婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第13話:言葉が交わる、手紙の午後

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 「エリア嬢、今朝だけで五通です」

 詩学局の書生が笑いながら差し出したのは、
 セリディア女学院の少女たちから届いた、花模様の封筒たちだった。

 「……わあ。こんなに……?」

 思わずこぼれる笑顔。

 机の上に並べられた封筒には、丁寧に書かれた差出人の名。
 手紙のひとつを開いて、エリアはそっと読み始めた。

 > 『エリア様。あの日の朗読、心に残っています。
 >  わたしも“こわがり”だけど、あなたが“こわくても言葉を書いた”と知って、
 >  わたしも一行だけ、書いてみました。
 >  ――“わたしの声を、誰かが待ってるかもしれない”』

 その一文に、胸がぎゅっと締めつけられる。

 (……わたし、たしかに“届いた”んだ)

* * *

 午後、屋敷の中庭で。

 エリアは、母・レイナに手紙の一部を見せながら、嬉しそうに語っていた。

 「ねえお母様、この子ね、“詩は苦手だけど、日記なら書けるかも”って。
  “書くこと”の意味って、きっと“詩”じゃなくてもいいんだよね?」

 「そう。大切なのは“自分の言葉で綴ること”。
  だから、日記でも、手紙でも、それはもう立派な“声”よ」

 レイナは紅茶のカップを傾けながら、静かに微笑む。

 「でも……」

 「でも?」

 「わたし、少しだけ、怖くもなってるの。
  “たくさん届いてる”ってことは、“そのぶん失う怖さ”も増えるってことだって」

 レイナは黙って頷いたあと、ゆっくりと言葉を選ぶ。

 「その感覚は、きっと“表現者”の証よ。
  誰かに届いた分だけ、もう一度、誠実でいようとする。
  それって、すごく尊いことだわ」

 エリアは、そっと頬を赤らめながら、膝に置いたノートを開いた。

 「……じゃあ、もう一冊、書いてもいいかな。
  詩集、第2巻」

 「もちろん。“第1巻”を必要とした子たちが、
  次の“灯り”を待っているかもしれないから」

* * *

 その夜。

 レイナは、王妃陛下に宛てて一通の草案を仕上げていた。

 > 《王政参与レイナより意見書》
 > 『女学院・少年教育における“自由詩・自己表現”のカリキュラム導入提案』
 >
 > 『自らの声を言葉にする力は、政治的発言とは異なります。
 > それは、生きるための言語であり、自己の安全の確保でもあります。』
 >
 > 『“書くこと”を学ぶ機会は、特権階級に限られてはなりません』

 筆を置いたあと、彼女は窓の外を見やった。

 満月が照らす庭で、エリアが机に向かってペンを走らせている。

 (この子の歩いた道が、誰かの“道標”になりますように)

* * *

 エリアが書いた新しい詩の冒頭は、こうだった。

 > 『たったひとつの便箋から』
 >
 > ふくろうの羽音みたいに
 > 静かに届いた 一枚の手紙
 >
 > そこにあったのは
 > “ありがとう”と、“わたしも”という声
 >
 > その二つがあれば、
 > わたしはまた 書ける気がした
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