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第二部「風薫る港町と、新たな胎動」
第10話 :神託を拒む声、胎より響け」
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──祭壇は、白布に覆われていた。
王都郊外、古より神託の地とされる「ルーウェンの丘」。
そこで行われる「胎の王を祀る儀式」は、信仰の名を借りた“政治の舞台”に他ならなかった。
「……誰も、命を見ていない」
白装束に身を包み、台座の前に立たされた私は、冷たい風の中でそう思った。
その場にいた百を超える来賓の視線は、“胎”ではなく、“象徴”としての私を見ていた。
祭司は柚木家の巫女頭。
灰白の衣に銀糸を織り込み、手に聖書を携え、何も知らぬ顔で私に問いかける。
「神は、貴女の胎に宿る命を祝福しました。
この子を、御霊の器として、この地に祝福をもたらす光と認めてよろしいでしょうか?」
広場に沈黙が落ちる。
その一言を、“肯定”すれば、
この子は「胎の王」、未来の神子として、信仰の下に縛られる。
その一言を、“否定”すれば、
この場にいる者すべてを敵に回す。
けれど私は、恐れなかった。
静かに、お腹に手を添える。
温かく、確かな鼓動がそこにあった。
私は、語り始めた。
「この子は、神ではありません。
この子は、王にも、祭られる存在にもなりません」
どよめきが広がる。
「この子は、私とアレクシスの――“人としての命”です。
私たちが愛し、育て、願いを込めて迎える命。
剣を持たず、王位を望まず、ただ生きるために生まれる命です」
巫女頭がわずかに顔を曇らせる。
「……しかし、これは“神託”でございます。
あなたの血も、子の鼓動も、すべてが過去の王家の系譜と重なり──」
「“神託”は人が作ります。
そしてこの国の歴史は、“都合のいい神託”によって、いくつ命を奪ってきました?」
私は足元の白布を踏み出し、一歩、祭壇から降りた。
「私は、“王”の母にはなりません。
この命を“誰かの象徴”として捧げることも拒みます。
私は、この子の母であり――それ以上でも、それ以下でもない」
会場の空気が凍る。
だが、その背に気配が立った。
「ならば、我が剣をもってその意志を守る」
アレクシスが、王都から駆けつけた私兵を率いて現れた。
その刹那、周囲の数人が剣に手をかける。
──柚木家が手配した“信仰騎士”たちだ。
しかし、王妃陛下の紋章を掲げた使者が割って入る。
「王命を伝える。
本日より、“胎の王”という称号は正式に否定される。
この子は、グランデ家の後継として、王政とは関係ない場にて静かに育てられる」
その言葉が、決着だった。
巫女頭は、ひとつ息を吐いたあと、静かに頭を垂れた。
「……では、神の代行者としてではなく、
ひとりの女として、母として、貴女の意志に敬意を表します」
私は胸元で手を組み、深く礼を返した。
「どうか、今後生まれるすべての命が、誰かの期待や欲望に縛られませんように。
それだけを祈ります」
* * *
儀式の翌日、私は王妃陛下に謁見した。
「……よく、やってくださいましたね」
王妃は、私の手を優しく包み込むように握った。
「貴女の言葉は、あの場にいた者すべてに届きました。
国が“命を道具にしようとした過ち”に気づかぬ限り、何度でも繰り返すでしょう。
でも、貴女がその輪を一つ壊してくださった」
私は、涙がこぼれるのを感じながら、こう答えた。
「王妃陛下が、私に“母でいてほしい”と願ってくださったからです。
私はただ、その通りに、生きただけです」
王妃はそっと微笑んだ。
「この子が生まれたら、見せに来てくださいね」
「ええ。きっと、“人として生まれた命”を、お見せします」
王都郊外、古より神託の地とされる「ルーウェンの丘」。
そこで行われる「胎の王を祀る儀式」は、信仰の名を借りた“政治の舞台”に他ならなかった。
「……誰も、命を見ていない」
白装束に身を包み、台座の前に立たされた私は、冷たい風の中でそう思った。
その場にいた百を超える来賓の視線は、“胎”ではなく、“象徴”としての私を見ていた。
祭司は柚木家の巫女頭。
灰白の衣に銀糸を織り込み、手に聖書を携え、何も知らぬ顔で私に問いかける。
「神は、貴女の胎に宿る命を祝福しました。
この子を、御霊の器として、この地に祝福をもたらす光と認めてよろしいでしょうか?」
広場に沈黙が落ちる。
その一言を、“肯定”すれば、
この子は「胎の王」、未来の神子として、信仰の下に縛られる。
その一言を、“否定”すれば、
この場にいる者すべてを敵に回す。
けれど私は、恐れなかった。
静かに、お腹に手を添える。
温かく、確かな鼓動がそこにあった。
私は、語り始めた。
「この子は、神ではありません。
この子は、王にも、祭られる存在にもなりません」
どよめきが広がる。
「この子は、私とアレクシスの――“人としての命”です。
私たちが愛し、育て、願いを込めて迎える命。
剣を持たず、王位を望まず、ただ生きるために生まれる命です」
巫女頭がわずかに顔を曇らせる。
「……しかし、これは“神託”でございます。
あなたの血も、子の鼓動も、すべてが過去の王家の系譜と重なり──」
「“神託”は人が作ります。
そしてこの国の歴史は、“都合のいい神託”によって、いくつ命を奪ってきました?」
私は足元の白布を踏み出し、一歩、祭壇から降りた。
「私は、“王”の母にはなりません。
この命を“誰かの象徴”として捧げることも拒みます。
私は、この子の母であり――それ以上でも、それ以下でもない」
会場の空気が凍る。
だが、その背に気配が立った。
「ならば、我が剣をもってその意志を守る」
アレクシスが、王都から駆けつけた私兵を率いて現れた。
その刹那、周囲の数人が剣に手をかける。
──柚木家が手配した“信仰騎士”たちだ。
しかし、王妃陛下の紋章を掲げた使者が割って入る。
「王命を伝える。
本日より、“胎の王”という称号は正式に否定される。
この子は、グランデ家の後継として、王政とは関係ない場にて静かに育てられる」
その言葉が、決着だった。
巫女頭は、ひとつ息を吐いたあと、静かに頭を垂れた。
「……では、神の代行者としてではなく、
ひとりの女として、母として、貴女の意志に敬意を表します」
私は胸元で手を組み、深く礼を返した。
「どうか、今後生まれるすべての命が、誰かの期待や欲望に縛られませんように。
それだけを祈ります」
* * *
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でも、貴女がその輪を一つ壊してくださった」
私は、涙がこぼれるのを感じながら、こう答えた。
「王妃陛下が、私に“母でいてほしい”と願ってくださったからです。
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