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第二部「風薫る港町と、新たな胎動」
第2話:さざ波の下、忍び寄る鼓動
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朝の港町は、潮の香りと共に目を覚ます。
窓辺を撫でる風は、昨日と何も変わらない。だが――
私の中では、確実に何かが変わっていた。
「……この子が、生まれてきてくれたら」
ベッドの中、そっとお腹に手を添えながら呟く。
まだ形にもなっていない命。けれど、確かにそこにいると、私の心は知っていた。
アレクシスは、私がまだ眠っていると思ったのか、そっと肩に毛布を掛けてくれたあと、宿の共同キッチンへ出ていった。
彼がこうして“誰かのために台所に立つ”姿を見るたびに、私は日々、幸せを実感する。
「レイナ、パンが焼き上がるまで時間がある。先に紅茶を入れておいたよ」
「……ありがとう、旦那様」
彼はわずかに肩をすくめた。
「……まだ慣れないな。その呼び方」
「ふふ、じゃあ“アレクシス”で。今は私たち、ただの旅の夫婦ですものね」
その言葉に、彼はようやく頷いた。
だが――
その穏やかな朝の裏で、町の空気は微かにざわついていた。
* * *
昼過ぎ。
私はいつものように市場へと足を運んだ。
港で水揚げされた魚、果物、パン屋の新しい焼き菓子。町の暮らしは変わらないはずだった。
けれど、魚屋の老人がふと口にした言葉が、胸に引っかかった。
「最近、この町にも“王都からの使い”が出入りしておってな」
「使い……ですか?」
「うむ。貴族風の男だったよ。名は明かさんが、“最近ここに来た夫婦”の話を、宿の者に聞いていたらしい」
私は思わず背筋がこわばった。
この町で名を伏せて暮らしていたのは、何よりも“胎児を守るため”。
なのに、もう気配が――。
「何かを探している風でしたか?」
「いや……妙なことに、“祝辞”を伝えたいだけだと。新婚旅行だろうってな」
「……祝辞?」
その言葉の違和感は、夜になっても拭えなかった。
* * *
夜。
アレクシスが湯上がりの髪を拭きながら、ふと口を開いた。
「今日、馬車の痕が宿の裏にあった。市場の出入りとは違うルートで……。君に話そうか迷ったが、やはり“誰か”が動いている」
「やっぱり……王都関係者ですね」
「ただ、妙なのは……何も干渉してこない。“こちらが反応するのを待っている”ような……」
私は考え込んだあと、静かに口を開いた。
「……まさか、父が関わっているのでは?」
アレクシスの手が止まった。
「父は王都を離れ、身を隠して療養していたと聞きました。でも、あの人が“ただ黙って回復を待つ”とは思えません」
「……レイナ。まさか、君自身に“再び役目を背負わせよう”としている?」
私は、小さく頷いた。
「そうだとしたら――私は、拒みます」
その言葉に、アレクシスは目を見開いた。
「……私は、もう命を懸ける戦を終えました。だから、この子が生まれるまでは、誰であれ、国であれ、“私という人間”を引きずり出させません」
「……その意志が、僕の誇りだ」
アレクシスは立ち上がると、そっと私の手を握った。
「だが、君がそう誓うならば、僕はその盾となる。もう二度と、誰にも触れさせはしない」
彼の手は、剣よりも力強くて、優しかった。
* * *
その夜。
宿の屋根裏に、一通の書簡が置かれていた。
> 《王都より正式なる使者が向かう。
“北の新興貴族”にて不穏な動きあり。
“グランデの剣”を求む声、再び高まる》
――R.A.の父、記す。
その筆跡に気づいたのは、夜明け前。
私は震える手で手紙を抱き、静かにアレクシスの寝顔に寄り添った。
「……戦いは、終わっていなかったのですね」
でも私は、今なら言える。
“戦う理由”が変わった。
それは、私ひとりの正義のためではない。
この命を、未来を、そして――“私たち”を守るために。
窓辺を撫でる風は、昨日と何も変わらない。だが――
私の中では、確実に何かが変わっていた。
「……この子が、生まれてきてくれたら」
ベッドの中、そっとお腹に手を添えながら呟く。
まだ形にもなっていない命。けれど、確かにそこにいると、私の心は知っていた。
アレクシスは、私がまだ眠っていると思ったのか、そっと肩に毛布を掛けてくれたあと、宿の共同キッチンへ出ていった。
彼がこうして“誰かのために台所に立つ”姿を見るたびに、私は日々、幸せを実感する。
「レイナ、パンが焼き上がるまで時間がある。先に紅茶を入れておいたよ」
「……ありがとう、旦那様」
彼はわずかに肩をすくめた。
「……まだ慣れないな。その呼び方」
「ふふ、じゃあ“アレクシス”で。今は私たち、ただの旅の夫婦ですものね」
その言葉に、彼はようやく頷いた。
だが――
その穏やかな朝の裏で、町の空気は微かにざわついていた。
* * *
昼過ぎ。
私はいつものように市場へと足を運んだ。
港で水揚げされた魚、果物、パン屋の新しい焼き菓子。町の暮らしは変わらないはずだった。
けれど、魚屋の老人がふと口にした言葉が、胸に引っかかった。
「最近、この町にも“王都からの使い”が出入りしておってな」
「使い……ですか?」
「うむ。貴族風の男だったよ。名は明かさんが、“最近ここに来た夫婦”の話を、宿の者に聞いていたらしい」
私は思わず背筋がこわばった。
この町で名を伏せて暮らしていたのは、何よりも“胎児を守るため”。
なのに、もう気配が――。
「何かを探している風でしたか?」
「いや……妙なことに、“祝辞”を伝えたいだけだと。新婚旅行だろうってな」
「……祝辞?」
その言葉の違和感は、夜になっても拭えなかった。
* * *
夜。
アレクシスが湯上がりの髪を拭きながら、ふと口を開いた。
「今日、馬車の痕が宿の裏にあった。市場の出入りとは違うルートで……。君に話そうか迷ったが、やはり“誰か”が動いている」
「やっぱり……王都関係者ですね」
「ただ、妙なのは……何も干渉してこない。“こちらが反応するのを待っている”ような……」
私は考え込んだあと、静かに口を開いた。
「……まさか、父が関わっているのでは?」
アレクシスの手が止まった。
「父は王都を離れ、身を隠して療養していたと聞きました。でも、あの人が“ただ黙って回復を待つ”とは思えません」
「……レイナ。まさか、君自身に“再び役目を背負わせよう”としている?」
私は、小さく頷いた。
「そうだとしたら――私は、拒みます」
その言葉に、アレクシスは目を見開いた。
「……私は、もう命を懸ける戦を終えました。だから、この子が生まれるまでは、誰であれ、国であれ、“私という人間”を引きずり出させません」
「……その意志が、僕の誇りだ」
アレクシスは立ち上がると、そっと私の手を握った。
「だが、君がそう誓うならば、僕はその盾となる。もう二度と、誰にも触れさせはしない」
彼の手は、剣よりも力強くて、優しかった。
* * *
その夜。
宿の屋根裏に、一通の書簡が置かれていた。
> 《王都より正式なる使者が向かう。
“北の新興貴族”にて不穏な動きあり。
“グランデの剣”を求む声、再び高まる》
――R.A.の父、記す。
その筆跡に気づいたのは、夜明け前。
私は震える手で手紙を抱き、静かにアレクシスの寝顔に寄り添った。
「……戦いは、終わっていなかったのですね」
でも私は、今なら言える。
“戦う理由”が変わった。
それは、私ひとりの正義のためではない。
この命を、未来を、そして――“私たち”を守るために。
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