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第三部「継ぐ者の光、試される未来」
第24話:名を知らずに届いた声
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祭の最終日。
セレナは、手紙のような返詩カードを握りしめていた。
それは、ミルが彼女の詩にそっと添えてくれた“返事”。
> 「これは あなたが“わたしの声を守ってくれた”詩です」
その一行を読んだとき、セレナは自分の胸の奥にずっとあったもの――
「どうせ誰も読んでくれない」という思い込みが、少しだけほどけていくのを感じていた。
(この人に、会いたい)
詩の作者名は「ミル・リース」。
聞き覚えのない名前。
でも、詩で語りかけてくれたその人に、直接「ありがとう」を言いたいと思った。
* * *
会場の花壇のある中庭。
案内係の導きで、セレナがそこに立ったとき――
ベンチに座っていた銀髪の少女が、振り返った。
「……もしかして、セレナさん?」
その声に、セレナは言葉が出なくなった。
けれど、ミルは微笑みながら立ち上がり、静かに手を差し出した。
「はじめまして。ミルです。
……あなたの詩、とても好きでした」
セレナは、震えるようにしてその手を握った。
「わたし……ミルさんの詩で、“ことばを書いてもいい”って思えたんです。
だから、“ありがとう”を伝えたくて……」
ミルは一瞬、目を伏せてから、優しく頷いた。
「わたしも、あなたの“最初の詩”を受け取れて、本当によかった」
ふたりは、名前を名乗り合うよりも前に、ことばで触れ合っていた。
* * *
その夜。
祭のまとめとして、エリアは詩学局の簡易放送でこう語った。
「この祭は、“上手な詩”を集めたものではありません。
“上手じゃなくても、声がある”と証明した日々でした」
「ことばは、時に“記録”になり、時に“救い”になります。
けれど、何よりもまず、“誰かが生きていた証”です」
静かな拍手が、詩学局に集まった人々から送られた。
その言葉を遠くから聞いていたレイナは、ふと空を見上げる。
「……もう、“娘の言葉”ではなく、“この国の声”になったわね」
* * *
だが、王政の一角では別の動きがあった。
王政文化庁の上層部で、ある文官が小声で報告する。
「詩を通じた“匿名意見”の制度化が、政論分断の引き金になる恐れがあります。
すでに一部の詩が、“政策批判の匂いがする”と問題視され始めている」
別の議員が口を開いた。
「“詩で国を変えた”などという空気は、民衆にとって都合がよすぎる。
“ことばの海”が暴風になる前に、“境界”を引くべきでは?」
そして、ある草案が密かに回される。
> 《詩的意見における身元確認の義務化》
> 《公共展示詩の事前審査制導入に関する検討案》
詩を、誰が書き、どこへ届くのか――
その「自由」が、静かに測られ始めていた。
* * *
そのころ、ミルとセレナは中庭で、もう一つの詩を交換していた。
> 『ふたりのまえ』/セレナ
>
> あなたに であうまえ
> わたしは こえを持たなかった
>
> あなたに であってから
> わたしは こたえじゃなくて “ききたいこと”を持った
>
> それを ことばにできるって
> 今、わたし 思えてる
その詩に、ミルはゆっくりと頷いた。
「セレナさん。……今度は、あなたの詩が、だれかの“まえ”になる」
セレナは、手紙のような返詩カードを握りしめていた。
それは、ミルが彼女の詩にそっと添えてくれた“返事”。
> 「これは あなたが“わたしの声を守ってくれた”詩です」
その一行を読んだとき、セレナは自分の胸の奥にずっとあったもの――
「どうせ誰も読んでくれない」という思い込みが、少しだけほどけていくのを感じていた。
(この人に、会いたい)
詩の作者名は「ミル・リース」。
聞き覚えのない名前。
でも、詩で語りかけてくれたその人に、直接「ありがとう」を言いたいと思った。
* * *
会場の花壇のある中庭。
案内係の導きで、セレナがそこに立ったとき――
ベンチに座っていた銀髪の少女が、振り返った。
「……もしかして、セレナさん?」
その声に、セレナは言葉が出なくなった。
けれど、ミルは微笑みながら立ち上がり、静かに手を差し出した。
「はじめまして。ミルです。
……あなたの詩、とても好きでした」
セレナは、震えるようにしてその手を握った。
「わたし……ミルさんの詩で、“ことばを書いてもいい”って思えたんです。
だから、“ありがとう”を伝えたくて……」
ミルは一瞬、目を伏せてから、優しく頷いた。
「わたしも、あなたの“最初の詩”を受け取れて、本当によかった」
ふたりは、名前を名乗り合うよりも前に、ことばで触れ合っていた。
* * *
その夜。
祭のまとめとして、エリアは詩学局の簡易放送でこう語った。
「この祭は、“上手な詩”を集めたものではありません。
“上手じゃなくても、声がある”と証明した日々でした」
「ことばは、時に“記録”になり、時に“救い”になります。
けれど、何よりもまず、“誰かが生きていた証”です」
静かな拍手が、詩学局に集まった人々から送られた。
その言葉を遠くから聞いていたレイナは、ふと空を見上げる。
「……もう、“娘の言葉”ではなく、“この国の声”になったわね」
* * *
だが、王政の一角では別の動きがあった。
王政文化庁の上層部で、ある文官が小声で報告する。
「詩を通じた“匿名意見”の制度化が、政論分断の引き金になる恐れがあります。
すでに一部の詩が、“政策批判の匂いがする”と問題視され始めている」
別の議員が口を開いた。
「“詩で国を変えた”などという空気は、民衆にとって都合がよすぎる。
“ことばの海”が暴風になる前に、“境界”を引くべきでは?」
そして、ある草案が密かに回される。
> 《詩的意見における身元確認の義務化》
> 《公共展示詩の事前審査制導入に関する検討案》
詩を、誰が書き、どこへ届くのか――
その「自由」が、静かに測られ始めていた。
* * *
そのころ、ミルとセレナは中庭で、もう一つの詩を交換していた。
> 『ふたりのまえ』/セレナ
>
> あなたに であうまえ
> わたしは こえを持たなかった
>
> あなたに であってから
> わたしは こたえじゃなくて “ききたいこと”を持った
>
> それを ことばにできるって
> 今、わたし 思えてる
その詩に、ミルはゆっくりと頷いた。
「セレナさん。……今度は、あなたの詩が、だれかの“まえ”になる」
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