婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

文字の大きさ
61 / 70
第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第21話:詩の交歓祭、はじまりの鐘

しおりを挟む
 「――詩を語るだけの祭りがあっても、いいと思うんです」

 そう提案したのは、王政文化庁付きの若き文官だった。
 『こえのまえ、こえのあと』の詩集が静かな注目を集めるなか、
 王都では、**“ことばによる交歓祭”**の開催が検討され始めていた。

 主催は王政文化庁。
 協賛に詩学局と王宮図書館。
 そして、実行委員として名前が挙がったのは――

 「詩人・エリア・グランデと、ミル・リース嬢」

 ミルは驚き、エリアはわずかに口元を引き結んだ。

 「……実行委員って、つまり“顔”になるってことだよね?」

 「うん。わたしたちの名前が、正式に“祭”に掲げられるってこと」

 けれど、それは同時に、“こえの責任”を持つということでもあった。

* * *

 祭の名は――「ことばの海、こたえの光」。

 国内の若い詩人たちだけでなく、
 リュミエール領や東方連邦からも、詩を愛する少年少女たちが推薦参加する予定となった。

 「これって……国の中だけの話じゃなくなるってことだよね」

 ミルがぽつりと言った。

 エリアはうなずいた。

 「でもね、ミル。わたし、嬉しい。
  “あの頃のわたし”が、声を出せなかった時に、この祭があったら――って思うから」

* * *

 準備は想像以上に大変だった。

 詩の発表形式、朗読順、展示空間の構成。
 誰の詩をどう“光のあたる場所”に置くか。

 「ねえ、エリア。どうして“有名な子”の詩ばかり、前に置こうとするの?」

 「それは……運営側の“話題性”を考えてって……」

 「でも、“光がないと見えない詩”より、“光に触れたことのない詩”を先に見てほしい」

 ミルの言葉に、エリアははっとした。

 (わたし……“わかってるつもり”になってたんだ)

 かつて“名を出せない側”だったミルの声は、
 誰よりも“影にいる声”への誠実さを持っていた。

* * *

 祭の開幕まで、あと十日。

 王政広報庁からは、**「詩を持ってくるだけで参加できる一般投稿枠」**が設けられることとなった。

 誰でも、どんな年齢でも。
 “詩を書いた”という事実だけで、舞台のどこかにその声が展示される。

 それは、この国で初めて行われる、**“答えのいらない声の祭典”**だった。

 レイナはその報を聞き、静かに笑う。

 「……ようやく、国が“こたえなき問い”を抱える余白を持てるようになったのね」

* * *

 その夜。
 ミルは部屋で一人、詩を綴っていた。

 > 『さいしょのままの声で』
 >
 > わたしは まだうまく書けない
 > きれいな言葉は ぜんぶ借り物みたいで
 >
 > でも それでも まちがってても
 > さいしょのままの声で
 >
 > あなたに 「ここにいるよ」と言いたい

 ミルは、その詩を一枚の紙に清書し、封筒に入れて、こう書いた。

 「当日、展示のいちばん隅に置いてください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...