婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第3話:私の剣は、言葉だから

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 「ソフィーナ姫は、剣を抜いて立っていたわ」

 それが、エリアの感想のすべてだった。

 まっすぐに。
 ぶれることなく。
 「わたしはここにいる」と、まるで自分自身を示すように剣を構えていた。

 「――あれが、“強さ”なんだ」

 けれど、エリアは知っている。

 自分には、剣を持つ手も、
 それを振るう理由も、まだ持っていないことを。

* * *

 その日、王宮の文官図書室。
 母の執務の隣で本を読んでいたエリアは、ふと、ある紙の束を見つけた。

 それは、かつてレイナが王宮で使っていた演説草稿の下書きだった。

 『命とは、ただ生きているだけの存在ではない。
 愛され、必要とされ、守られようとすることが、命を“命たらしめる”』

 幼い目で一文字ずつ追いながら、エリアの胸に何かが広がっていく。

 「……これが、お母様の“剣”……?」

* * *

 その日の午後。

 東庭で行われた「交流訓練」では、ソフィーナが模擬剣術を披露していた。

 軽やかに、的を打ち抜くような動きに、騎士たちすら感嘆の声を漏らす。

 「すごいな……」

 「東方の姫って、みんなあんなに……?」

 子どもたちの間に、自然と憧れが広がる。
 けれど、エリアはどこかで――自分は、あそこに立てないと感じていた。

 (わたしは、剣を持ってもあんなふうにはなれない。
  でも――)

 でも、自分が本当に“なりたいのは”、あの姿じゃない。

 “誰かの目に強く映る”よりも、
 “誰かの心に、届く言葉”を持ちたい。

 それが、エリアの“はじまり”だった。

* * *

 翌日。
 母の前で、エリアは真剣な顔をして告げた。

 「お母様。わたし、文章の練習がしたいです」

 「文章……?」

 「わたし、自分の“剣”を探したい。
  ソフィーナ姫は剣で立つけど、わたしは、言葉で何かできたらって思うの」

 レイナは、静かに目を見開いてから――やがて笑った。

 「ええ、もちろん。
  エリア、あなたが言葉を選ぼうとするなら、私はいくらでも教えるわ」

 「ありがとう、お母様」

 それは、母と娘の間に交わされた、最初の師弟契約のようなものだった。

* * *

 それから数日後。

 エリアは、短い詩をひとつ、ソフィーナ姫に手渡した。

 > 『ちいさな剣』
 >
 > わたしは 剣を持たない
 > でも こえがある
 >
 > だれかがないたとき
 > だれかがふるえたとき
 >
 > わたしは こえで守る
 > それが わたしの剣

 ソフィーナは、それを静かに読んで――やがて、ゆっくりと頷いた。

 「……あなたの剣も、ちゃんと強いわ」

 「え?」

 「その詩を読んだら、わたし……なぜか、泣きそうになったの。
  誰かの“声”って、時に剣より鋭くて、やさしいのね」

 その言葉に、エリアは思わず目を見開いた。

 (……わたしの言葉が、届いた?)

 ソフィーナが微笑む。

 「きっと、あなたも“戦える”。あなたの場所で」

 エリアは、小さく――けれど、はっきりと頷いた。

 「……わたし、自分の“ちいさな剣”をもっと磨いてみる」
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