婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

文字の大きさ
50 / 70
第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第10話:声を取り戻す朗読会

しおりを挟む
朗読会当日。

 王都中心部の王政詩学会館――
 舞台は落ち着いた灯の中、騎士の衛兵ではなく、文官と聴衆によって静かに満たされていた。

 今日の目玉登壇者はただ一人。
 エリア・グランデ。

 あの「胎の王」と呼ばれた少女が、母の名ではなく“詩人”として登壇するのは、これが初めてだった。

 ざわつく周囲。
 「グランデ家の娘が出るとは」「盗作問題を語るのか」といった声がささやかれる。

 それでもエリアは、怯まなかった。

 この舞台は、“戦う場所”ではなく、“帰る場所”。

 そう信じていたから。

* * *

 開演の鐘が鳴り、舞台中央に少女がひとり立つ。

 まだ十一歳。
 けれどその背筋は、誰よりもまっすぐだった。

 「本日は、お集まりいただきありがとうございます。
  わたしは、詩人・エリア・グランデです」

 まずは、静かな名乗り。
 観客席がそっと静まりかえった。

 「この数週間、わたしの詩とよく似た詩が、“別の名前”で広まったことを知りました。
  でも――わたしは、その人を責めるためにここに来たのではありません」

 ざわっ、と小さなざわめき。

 エリアは言葉を重ねる。

 「むしろ、わたしはその人に“ありがとう”を言いたい。
  だって、わたしの詩が“誰かにとって必要だった”ってことが分かったから」

 「だから今日は、その詩を、“本来の声”で読ませてください」

 そして、朗読が始まった。

 > 『ちいさな剣』
 >
 > わたしは 剣を持たない
 > でも こえがある
 >
 > だれかが ないたとき
 > だれかが ふるえたとき
 >
 > わたしは こえで守る
 > それが わたしの剣

 声は震えていなかった。

 どこまでも、澄んでいた。

 それが「生まれた言葉」だと、誰もがわかっていた。

 読み終えたあと、エリアは頭を下げて席に戻った。

 一瞬の沈黙――そして、嵐のような拍手が会場を包んだ。

 “似ている”ではない。
 “同じ構成”でもない。
 “これは、エリアの声だ”と、誰もが確信していた。

* * *

 その日の夜、王政詩学会館の控え室に、
 一通の手紙が届いた。

 差出人:イリス(仮名)。

 > 『あなたの声は、本当に強かった。
 >  わたしが、あなたの言葉を“借りた”理由は一つ。
 >  あなたになりたかった。
 >  けれど、朗読を聞いて分かりました。
 >  あなたの詩には、“書いた人間の体温”がある。
 >  わたしのものには、それがなかった。
 >
 >  これは、返却です。
 >  あなたの剣を、どうか、持ち続けて』

 封筒には、小さな押し花が添えられていた。

 レイナが封筒を読み終えると、エリアはただ一言。

 「……よかった。“戦い”にならなくて」

 「ええ。あなたが“剣を振るわずに守った”ということよ」

* * *

 翌朝、詩学局の掲示板にはこう記された。

 > 《本年度文芸賞・若手詩部門、エリア・グランデ嬢の詩集に授与決定》
 > 《選考理由:“象徴”ではなく“声”として響く詩に、新時代の希望を見出したため》

 エリアはその掲示を見て、ただひとこと、呟いた。

 「――これからも、書きたい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

処理中です...