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第二部「風薫る港町と、新たな胎動」
第13話:最後の言葉、命に捧ぐ誓い
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王政会議、臨時開廷。
“胎の王”騒動を経て、柚木家が参与の座を降りて以降初の公式の場。
かつてないほどの緊張が、大広間を満たしていた。
そしてその中央――
玉座に並ぶ王と王妃の前に、一人の男が立っていた。
「ルディガー・エインズワース。元王弟の腹心にして、亡命罪に問われた者が、なぜこの場に?」
重臣のひとりが問うが、ルディガーは涼しい顔で答える。
「私が背負った罪は、証明されぬまま“都合よく消された”記録に過ぎません。
王家の弱体を危惧する民が、私を再びここへ呼んだのです」
その瞳は、どこまでも理知的で――けれど氷のようだった。
「私は“王を廃する”とは申しておりません。
ただ、“現体制では国は救えぬ”と述べているまで」
そこに、静かに声が響いた。
「ならば、命を脅かす者としての在り方を、あなたはどう説明なさるおつもり?」
会場の視線が、一斉に扉の方を向いた。
――レイナだった。
椅子に腰を下ろしたまま、白の衣に身を包み、静かに車輪付きの乗台に乗って現れる。
腹ははっきりと膨らみ、彼女の弱さを包み隠すことはできない。
だが、その姿はどこまでも気高かった。
「……レイナ・アルセリナ。
体調不良と聞いていたが……この場に来るとは」
ルディガーの声に、一瞬たりとも揺れず、レイナは言葉を返した。
「体は弱っていても、言葉は立てます。
そして私はこの子を“王”にもしなければ、“排除される象徴”にもさせません」
王の表情が硬くなる。
会場の貴族たちの間で、ざわつきが広がった。
「ルディガー様。あなたの語る“改革”が、弱き命を犠牲にするものであるなら、
私はそれを、“正義”とは呼びません」
ルディガーがわずかに目を細める。
「……貴女は、自身の命も危うい状態でありながら、まだ国に向けて語るつもりか?」
「ええ。私が語らなければ、誰がこの子を守るの?」
レイナの声は、静かで――けれど一切の迷いがなかった。
「私の命は、一度政治の場に巻き込まれ、奪われかけました。
そして今また、私の胎内にある命が“都合の良い秩序のために”葬られようとしている」
「だから私は、拒みます」
「私は、この国の未来を“命を犠牲にして創る”ことを拒みます。
そして、“産まれてくる命に罪を背負わせる”ことも拒みます」
しんと静まりかえった広間に、レイナの言葉が確かに響いた。
「命を語れぬ政治に、何を期待すればいいのでしょう?
私は政治家ではありません。ただの母です。
けれど、母であるからこそ、言えるのです。
“この国に、生きる場所をくれ”と」
* * *
ルディガーはしばし黙ってから、静かに口を開いた。
「……貴女の言葉は、美しい。
しかし、この国は“美しさ”だけでは救えません」
「分かっています。だからこそ、剣でなく、声でここまで来たのです」
ルディガーの表情が、初めて揺らいだ。
その瞬間、王妃が席を立った。
「本日の発言を以て、レイナ・アルセリナは“王政参与の発言権”を正式に保持し、今後胎児に関する議決は全てこの場で承認の上とする」
「また、ルディガー殿には引き続き王政外顧問としての立場を残しますが、
胎児の命に対する発言権を一切付与しないことをここに通告いたします」
それが、静かな勝利の瞬間だった。
* * *
その夜。
静養邸に戻ったレイナは、アレクシスに寄りかかるようにして呟いた。
「……言えました。私の言葉を、すべて」
アレクシスは彼女の肩をそっと抱きしめた。
「君は、国を変えたよ。剣を振るわず、命を語ることで」
お腹の中で、再び命が動いた気がした。
「ねえ……あなた。
もうすぐ、会えるのね」
レイナの声は、深く優しく響いた。
“胎の王”騒動を経て、柚木家が参与の座を降りて以降初の公式の場。
かつてないほどの緊張が、大広間を満たしていた。
そしてその中央――
玉座に並ぶ王と王妃の前に、一人の男が立っていた。
「ルディガー・エインズワース。元王弟の腹心にして、亡命罪に問われた者が、なぜこの場に?」
重臣のひとりが問うが、ルディガーは涼しい顔で答える。
「私が背負った罪は、証明されぬまま“都合よく消された”記録に過ぎません。
王家の弱体を危惧する民が、私を再びここへ呼んだのです」
その瞳は、どこまでも理知的で――けれど氷のようだった。
「私は“王を廃する”とは申しておりません。
ただ、“現体制では国は救えぬ”と述べているまで」
そこに、静かに声が響いた。
「ならば、命を脅かす者としての在り方を、あなたはどう説明なさるおつもり?」
会場の視線が、一斉に扉の方を向いた。
――レイナだった。
椅子に腰を下ろしたまま、白の衣に身を包み、静かに車輪付きの乗台に乗って現れる。
腹ははっきりと膨らみ、彼女の弱さを包み隠すことはできない。
だが、その姿はどこまでも気高かった。
「……レイナ・アルセリナ。
体調不良と聞いていたが……この場に来るとは」
ルディガーの声に、一瞬たりとも揺れず、レイナは言葉を返した。
「体は弱っていても、言葉は立てます。
そして私はこの子を“王”にもしなければ、“排除される象徴”にもさせません」
王の表情が硬くなる。
会場の貴族たちの間で、ざわつきが広がった。
「ルディガー様。あなたの語る“改革”が、弱き命を犠牲にするものであるなら、
私はそれを、“正義”とは呼びません」
ルディガーがわずかに目を細める。
「……貴女は、自身の命も危うい状態でありながら、まだ国に向けて語るつもりか?」
「ええ。私が語らなければ、誰がこの子を守るの?」
レイナの声は、静かで――けれど一切の迷いがなかった。
「私の命は、一度政治の場に巻き込まれ、奪われかけました。
そして今また、私の胎内にある命が“都合の良い秩序のために”葬られようとしている」
「だから私は、拒みます」
「私は、この国の未来を“命を犠牲にして創る”ことを拒みます。
そして、“産まれてくる命に罪を背負わせる”ことも拒みます」
しんと静まりかえった広間に、レイナの言葉が確かに響いた。
「命を語れぬ政治に、何を期待すればいいのでしょう?
私は政治家ではありません。ただの母です。
けれど、母であるからこそ、言えるのです。
“この国に、生きる場所をくれ”と」
* * *
ルディガーはしばし黙ってから、静かに口を開いた。
「……貴女の言葉は、美しい。
しかし、この国は“美しさ”だけでは救えません」
「分かっています。だからこそ、剣でなく、声でここまで来たのです」
ルディガーの表情が、初めて揺らいだ。
その瞬間、王妃が席を立った。
「本日の発言を以て、レイナ・アルセリナは“王政参与の発言権”を正式に保持し、今後胎児に関する議決は全てこの場で承認の上とする」
「また、ルディガー殿には引き続き王政外顧問としての立場を残しますが、
胎児の命に対する発言権を一切付与しないことをここに通告いたします」
それが、静かな勝利の瞬間だった。
* * *
その夜。
静養邸に戻ったレイナは、アレクシスに寄りかかるようにして呟いた。
「……言えました。私の言葉を、すべて」
アレクシスは彼女の肩をそっと抱きしめた。
「君は、国を変えたよ。剣を振るわず、命を語ることで」
お腹の中で、再び命が動いた気がした。
「ねえ……あなた。
もうすぐ、会えるのね」
レイナの声は、深く優しく響いた。
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