婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第一部「ブレナード反逆編」

第20話:仮面舞踏会と、暴かれる真実

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仮面舞踏会――それは、宮廷で最も華やかで、最も危うい夜。

 王宮の大広間には、各地から集まった名門貴族が豪奢な衣装と仮面に身を包み、音楽と香に酔いしれていた。
 だが、今宵の宴はただの祝祭ではない。
 “新たな王妃候補”として名乗りを上げた、ある令嬢のお披露目の場でもあった。

 彼女の名は、カミラ・デュクレール――表向きはそうだった。

 だが私も、アレクシスも知っていた。
 その仮面の下に潜むのは、ブレナード家の野望を体現する女、エレーヌに他ならない。

 「……行きましょうか、アレクシス様」

 「……ああ。“言葉”で決着をつけるのは君の役目だ」

 「その刃が届かぬときは?」

 「そのときは、僕が剣で終わらせる」

 私たちは視線を交わし、舞踏会の中央へと進み出た。

* * *

 「まあ……なんと麗しい。まさに未来の王妃殿下にふさわしいお姿ですわ」

 そう口火を切ったのは、貴族たちの間でもっとも噂好きで知られる侯爵夫人。

 壇上には、白銀の仮面をまとった“カミラ”が静かに微笑んでいた。
 柔らかな仕草、知性を感じさせる目元、そして無垢な声色。

 けれど私には分かった。
 あの“完璧すぎる”立ち居振る舞いこそ、エレーヌが“作り込んだ人格”だと。

 「“王妃代理”としてご挨拶を――そう陛下に命じられたと聞いておりますが、本当ですの?」

 私が歩み出て問いかけると、会場が一瞬ざわついた。

 「……ええ、王妃陛下からお言葉を頂戴いたしました。“病床の身に代わって、貴族方に希望を示してほしい”と」

 そう言った彼女の声は、あまりにも“自信に満ちていた”。

 ――つまり、既に王妃は“無力”と見なしている。
 この場を乗っ取る気でいるのだ。

 「では、どうぞ。仮面を外して、その“希望の顔”を皆にお見せになって」

 私のその一言に、広間の空気が凍る。

 「……レイナ様。それは、礼を欠いておりますわ。仮面舞踏会において、顔を明かすとは――」

 「ええ、“正体を隠す必要がなければ”、の話ですけれど」

 彼女の目がわずかに細められた。

 「あなたは、誰ですの? 本当に“カミラ・デュクレール”?
 それとも――ブレナード家の復讐者、“エレーヌ”?」

 会場がざわつく。

 仮面の下から、低く笑う声が聞こえた。

 「……ふふ。なるほど、さすがですわ、侯爵夫人。あなたの“言葉”には、刃がある」

 彼女はゆっくりと仮面に指をかけ、そして――外した。

 会場中が息を呑む。

 その顔は、確かに“エレーヌ・ブレナード”そのものだった。

 「どうして、こんな真似を……!」

 「簡単なことですわ。民は“名前”を望みます。“顔”を望みます。“誰を信じればいいか”を教えてほしがる」

 彼女の声は、静かに、そしてどこか誇らしげに響いた。

 「だから私は、新しい名を名乗り、王妃の代行としてこの場に立った。“本物”はもう退いていただく時期です」

 「……それを“正義”と呼ぶの?」

 私は一歩前に出た。

 「王妃陛下は、今も静かにこの国を見つめ、守っておられる。あなたが思うように、誰も彼女を忘れてなどいない」

 「……そうかしら? 少なくとも、貴族たちの多くは私の背に並びつつあるように見えますけれど?」

 その言葉と同時に、会場の数人の貴族たちが、ゆっくりと一歩、彼女の側に立った。

 「“真実”は、数で決まらない」

 私は胸元のペンダントを外し、高らかに掲げた。

 「これは、私の父が残した唯一の証。ブレナード家によって奪われた命、王政を歪めた者たちの名が記された記録です!」

 使用人が走り込み、玉座に届けられた封筒を王宮の侍従が開く。

 王妃陛下の手紙が読み上げられた。

 > 「エレーヌ・ブレナードは王家を欺き、王妃の座を奪おうとした罪により、
  直ちに拘束せよ。これは我が名において下す勅命である」

 ――玉座の陰から、王妃陛下が自ら姿を現した。

 「……陛下……!」

 エレーヌの顔から、初めて“仮面”が剝がれた。

 それは、怯えでも、恐れでもなく――絶望だった。

 「……すべて……終わったのね」

 「いいえ。まだです」

 私が向き直る。

 「ブレナード家の陰謀を知りながら手を貸した貴族すべてに、“責任”を問わせていただきます」

 アレクシスが剣を抜いた。

 「王命により、この場にて反逆の首謀者を拘束する。抵抗すれば、その場で――」

 「……処断いたします」

 私とアレクシスの声が重なった瞬間、仮面舞踏会は“戦場”となった。

 けれど、それは“光”が“影”を斬るための、正義の剣だった。
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