婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第4話:試される声、響く心

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 「……この詩を、正式な場で紹介したいのですか?」

 そう問われたのは、エリアが書いた小さな詩が、偶然王妃陛下の耳に届いたからだった。

 「はい。あれは、誰かに届いたってわかったから。
  だったら、もう少し、届く場所へ出してみたいんです」

 エリアの返事は、小さくても、まっすぐだった。

 王妃陛下は驚きながらも、笑った。

 「では、“春の祝祭式典”にて、子どもたちによる朗読会を設けましょう。
  あなたの詩が、どれほどの人の心を打つのか――見せてくれる?」

 「……はいっ!」

 それは、エリアにとって初めての、“公式の舞台”だった。

* * *

 一方その頃、ソフィーナ姫の元には、本国からの文書が届いていた。

 > 《第一皇女の資格者として、帰国の準備を進めよ。
 >  “言葉の国”で得たものがあれば、それを報告に含めるように》

 文面は簡潔で、命令の形をしていた。
 滞在は当初より延長されていたが、王都に長く居すぎれば“影響されすぎた”と判断されかねない――

 「……“感化されるな”ってことね」

 ソフィーナは、エリアからもらった詩を読み返した。

 『ちいさな剣』。

 読み返すたびに、胸の奥で何かがあたたかくなる。
 それは、彼女がこれまで持たなかった“剣以外の何か”だった。

 (……私は、この国で“負けた”のかもしれない)

* * *

 そして、春の祝祭式典――。

 王宮の広場には、色とりどりの旗が掲げられ、子どもたちがそれぞれの演目を披露していた。

 エリアは最後の演目。
 詩の朗読者として、ひとり、舞台の中央に立った。

 「……エリア・グランデと申します。
  これは、わたしの、“小さな剣”の詩です」

 その瞬間、ざわりと観客がざわめいた。

 王宮参与であるレイナの娘。
 政治の象徴となりうる存在が、自らの言葉を語ろうとしている。

 けれど、エリアの声は、怯まなかった。

 > わたしは 剣を持たない
 > でも こえがある
 >
 > だれかが ないたとき
 > だれかが ふるえたとき
 >
 > わたしは こえで守る
 > それが わたしの 剣

 ――静寂が、広がる。

 けれど、それは“何も響かなかった”という沈黙ではない。
 むしろその逆。
 誰もが、息を飲んでいた。

 そして、ひとり、またひとりと、拍手が起こる。

 最初に立ち上がったのは――ソフィーナだった。

 彼女は小さく拍手し、エリアに向かって会釈をした。
 「あなたの剣は、確かに届いたわ」と言うように。

 やがて、王妃、王政の役人、民衆と、広場全体にその拍手は広がっていく。

 エリアは、まだ少し手が震えていたけれど――
 心は、不思議なほど落ち着いていた。

 「……お母様」

 母のほうを見ると、レイナが泣きそうなほど柔らかく微笑んでいた。

* * *

 式典のあと。

 エリアとソフィーナは、王宮の小径で最後の会話を交わしていた。

 「わたし、帰国することになったの」

 「……やっぱり」

 「でも、ありがとう。
  わたし、あなたに出会って“勝つこと”以外の意味を知れたの。
  “声で守る”って、きっと剣より難しい」

 「……ソフィーナ姫。また、会える?」

 「ううん、“また来る”。
  次は、騎士じゃなくて、友達として」

 そう言って、彼女は手を差し出した。
 エリアも、小さな手でそれを握り返す。

 剣と声――違う武器を持つ二人が、同じ場所に立てた瞬間だった。
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