55 / 70
第三部「継ぐ者の光、試される未来」
第15話:ミルという名の声
しおりを挟む
詩学局の文官が、いつものように封筒を一通差し出した。
「今日は、正式に“お名前”が添えられていましたよ」
その言葉に、エリアの胸が少しだけ熱くなる。
封筒の裏。
小さな文字で書かれていたのは――**「ミル」**という名。
前の手紙とは違い、インクも筆跡もはっきりしていた。
何より、そこには“覚悟”のような温度が宿っていた。
> 『エリア様
>
> あなたの詩、読みました。
> “まだ名を知らぬあなたへ”――あれは、きっとわたしへの詩だと感じました。
>
> 正直、まだすこし怖いです。
> でも、あの詩を読んで、はじめて“やさしい言葉が刺さらなかった”気がしたんです。
>
> わたし、詩人じゃないけど……。
> 書いてみました。返事の、ようなものです。
>
> ――ミル』
封筒には、手書きの詩が一篇、添えられていた。
> 『ことばのそば』
>
> だれかのことばが 遠くで光って
> わたしは そこに手をのばす
>
> でも つかまえようとすると
> ことばは ふわりとにげる
>
> それでも そばにいてくれたら
> わたしは たぶん また歩ける
>
> ありがとう とか
> ごめんね とか
>
> まだ言えないけど
> いつか言えるといいな
その詩を読み終えたとき、エリアは涙をこらえきれなかった。
(……ミルさん、あなたはもう、詩人だよ)
届いた“返詩”は、確かに、どこまでも柔らかく、どこまでもまっすぐだった。
* * *
数日後。
エリアは、詩集第二巻の最終編集会議で「あとがき」について尋ねられた。
「“あとがき”に、誰かへのメッセージを添えてみるのはどうか」との案に、
彼女はゆっくりとうなずく。
そして、その場で静かにペンを取った。
> 《あとがき》
>
> この詩集は、“わたしひとり”では生まれませんでした。
>
> 名前のない手紙から始まったやりとりが、
> たしかに、わたしの言葉を変えてくれたからです。
>
> 今、ミルという名前で詩を書いてくれたあなたに、
> この本を一冊、贈りたいと思います。
>
> わたしの“ちいさな剣”は、もう一人じゃない。
>
> ことばが重なるたびに、
> この世界はすこしずつ、“優しさの輪郭”を持ち始める気がします。
>
> ありがとう。
> あなたの詩が、わたしをまた歩かせてくれました。
>
> ――エリア・グランデ
その「あとがき」は、王都だけでなく、詩学を志す多くの学生たちの間でも話題となった。
詩人同士の“対話”として生まれた詩集――。
出版に際して、王妃陛下もこう述べたという。
> 「詩が“答える力”を持ち始めたとき――
> わたしたちの政もまた、耳を傾けなければならないと学ばされるのです」
* * *
その夜、エリアはレイナの隣で言った。
「ねえお母様。わたし、“誰かを守る”ためだけじゃなくて――
“誰かと話したい”って思って、書くようになったのかも」
「ええ。それが、“詩人”のはじまりよ」
母の微笑みに、エリアは静かに目を細める。
(ありがとう、ミル。
わたしの言葉に、あなたの声を返してくれて)
「今日は、正式に“お名前”が添えられていましたよ」
その言葉に、エリアの胸が少しだけ熱くなる。
封筒の裏。
小さな文字で書かれていたのは――**「ミル」**という名。
前の手紙とは違い、インクも筆跡もはっきりしていた。
何より、そこには“覚悟”のような温度が宿っていた。
> 『エリア様
>
> あなたの詩、読みました。
> “まだ名を知らぬあなたへ”――あれは、きっとわたしへの詩だと感じました。
>
> 正直、まだすこし怖いです。
> でも、あの詩を読んで、はじめて“やさしい言葉が刺さらなかった”気がしたんです。
>
> わたし、詩人じゃないけど……。
> 書いてみました。返事の、ようなものです。
>
> ――ミル』
封筒には、手書きの詩が一篇、添えられていた。
> 『ことばのそば』
>
> だれかのことばが 遠くで光って
> わたしは そこに手をのばす
>
> でも つかまえようとすると
> ことばは ふわりとにげる
>
> それでも そばにいてくれたら
> わたしは たぶん また歩ける
>
> ありがとう とか
> ごめんね とか
>
> まだ言えないけど
> いつか言えるといいな
その詩を読み終えたとき、エリアは涙をこらえきれなかった。
(……ミルさん、あなたはもう、詩人だよ)
届いた“返詩”は、確かに、どこまでも柔らかく、どこまでもまっすぐだった。
* * *
数日後。
エリアは、詩集第二巻の最終編集会議で「あとがき」について尋ねられた。
「“あとがき”に、誰かへのメッセージを添えてみるのはどうか」との案に、
彼女はゆっくりとうなずく。
そして、その場で静かにペンを取った。
> 《あとがき》
>
> この詩集は、“わたしひとり”では生まれませんでした。
>
> 名前のない手紙から始まったやりとりが、
> たしかに、わたしの言葉を変えてくれたからです。
>
> 今、ミルという名前で詩を書いてくれたあなたに、
> この本を一冊、贈りたいと思います。
>
> わたしの“ちいさな剣”は、もう一人じゃない。
>
> ことばが重なるたびに、
> この世界はすこしずつ、“優しさの輪郭”を持ち始める気がします。
>
> ありがとう。
> あなたの詩が、わたしをまた歩かせてくれました。
>
> ――エリア・グランデ
その「あとがき」は、王都だけでなく、詩学を志す多くの学生たちの間でも話題となった。
詩人同士の“対話”として生まれた詩集――。
出版に際して、王妃陛下もこう述べたという。
> 「詩が“答える力”を持ち始めたとき――
> わたしたちの政もまた、耳を傾けなければならないと学ばされるのです」
* * *
その夜、エリアはレイナの隣で言った。
「ねえお母様。わたし、“誰かを守る”ためだけじゃなくて――
“誰かと話したい”って思って、書くようになったのかも」
「ええ。それが、“詩人”のはじまりよ」
母の微笑みに、エリアは静かに目を細める。
(ありがとう、ミル。
わたしの言葉に、あなたの声を返してくれて)
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる