21 / 70
第一部「ブレナード反逆編」
第21話:反逆の終焉と、誓いの朝
しおりを挟む
剣戟の音が静かに止んだ。
仮面舞踏会という名の“劇場”は、終幕を迎え、白い大理石の床には、倒された男たちの影が横たわっていた。
血ではない。
失ったのは地位と信頼、そして未来――反逆者たちの“野望”そのものだった。
「すべて、拘束完了です」
私兵隊長の報告に、アレクシスは頷きながら剣を収めた。
玉座の階段下、ひとりひざまずく女――エレーヌ・ブレナード。
華やかだった銀糸のドレスは乱れ、髪はほどけ、その瞳だけがまだ、“何か”を諦めていないように輝いていた。
「……ねえ、レイナ様。あなたは“正しさ”を証明したけれど、それで何を得たの?」
その問いに、私はほんの少しだけ微笑んだ。
「――心ですわ」
「……は?」
「剣でも、権力でもなく。“誰かの心を信じること”を、私は選びました。
それが、この国の未来を育てる唯一の方法だと、あなたを通じて気づけたから」
エレーヌは、はっと目を見開いた。
そして、静かにうつむいた。
「……きっと私は、その優しさが、何よりも怖かったのかもしれないわ」
その言葉を最後に、エレーヌは何も言わなくなった。
玉座の衛兵たちが、ゆっくりと彼女を連行していく。
――こうして、ブレナード家の“二度目の反逆”は終わった。
* * *
夜が明けていた。
仮面舞踏会の喧騒が去った王宮は、まるで長い夢から醒めたように静けさを取り戻していた。
私は一人、王妃陛下の執務室に呼ばれていた。
「……見事に果たしましたね、レイナ」
王妃は優しく笑いながら、私に一通の手紙を差し出した。
「あなたの父上、アルセリナ伯爵。今、南の療養所にて保護されております。ブレナードの手が届かぬ地で、ひそかに匿われていたのです」
「……ご無事なのですね?」
「ええ。“誤って”亡くなったことにされたのも、身を守るためだった。……貴女が無事に戦いを終えたとき、再会させるようにというご本人の願いでした」
涙が、すっと流れた。
安堵でも、悔しさでもない。
“見届けてもらえた”という静かな感情が胸に灯り、私は深く頭を垂れた。
「……ありがとうございます」
* * *
正午前。
グランデ侯爵邸。
私は久々に“ただのドレス”に身を包み、庭に咲いた春の花を一輪、手折っていた。
「……似合うよ、そういう姿も」
声の方を振り返ると、アレクシスが、普段の騎士服ではなく私服に近い装いで立っていた。
「珍しいですわね。そうした姿」
「お祝いだからな。“戦いの終わり”という、ね」
彼は私の隣に立ち、手にしていた小箱を差し出した。
「これは?」
「開けてごらん」
中に入っていたのは、細身の銀の指輪。
中央には、小さな蒼石がひとつだけはめ込まれていた。
「……アレクシス様」
「“契約”ではない、“夫婦の証”を。ようやく渡せる気がした」
私は、何も言えなくなった。
ただ頷き、彼の手の中に指を差し出す。
指輪は、吸い込まれるようにぴたりとはまった。
「……誓います」
「僕も。君とともに歩む日々を、もう誰にも脅かさせない」
そして私たちは、言葉なく抱きしめ合った。
* * *
その後。
王政は再編され、王妃陛下は名実ともに国母として信を取り戻し、ブレナード家の一族は辺境へと追放。
エレーヌ本人は、王命により死罪を免れ、修道院にて幽閉となった。
そして私たち――
レイナとアレクシス・グランデ夫妻は、すべての役目を果たしたあと、数週間の休暇を得て、誰も知らぬ小さな港町へ旅立った。
肩書きも、剣も置いて。
ただの、ふたりの人間として。
仮面舞踏会という名の“劇場”は、終幕を迎え、白い大理石の床には、倒された男たちの影が横たわっていた。
血ではない。
失ったのは地位と信頼、そして未来――反逆者たちの“野望”そのものだった。
「すべて、拘束完了です」
私兵隊長の報告に、アレクシスは頷きながら剣を収めた。
玉座の階段下、ひとりひざまずく女――エレーヌ・ブレナード。
華やかだった銀糸のドレスは乱れ、髪はほどけ、その瞳だけがまだ、“何か”を諦めていないように輝いていた。
「……ねえ、レイナ様。あなたは“正しさ”を証明したけれど、それで何を得たの?」
その問いに、私はほんの少しだけ微笑んだ。
「――心ですわ」
「……は?」
「剣でも、権力でもなく。“誰かの心を信じること”を、私は選びました。
それが、この国の未来を育てる唯一の方法だと、あなたを通じて気づけたから」
エレーヌは、はっと目を見開いた。
そして、静かにうつむいた。
「……きっと私は、その優しさが、何よりも怖かったのかもしれないわ」
その言葉を最後に、エレーヌは何も言わなくなった。
玉座の衛兵たちが、ゆっくりと彼女を連行していく。
――こうして、ブレナード家の“二度目の反逆”は終わった。
* * *
夜が明けていた。
仮面舞踏会の喧騒が去った王宮は、まるで長い夢から醒めたように静けさを取り戻していた。
私は一人、王妃陛下の執務室に呼ばれていた。
「……見事に果たしましたね、レイナ」
王妃は優しく笑いながら、私に一通の手紙を差し出した。
「あなたの父上、アルセリナ伯爵。今、南の療養所にて保護されております。ブレナードの手が届かぬ地で、ひそかに匿われていたのです」
「……ご無事なのですね?」
「ええ。“誤って”亡くなったことにされたのも、身を守るためだった。……貴女が無事に戦いを終えたとき、再会させるようにというご本人の願いでした」
涙が、すっと流れた。
安堵でも、悔しさでもない。
“見届けてもらえた”という静かな感情が胸に灯り、私は深く頭を垂れた。
「……ありがとうございます」
* * *
正午前。
グランデ侯爵邸。
私は久々に“ただのドレス”に身を包み、庭に咲いた春の花を一輪、手折っていた。
「……似合うよ、そういう姿も」
声の方を振り返ると、アレクシスが、普段の騎士服ではなく私服に近い装いで立っていた。
「珍しいですわね。そうした姿」
「お祝いだからな。“戦いの終わり”という、ね」
彼は私の隣に立ち、手にしていた小箱を差し出した。
「これは?」
「開けてごらん」
中に入っていたのは、細身の銀の指輪。
中央には、小さな蒼石がひとつだけはめ込まれていた。
「……アレクシス様」
「“契約”ではない、“夫婦の証”を。ようやく渡せる気がした」
私は、何も言えなくなった。
ただ頷き、彼の手の中に指を差し出す。
指輪は、吸い込まれるようにぴたりとはまった。
「……誓います」
「僕も。君とともに歩む日々を、もう誰にも脅かさせない」
そして私たちは、言葉なく抱きしめ合った。
* * *
その後。
王政は再編され、王妃陛下は名実ともに国母として信を取り戻し、ブレナード家の一族は辺境へと追放。
エレーヌ本人は、王命により死罪を免れ、修道院にて幽閉となった。
そして私たち――
レイナとアレクシス・グランデ夫妻は、すべての役目を果たしたあと、数週間の休暇を得て、誰も知らぬ小さな港町へ旅立った。
肩書きも、剣も置いて。
ただの、ふたりの人間として。
7
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる