婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます

春夜夢

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第三部「継ぐ者の光、試される未来」

第25話:詩と制度、そのあいだで

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 「――“誰でも詩を書いていい”というのは、危うさと表裏一体です」

 王政文化庁・内政局のとある審議室。
 この日、閉じられた場で交わされた会話は、交歓祭とはまるで違う冷たい色を帯びていた。

 「詩が“政治的声明”に変わる可能性は十分にあります。
  とくに、身元が不明のまま寄せられる“匿名詩”は、煽動にすらなり得る」

 ある文官が、冷静に言った。

 「我々は、“こえ”を否定しているのではない。
  ただ、“制度の外で声を持つ手段”に一定の輪郭を与えなければ――」

 そこで、一つの草案が読み上げられた。

 > 《王政展示詩に関する予備措置案》
 > ・14歳以下の意見詩に限り、身元開示の同意制を導入
 > ・“政に関わる表現”は、事前審査対象とする
 > ・内容によっては、“教育的視点からの修正勧告”を出す権限を庁に付与

 これは、**“自由の顔をした制限”**の始まりだった。

* * *

 一方、エリアは王宮の回廊を歩きながら、レイナと肩を並べていた。

 「お母様。……わたし、“書くこと”で誰かを守りたいって思ってたけど、
  最近、それが“誰かを傷つける理由にされる”んじゃないかって、不安になります」

 レイナは足を止め、石畳の床に映る娘の影を見つめた。

 「エリア。自由な声は、ときに“恐れられる”の。
  それはね、誰も制御できないものだから。
  でも――だからこそ、責任ある言葉には“力”がある」

 「……責任、ですか?」

 「ええ。“誰に伝わるか”を考えて言葉を選ぶ。
  “届いたあと”を想像して書く。
  それができる人は、自由の中に“道”を引ける」

 エリアは静かに頷いた。

 「……それなら、わたし、書き続けたい。
  “誰かを傷つけない言葉”じゃなくて、“誰かを孤独にしない言葉”を」

* * *

 その夜。
 セレナは、自分の部屋で新しい詩を書いていた。

 > 『だれかのまえ』
 >
 > きっと わたしのことばは
 > また まちがうかもしれない
 >
 > でも だれかの“こえのまえ”に
 > わたしのことばがあったら
 >
 > その人は すこしだけ
 > うまく息ができるかもしれない

 彼女はこの詩に、初めて“宛名”をつけた。

 > 「エリアさんへ」

 “祭の主催者”としてではなく、
 “自分の書きたいと思えた日をくれた人”として。

* * *

 そして、翌日。

 王政議会の会議棟では、草案が正式に“検討段階”として読み上げられる。

 だがその直後――王妃が静かに発言する。

 「……この国における“詩”とは、“答えを求めぬ問い”です。
  それに“形式で返す”ことこそ、制度の敗北ではありませんか?」

 空気が一瞬、凍る。

 「制度は、声を囲う檻ではなく、声を聞く耳であるべきです」

 レイナもその場に立ち、こう続けた。

 「わたしたち大人の仕事は、“管理”ではなく“信頼”から始まるべきです」
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