婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第9話:盗まれた言葉、揺れる名

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それは、王都の文芸市場で静かに広まり始めた。

 《風月の詩人・イリス》――そう名乗る無名の詩人が、自費出版した小冊子。
 内容は短編詩が20篇ほど。
 だが、その中のいくつかが、エリアの未発表原稿と酷似していた。

 「これ……わたしの“ことば”だよ……?」

 最初にその詩を読んだとき、エリアは一瞬、目の焦点を失った。

 “ちいさな剣”の構成と句回し。
 “あいだに立つ”という象徴的な表現。
 そして、“わたしはまだちいさい”という冒頭の句――

 まるで、自分の心を誰かが盗んで、勝手に語っているような。

 「どうして……どうして、こんなことに……」

* * *

 「エリア。まず、落ち着きなさい」

 駆け寄ったレイナは、娘の肩を抱いて静かに話しかけた。

 「これは、偶然ではないわ。あなたの原稿に目を通す立場にあった者の仕業。
  もしくは、“あなたの言葉”に嫉妬した誰かが、意図的に模倣した」

 「……でも、それが“評価”されてるの。
  “イリスの詩は、エリアよりも大人びている”って、言ってる人もいたの……!」

 エリアの声は、涙まじりだった。

 「わたし、怖くなったの。
  “自分の言葉”が、“誰かの名”で褒められてるのが……苦しくて、悔しくて……!」

* * *

 その晩、アレクシスは屋敷の警備隊長と面談し、
 王都での「文芸流通ルート」と「風月の詩人・イリス」の印刷元を特定させていた。

 「――即日、調査を開始。
  場合によっては、王政の名において“出版停止命令”を発令する」

 「お父様……!」

 「君の言葉を盗んだ者は、君を“否定した”のと同じ。
  これはもう、家庭の問題じゃない。
  名乗った時点で、君の名前は守られるべき“公の誓い”でもある」

 アレクシスの言葉に、エリアはしばらく沈黙して――

 「……ありがとう。
  でも、わたし……“止めたい”より、“伝えたい”って思ってる」

 「……伝えたい?」

 「“これは、わたしの言葉です”って、
  ちゃんと、みんなの前で言いたいの。盗まれたからって、わたしの心まで奪われたくない」

 その言葉に、レイナが静かに目を伏せ、そして強く頷いた。

 「――ならば、用意しましょう。“あなたの声が響く舞台”を」

* * *

 翌日。

 王妃陛下の指示により、王政文化庁と詩学局が共同開催する朗読会に、
 **「正式にエリア・グランデ名義での登壇」**が発表された。

 それは、王都の文芸関係者にとっても一種の“宣戦布告”だった。

 > 「彼女の詩を模倣した者が現れたなら、
 >  正真正銘の“声”で、それを超えてみせればいい」

 王妃のこのひとことは、王政記録にすら刻まれた。

* * *

 その夜。

 エリアは、自室で新しい詩を書いていた。

 > 『わたしの声』
 >
 > うばわれても うつされても
 > ほんとうのこえは まがらない
 >
 > だれがとなえても それはちがう
 > わたしが わたしで あるかぎり
 >
 > こえは わたしの たからもの

 原稿を閉じたその瞳には、もう迷いはなかった。

 「わたしの声を――わたしの名前で、伝えたい」
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