婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第19話:こえのまえ、こえのあと

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その朝、王都の詩学局には、緊張と喜びが入り混じる空気が流れていた。

 テーブルの上に並べられた、まだインクの香りが残る詩集たち。
 表紙には、銀の箔押しで小さくこう書かれていた。

 > 『こえのまえ、こえのあと』
 >  ――少女たちによる、最初の声の記録

 本文中には、エリアとミルの名前のほか、匿名や仮名で寄せられた詩も含まれていた。
 どれも長くはない。
 けれど、“書いた人の心”が、そのままそこに在った。

* * *

 「この本は、“伝えるための本”じゃなく、“そばにいてくれる本”になったと思う」

 手渡し式で、エリアはそう語った。

 少女たちは、誰かの詩を抱きしめるようにしてページをめくっていた。

 「……わたし、詩を“読む”だけじゃなく、“もらった”気がする」

 そう呟いたのは、あの無名で参加した少女だった。

 ミルは、そっと彼女の肩をたたいた。

 「うん。“ことばを受け取る”って、きっとそれだけでつながってるんだよ」

* * *

 その日の午後、王妃の執務室にて。

 一冊の詩集が、静かにテーブルに置かれた。

 届けたのは――王政議員・エルミーナの令嬢、リーネ。

 「この詩集を読みました。そして、わたしも詩を書いてみたのです。
  もしよろしければ、それを“議場に提出”させていただけませんか」

 王妃は静かに目を見開いた。

 「それは……“政”へ向けての詩、ということかしら」

 「はい。でも、“批判”ではなく、“問いかけ”です」

 リーネが差し出した紙には、こう綴られていた。

 > 『どうしてわたしたちは、まだ黙るの?』
 >
 > おとなたちは こどもに言う
 > “いずれ分かる”“今は静かに”
 >
 > でも こえは 待てないときもある
 > だれかが 泣いてるときは なおさら
 >
 > だから ききたい
 > “今 こたえて”って言ってもいいですか?

 王妃は、詩を読み終えてから静かに微笑んだ。

 「……届けましょう。
  “こえを運ぶのが、政治の最初の役目”ですものね」

* * *

 一方その頃。

 エリアとミルは、書庫の片隅で新しい詩を書き始めていた。

 「ねえ、ミル。もし“次の本”があるなら、何をテーマにしたい?」

 「そうだなぁ……“迷ったままで、書いたこと”。
  ……つまり、“こたえが出なかった詩”を、まとめてみたい」

 エリアはその言葉に、はっとした顔をして、うなずいた。

 「“わからないまま書いた詩”って、きっといちばん、“本音”に近いのかも」

 ふたりはノートを開き、こう綴り始めた。

 > 『まだわからない』
 >
 > こたえが出ないまま
 > かんがえて かんがえて
 >
 > でも ことばにしてみたら
 > すこし やわらかくなった
 >
 > これって まちがいかな
 >
 > でも わたしは
 > それでも 書いていたい

 それはきっと、
 少女たちの“未来に向かう声”のあり方を、誰よりも静かに示すものだった。
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