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第三部「継ぐ者の光、試される未来」
第27話:恋とことばの距離
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「……あなたのことを考えると、筆が止まるの。
でも、考えずに書こうとすると、あなたのことばかり浮かんじゃう」
ミルは、エリアの見えないところで、そう呟いていた。
“友情”という名の安心を越えた場所に立ってしまった感情。
それはまだ「恋」だと言い切れない。
けれど、「ただの友達」とは、もう呼べない。
その狭間で揺れる心に、ことばが追いつかなくなっていた。
* * *
一方、エリアもまた、悩んでいた。
あの詩――
**「名前なんてなくても、あなたの隣にいたい」**と書いた自分の本音。
ミルはその詩に、何も言わずに手を握ってくれた。
けれど、それが「伝わった」のか「気づかないふり」なのか、わからなかった。
(……わたし、詩なら書けるのに。言葉では何も言えない)
その夜、エリアは机に向かって筆をとったが、珍しく何も書けなかった。
そして、初めて日記にこう記した。
> 『この感情に名前がないなら、
> わたしが名前をつけるしかない。
> でも、もし名前をつけてしまったら――
> 今の関係に、戻れなくなる気がして、怖い』
* * *
一方その頃、セレナとルディは王都の図書館の裏庭で、久しぶりに顔を合わせていた。
「この前の詩……ありがとう。
“好き”って書かれてたわけじゃないのに、すごく、伝わった」
セレナが照れくさそうに言うと、ルディは目を逸らしながら言った。
「俺……気持ちを伝えるの、ああいう書き方しかできなくて」
「うん。わたしも、そういう書き方しか受け取れないから、ちょうどよかった」
ふたりは笑い合った。
言葉にせず、でもわかり合える距離感がそこにあった。
そして、ルディがふと差し出した小さな紙片。
> 『いちばん近いことば』
>
> 君が書く詩が 誰かに届いて
> 君が笑ってくれるなら
>
> それが たとえ“俺に向けた詩”じゃなくても
>
> それでも俺は――
> 君の詩が 世界でいちばん好きだ
セレナは紙を胸に当て、黙ってうなずいた。
* * *
その翌日。
王政文化庁では、詩に関する**新たな“運用規定案”**が発表されようとしていた。
- 一定の年齢以下の詩には身元開示の義務を設ける
- 公共空間に展示する詩は事前審査制とする
- “感情表現の暴走”を防ぐため、感受性教育ガイドラインを同時制定
それは明らかに、“ことばの自由”への逆風だった。
草案の文書を読んだレイナは、重い沈黙のあとに言った。
「“過激な思想”より、“揺らぐ気持ち”のほうが、政にとってはよほど怖いのね」
王妃もうなずく。
「ええ。“まだ名前のない感情”が育つ場所を、
政は“予測できない”からこそ、閉じ込めたがる」
* * *
その夜、ミルは小さな封筒に詩を入れた。
宛名は書かれていない。
けれど、その中身はエリアに向けて綴られたものだった。
> 『すぐそばにいたい人へ』
>
> もし この気持ちに名前をつけたら
> わたしは あなたのそばにいられなくなるかもしれない
>
> でも 名前がなくても
> わたしの心は もうずっと あなたに向かってる
>
> あなたが わたしの詩を読んで
> 一歩でも近づいてくれたなら
>
> それだけで 今のわたしは
> 充分に しあわせです
それは、“恋”とも“友情”とも名づけない、
でも確かに誰かを想った証だった。
でも、考えずに書こうとすると、あなたのことばかり浮かんじゃう」
ミルは、エリアの見えないところで、そう呟いていた。
“友情”という名の安心を越えた場所に立ってしまった感情。
それはまだ「恋」だと言い切れない。
けれど、「ただの友達」とは、もう呼べない。
その狭間で揺れる心に、ことばが追いつかなくなっていた。
* * *
一方、エリアもまた、悩んでいた。
あの詩――
**「名前なんてなくても、あなたの隣にいたい」**と書いた自分の本音。
ミルはその詩に、何も言わずに手を握ってくれた。
けれど、それが「伝わった」のか「気づかないふり」なのか、わからなかった。
(……わたし、詩なら書けるのに。言葉では何も言えない)
その夜、エリアは机に向かって筆をとったが、珍しく何も書けなかった。
そして、初めて日記にこう記した。
> 『この感情に名前がないなら、
> わたしが名前をつけるしかない。
> でも、もし名前をつけてしまったら――
> 今の関係に、戻れなくなる気がして、怖い』
* * *
一方その頃、セレナとルディは王都の図書館の裏庭で、久しぶりに顔を合わせていた。
「この前の詩……ありがとう。
“好き”って書かれてたわけじゃないのに、すごく、伝わった」
セレナが照れくさそうに言うと、ルディは目を逸らしながら言った。
「俺……気持ちを伝えるの、ああいう書き方しかできなくて」
「うん。わたしも、そういう書き方しか受け取れないから、ちょうどよかった」
ふたりは笑い合った。
言葉にせず、でもわかり合える距離感がそこにあった。
そして、ルディがふと差し出した小さな紙片。
> 『いちばん近いことば』
>
> 君が書く詩が 誰かに届いて
> 君が笑ってくれるなら
>
> それが たとえ“俺に向けた詩”じゃなくても
>
> それでも俺は――
> 君の詩が 世界でいちばん好きだ
セレナは紙を胸に当て、黙ってうなずいた。
* * *
その翌日。
王政文化庁では、詩に関する**新たな“運用規定案”**が発表されようとしていた。
- 一定の年齢以下の詩には身元開示の義務を設ける
- 公共空間に展示する詩は事前審査制とする
- “感情表現の暴走”を防ぐため、感受性教育ガイドラインを同時制定
それは明らかに、“ことばの自由”への逆風だった。
草案の文書を読んだレイナは、重い沈黙のあとに言った。
「“過激な思想”より、“揺らぐ気持ち”のほうが、政にとってはよほど怖いのね」
王妃もうなずく。
「ええ。“まだ名前のない感情”が育つ場所を、
政は“予測できない”からこそ、閉じ込めたがる」
* * *
その夜、ミルは小さな封筒に詩を入れた。
宛名は書かれていない。
けれど、その中身はエリアに向けて綴られたものだった。
> 『すぐそばにいたい人へ』
>
> もし この気持ちに名前をつけたら
> わたしは あなたのそばにいられなくなるかもしれない
>
> でも 名前がなくても
> わたしの心は もうずっと あなたに向かってる
>
> あなたが わたしの詩を読んで
> 一歩でも近づいてくれたなら
>
> それだけで 今のわたしは
> 充分に しあわせです
それは、“恋”とも“友情”とも名づけない、
でも確かに誰かを想った証だった。
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