた”。
――つまり、既に王妃は“無力”と見なしている。
この場を乗っ取る気でいるのだ。
「では、どうぞ。仮面を外して、その“希望の顔”を皆にお見せになって」
私のその一言に、広間の空気が凍る。
「……レイナ様。それは、礼を欠いておりますわ。仮面舞踏会において、顔を明かすとは――」
「ええ、“正体を隠す必要がなければ”、の話ですけれど」
彼女の目がわずかに細められた。
「あなたは、誰ですの? 本当に“カミラ・デュクレール”?
それとも――ブレナード家の復讐者、“エレーヌ”?」
会場がざわつく。
仮面の下から、低く笑う声が聞こえた。
「……ふふ。なるほど、さすがですわ、侯爵夫人。あなたの“言葉”には、刃がある」
彼女はゆっくりと仮面に指をかけ、そして――外した。
会場中が息を呑む。
その顔は、確かに“エレーヌ・ブレナード”そのものだった。
「どうして、こんな真似を……!」
「簡単なことですわ。民は“名前”を望みます。“顔”を望みます。“誰を信じればいいか”を教えてほしがる」
彼女の声は、静かに、そしてどこか誇らしげに響いた。
「だから私は、新しい名を名乗り、王妃の代行としてこの場に立った。“本物”はもう退いていただく時期です」
「……それを“正義”と呼ぶの?」
私は一歩前に出た。
「王妃陛下は、今も静かにこの国を見つめ、守っておられる。あなたが思うように、誰も彼女を忘れてなどいない」
「……そうかしら? 少なくとも、貴族たちの多くは私の背に並びつつあるように見えますけれど?」
その言葉と同時に、会場の数人の貴族たちが、ゆっくりと一歩、彼女の側に立った。
「“真実”は、数で決まらない」
私は胸元のペンダントを外し、高らかに掲げた。
「これは、私の父が残した唯一の証。ブレナード家によって奪われた命、王政を歪めた者たちの名が記された記録です!」
使用人が走り込み、玉座に届けられた封筒を王宮の侍従が開く。
王妃陛下の手紙が読み上げられた。
> 「エレーヌ・ブレナードは王家を欺き、王妃の座を奪おうとした罪により、
直ちに拘束せよ。これは我が名において下す勅命である」
――玉座の陰から、王妃陛下が自ら姿を現した。
「……陛下……!」
エレーヌの顔から、初めて“仮面”が剝がれた。
それは、怯えでも、恐れでもなく――絶望だった。
「……すべて……終わったのね」
「いいえ。まだです」
私が向き直る。
「ブレナード家の陰謀を知りながら手を貸した貴族すべてに、“責任”を問わせていただきます」
アレクシスが剣を抜いた。
「王命により、この場にて反逆の首謀者を拘束する。抵抗すれば、その場で――」
「……処断いたします」
私とアレクシスの声が重なった瞬間、仮面舞踏会は“戦場”となった。
けれど、それは“光”が“影”を斬るための、正義の剣だった。
王宮の大広間には、各地から集まった名門貴族が豪奢な衣装と仮面に身を包み、音楽と香に酔いしれていた。
だが、今宵の宴はただの祝祭ではない。
“新たな王妃候補”として名乗りを上げた、ある令嬢のお披露目の場でもあった。
彼女の名は、カミラ・デュクレール――表向きはそうだった。
だが私も、アレクシスも知っていた。
その仮面の下に潜むのは、ブレナード家の野望を体現する女、エレーヌに他ならない。
「……行きましょうか、アレクシス様」
「……ああ。“言葉”で決着をつけるのは君の役目だ」
「その刃が届かぬときは?」
「そのときは、僕が剣で終わらせる」
私たちは視線を交わし、舞踏会の中央へと進み出た。
* * *
「まあ……なんと麗しい。まさに未来の王妃殿下にふさわしいお姿ですわ」
そう口火を切ったのは、貴族たちの間でもっとも噂好きで知られる侯爵夫人。
壇上には、白銀の仮面をまとった“カミラ”が静かに微笑んでいた。
柔らかな仕草、知性を感じさせる目元、そして無垢な声色。
けれど私には分かった。
あの“完璧すぎる”立ち居振る舞いこそ、エレーヌが“作り込んだ人格”だと。
「“王妃代理”としてご挨拶を――そう陛下に命じられたと聞いておりますが、本当ですの?」
私が歩み出て問いかけると、会場が一瞬ざわついた。
「……ええ、王妃陛下からお言葉を頂戴いたしました。“病床の身に代わって、貴族方に希望を示してほしい”と」
そう言った彼女の声は、あまりにも“自信に満ちていた”。
――つまり、既に王妃は“無力”と見なしている。
この場を乗っ取る気でいるのだ。
「では、どうぞ。仮面を外して、その“希望の顔”を皆にお見せになって」
私のその一言に、広間の空気が凍る。
「……レイナ様。それは、礼を欠いておりますわ。仮面舞踏会において、顔を明かすとは――」
「ええ、“正体を隠す必要がなければ”、の話ですけれど」
彼女の目がわずかに細められた。
「あなたは、誰ですの? 本当に“カミラ・デュクレール”?
それとも――ブレナード家の復讐者、“エレーヌ”?」
会場がざわつく。
仮面の下から、低く笑う声が聞こえた。
「……ふふ。なるほど、さすがですわ、侯爵夫人。あなたの“言葉”には、刃がある」
彼女はゆっくりと仮面に指をかけ、そして――外した。
会場中が息を呑む。
その顔は、確かに“エレーヌ・ブレナード”そのものだった。
「どうして、こんな真似を……!」
「簡単なことですわ。民は“名前”を望みます。“顔”を望みます。“誰を信じればいいか”を教えてほしがる」
彼女の声は、静かに、そしてどこか誇らしげに響いた。
「だから私は、新しい名を名乗り、王妃の代行としてこの場に立った。“本物”はもう退いていただく時期です」
「……それを“正義”と呼ぶの?」
私は一歩前に出た。
「王妃陛下は、今も静かにこの国を見つめ、守っておられる。あなたが思うように、誰も彼女を忘れてなどいない」
「……そうかしら? 少なくとも、貴族たちの多くは私の背に並びつつあるように見えますけれど?」
その言葉と同時に、会場の数人の貴族たちが、ゆっくりと一歩、彼女の側に立った。
「“真実”は、数で決まらない」
私は胸元のペンダントを外し、高らかに掲げた。
「これは、私の父が残した唯一の証。ブレナード家によって奪われた命、王政を歪めた者たちの名が記された記録です!」
使用人が走り込み、玉座に届けられた封筒を王宮の侍従が開く。
王妃陛下の手紙が読み上げられた。
> 「エレーヌ・ブレナードは王家を欺き、王妃の座を奪おうとした罪により、
直ちに拘束せよ。これは我が名において下す勅命である」
――玉座の陰から、王妃陛下が自ら姿を現した。
「……陛下……!」
エレーヌの顔から、初めて“仮面”が剝がれた。
それは、怯えでも、恐れでもなく――絶望だった。
「……すべて……終わったのね」
「いいえ。まだです」
私が向き直る。
「ブレナード家の陰謀を知りながら手を貸した貴族すべてに、“責任”を問わせていただきます」
アレクシスが剣を抜いた。
「王命により、この場にて反逆の首謀者を拘束する。抵抗すれば、その場で――」
「……処断いたします」
私とアレクシスの声が重なった瞬間、仮面舞踏会は“戦場”となった。
けれど、それは“光”が“影”を斬るための、正義の剣だった。
7
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる